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太陽の国  作者: ラジオ
第二章 魔法学校編
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~リーン、講堂へ出向く~

 翌週の週明けのことだった。授業前のホームルームを行うクラスの全員が集まる教室で、リーンたちは教官から、ただちに三学年それぞれの寮の中間地点に位置する講堂へ移動するようにとの指示を受けた。強張った教官の顔に生徒一同憂い顔で講堂へ向かった。

 講堂は一階建てだが、魔法学校生全員を収められる、三階建ての校舎以上の規模があった。リーンのクラスの席は一年生の一番後ろに並べられ、その後ろに二年生、三年生と続いている。リーンのクラスの生徒たちが用意されていた椅子に腰を下ろした時には、すでに三学年全クラスの生徒が揃いつつあった。

「静粛に!」

 生徒のざわめきを制するように、レイチェル教頭が壇上で声を張り上げた。生徒は全員揃ったようだった。

「このたび、あなたがた全魔法学校生を招集したのには、とても大事な理由があります。それと同時に、我々教官一同は常にあなたがたを信頼していることも、承知しておいていただきたいのです」

 女教頭のしょっぱなの口上は、いささか不穏の域を出ているとリーンは思った。何かよからぬ話が生徒たちを待ちうけているのは明白だった。

「王が代わられ、年号が『世変』となってからというもの、どうやら王国は年号通り少し荒れやすくなったのかもしれません。赤髪族の反乱にしても、我が魔法学校での事件にしても……」

 レイチェル教頭は含みをもたせるように一度言葉を切った。

「本題に入りましょう。実は本校にて、明らかに人為的と思われるとある事件が相次いで発生しています。我々は今、あなたがたは私が何のことを言っているのか理解できていないことを望んでいます。理解できれば、それは事件に深い関わりのある人物ということになってしまうからです。しかし、残念ながらこの事件は部外者が起こすような類のものとは考えにくいのです。その事件とは、生徒の立ち入りを固く禁止している本校舎の資格試験準備室から、いくつもの宝石が盗まれている、というものです。ただの宝石ではありません。もうみなさんご存知だとは思いますが、本校で資格試験を突破し、資格を取得した者には資格とは別に褒美の宝石を与えることになっています。生徒の心意気を鼓舞することが目的でしたが、実はその宝石には微量ながら魔法の力が宿っています」

 一年生の席の端々から「そうだったのか?」、「知らなかった」などの囁き声が聞こえた。

「その魔法の力とは、非常に高等な封印術によって宝石に封印された教官たち自身の精神の一部です。つまり、使いきりの力ではありますが、魔法を使用する際、その宝石に封じられた精神をも糧にすれば、今まで以上の魔法の力が発揮されます。魔法と共生する魔法使いは、常に無数の危険と隣り合わせでいなければなりません。数か月前の反乱はもちろん、この学校でも事故を完膚なきまでになくすことはできません。生徒同士の嫉妬や友情のもつれというものもあるでしょう。我々はそんないざという時、生徒の身を守る役に立てばと思い、褒美の宝石に魔法の糧となる精神を込めました。しかしそれが裏目に出たのか、近頃、その褒美のために用意していた宝石が資格試験準備室から立て続けに盗まれる事件が多発しています」

 教頭の話に耳を傾けつつも、一方で生徒たちの間には、魔法学校の暗く陰湿な噂が漂い始めていた。

 リーンの席の斜めに二つ三つ離れた席で、どうやら今回の事件との関係は不明だが、魔法学校の生徒には行方不明者も続出しているらしいという話がひそひそと交わされていた。おそらく噂の発祥地はリーンの視界の隅にぎりぎり入るホーキンスその人で、行方不明者にはベンジャミンも含まれている。

 リーンはまだベンジャミンがソーサラー認定されていないことに安堵しつつ、ベンジャミン以外に生徒の行方不明者がいることはまだホーキンスから聞いていなかった。タイミングが合わなかったため、ホーキンスはこの場で噂としてリーンにこのことを伝えようとしたのかもしれない。その証拠に、ホーキンスが一列前のだいぶ離れた席からリーンにウインクにも似た目配せをしてきていた。

