‐‐リーン(3)‐‐
「あ、来週から一週間は祝祭だって」
ショットが坂道の下の立て看板を指差して言った。
学校の授業を終えた午後、リーンはホーキンス、レイ、ショットと並んで広場へ続く細い坂道を下っていた。
「王位継承の年は、俺たちの儀式の後が祝祭になるんだっけ?」
レイがホーキンスに確認するように問う。この四人の中ではホーキンスが最も世事に精通している。
「ああ。普通学校も今週で卒業。卒業日の翌日に儀式があって、その後新王が王宮から国民に顔をお披露目……」
不意に彼らの後方から車輪の揺れる音が聞こえてきた。
四人は振り向くと同時に坂道の左右に飛び退いた。彼らの前の坂道を猛スピードで二頭立ての馬車が駆け下りていった。四人が馭者の後ろの屋根付きの車内に見たのはモールスとイルジーだった。
「何だよ、モールスのやつ。父親が中官だからって貴族気取りかよ」
レイの批判的な呟きをリーンがたしなめた。
「レイ、モールスたちは何も悪いことをしていないんだ。悪く言ういわれはない。坂道を横に並んで歩いていた俺たちが悪かった」
「そう言えば、リーンの親父さんも中官じゃなかったっけ? しかもまだ三十半ばの。リーンもやろうと思えば馬車で通学できるんだよな」
ショットが恨めしそうに言った。
「別に俺は金を払うほど家が遠くもないし、急いで帰らなきゃいけない用事もない」
ホーキンスが両腕を頭の後ろに組んで笑った。
「リーンらしいな」
広場に着くと、四人は分かれてそれぞれ看板の告知に目をやりながら自宅の方向へ帰っていった。
広場はいつもより賑やかだった。いくつも立てられた看板の周囲に人々が群がっている。どれも来週の祝祭で行うイベントの告知のようだった。
リーンは最も人がたかっていた看板の方へ向かった。
「あの、その看板には何が書いてあるんですか?」
人だかりの後方の若い女性に声をかけた。
「どうやら、ジェパームント様の一番弟子の御方が来週マジックショーに参加なさるらしいのよ」
「ジェパームント様の一番弟子!? それはすごいですね」
「そうなの。亡くなった先王には悪いけど、やっぱり祝祭はすばらしいわね」
――七賢人最強とも謳われる、偉大なる炎の魔法使いジェパームント様の一番弟子がショーに参加するのか。絶対観に行かなきゃな。
リーンにとってジェパームントは、七賢人の中で特に尊敬する魔法使いの一人だった。強く若く、そして自分の信念を曲げない勇敢さをもつ。先王の老衰が報道された一時期、新王の座に就くのはジェパームントだと噂されたこともあった。
その日から、儀式の日を迎えるまでの時間が、リーンにはとても長く感じられた。