 レイチェル教頭は言葉に抑揚をつけ、いかにも感情的に話をしていた。

「おそらく、犯人――もしくは犯人たちは、魔法の力を増幅させられることを知って何らかの意図のためにこのたびの犯行に及んだのでしょう。一人の人間による犯行なのか、それとも複数人による犯行なのか、はたまた複数人のそれぞれ別の意図のために、偶然同時期に犯行が行われたのか、まだ確かなことはわかっていません。確証はありませんが、今の状況ではあなたがた生徒を疑わざるを得ません。本当にそうならまことに遺憾ですが、もしも今回の事件を引き起こした者が生徒の中にいるのなら、すみやかに告白してもらうことを願います。もちろん、何かこの事件に関して情報を提供してくださることも大変ありがたいことです」

 女教頭はそこで言葉を切った。

 そろそろ教頭が壇上に立って十分強が経過しようとしていたので、誰もが教頭は話にピリオドを打ったのだと思った。しかし、レイチェル教頭が打ったのは「ピリオド」ではなく「コンマ」だった。

 遠目にも教頭の表情が冷たく鋭利になったのがわかった。再び発せられた言葉も、まるで脅迫でもするように一段と低められていた。

「なぜなら、今後の事件の進展いかんによっては、我々はあなたがた全生徒を一人ずつ拷問術にかけなければならなくなるからです」

 なぜそうする必要があるのか、教頭は口には出さなかったが、生徒たちはみな理解していた。この王国では、露見した犯罪はそれがどんな種類のものであろうと必ず何かしらの処置が下されなければならないからだ。

 民のためなのか王の個人的な意思なのか、定かではないが、とにかくこのまま犯人が姿を現さないのなら、本来ソーサラーにでもならない限り一生受けるはずのない拷問の苦しみを、魔法学校生全員が味わうことになる、教頭はそう告げていた。教頭の言葉は無味無臭で、拷問にかけなければならないことを切に悲しんでいるのか、学校の責任を回避するために生徒に犯人を探せと脅しているのか、真実は深淵の底の闇に沈んでいた。

 その後、すでに言うべきことを教頭に言われ尽くしていたためか、校長の話はほとんど世間話のまま終わり、教頭とは異なる言い回しで全生徒が拷問にかけられるかもしれないと告げて締めくくり、招集を解いた。

 その日、学校は招集によって遅れた時間を短縮授業によってやりくりした。

「ウラシル。今日の招集の教頭の最後の言葉……あれ、真意はわかったか?」

 寮の自室で、リーンは就寝前の習慣になっていたアリサへの手紙を書き終えてからルームメイトのウラシルに尋ねた。

「そもそもあの話が本当かどうか、実は怪しいところだと思うよ」

 ウラシルの返答は、その日リーンが聞いたものの中で最も新鮮だった。バースなどは、「こんなのとばっちりだろ……」と本気で嘆いてすらいた。

「この王国が犯罪をうやむやにしておかないのは確かだろうけど、処置の仕方は他にいくらでもあると思うんだ。その中からわざわざこんな酷なものを王宮が選ぶとは思えない」

「つまり、犯人に自白させるためのハッタリだったってことか?」

「確実にそうとは言えない。だからこそ生徒たちの不安が煽られているんだろうね。それに、生徒たち自身に事件を解決させるとまではいかなくても、今後王宮で起きた事件に無関心を貫くのではなく積極的になる気立てを培うことも目的の一つかもしれない。まあ、こういう複雑なことは、可能性は無限にあるってことだよ。本当に拷問されるんだと考えるなら犯人を探せばいいし、ハッタリだと判断するなら今まで通り魔法を学べばいい」

 リーンはバースのはたから見ても憐憫を思わせられる嘆きの表情を思い出した。

「このこと、明日バースに教えてやってもいいか? あいつのかわいそうな痩せっぽち神経じゃ、この先耐えられない気がするんだ」

 ウラシルは心の余裕を窺わせる笑みを浮かべた。一人で生きてきた者の強みが顕われているようだった。

「リーンのその仲間思いの行動も、学校側の目的の一つかもね」


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