~リーンとウラシル~
食堂での宴会のごとき風情にまでテンションの上がった談笑は、一時間ほどでお開きになった。ホーキンスとショットが、リーンにそれぞれ市販の魔道書と菓子を手渡した後、三組のペアは銘々の部屋へと散った。リーンとウラシルも三階の自分たちの部屋へ入室すると、ドアを開けてすぐのところに郵便物が届いていた。ドアの下方の専用の小窓から入れられたようだった。
「郵便物はこうやって届くんだ」
ウラシルは郵便物に視線を落としながら感心した。
「でも、これじゃあ、どっちに届いたものか判別がつかないね。今日に限っては想像がつくけど」
「どっちにしろ開けてみりゃわかるだろ」
リーンがその直方体の箱を拾い上げ、左右の壁際に備え付けられた二つの書き物机のうち、右側の自分の机に箱を載せて包装を解いた。リーンの隣からウラシルも覗き込む。
出てきたのは、さらなる立方体の箱とその下には封筒もあった。箱には紫水晶ことアメジストの指輪が入っていた。
「やっぱりリーン宛てだね」
ウラシルは早々に見切りをつけたように、自分のベッドに腰を落ち着けた。
リーンは封筒が自分宛てであることを確認してから開封し、中の手紙を開いてさっと全体に目を通した。すぐにアリサからのリーンへ宛てた手紙だと気付き、思わず目を丸くした。
――文字を書けるようになったのか!?
手紙の文面はややすうすうしていたが、どうやらアリサは本当に文字の読み書きをできるようになったようだった。内容はもちろんリーンの誕生日のお祝い……そして文通をしたいと言っているようにも取れるアリサにしては積極的なアプローチだった。
「おーい、リーン。それ、彼女さんからだったの?」
背後からのウラシルのからかい気味の言葉に、リーンはぎょっとした。ウラシルがニヤニヤしているのは目のついていない背中からでも見て取れた。
「顔真っ赤だね。求婚でも受けた?」
リーンは再び背中に電気でも流れたようにビクッとし、振り向かずに答えた。
「な、何言ってんだ。そんなわけねえだろ。だいたい、後ろから顔は見えねえよ」
「手紙読んだ直後に身体が硬直してたからばればれだよ。それに、こっちを振り向こうとしないのも、顔が火照ってるのが自分でもわかってるからなんでしょ? 求婚ってのはさすがに冗談だけど、好意を寄せる女の子から、ってのは正解だったのかな」
リーンは「そんなことねえって」と言いながら強がってウラシルの方を向いた。
途端、ウラシルが腹を抱えて「ぶはははは」と笑い出した。
「その顔でよく振り向く気になったね! 酒に弱い人がひと瓶の酒を空けてもそこまで赤くはならないって! どんだけその子のこと好きなのさ!」
再びウラシルが「ぶはははは」と笑い、ついにはベッドからゴトン、と大きな音を立てて落下し、それでもまだ笑い転げていた。
リーンはすっかりウラシルにもてあそばれたような気分になり、仏頂面を作った。
「お前、むかつくぐらいに笑い上戸だったんだな」
ウラシルの態度にむっとできたおかげで、ようやく少しずつ顔から血が降下していった。
「ウラシルの言う通り、実家に住んでいる俺たちとあまり年の変わらないくらいの女の子からだよ」
腹筋を押さえて手紙の相手を教えてほしいと懇願してきたウラシルに、リーンはそう告白した。
「この学校に進学するまでは同棲してたってこと?」
「まあそうだが、アリサが俺の家に来たのは祝祭の初日だ。そんなに長く一緒にいたわけじゃない」
「へえー。その短期間でよくそこまで発展したね。どっちから?」
ウラシルがいかにも自然なていを装って訊いたが、リーンには通用しなかった。
「そろそろ殴るぞ。別にそんな関係じゃないんだ。アリサは俺の父親が王国の外の砂漠に倒れていたところを助けて連れてきたんだ。アリサには自分の記憶がないから、それまで家で暮らさせてあげたい、ってな」
「記憶がない?」
リーンが予測した通り、ウラシルはそこに食いついた。
「ああ。それに、異常なまでの頭痛もたまに起こるらしい」
「記憶を失って砂漠に倒れていた、か。頭痛の方はわからないけど、やっぱりソーサラーにでも出くわしたってこと?」
「そうだろうな。おおかた、自分の姿を見られてやむを得ず記憶を消したんだろう。もし本当にそうなら、殺されなかったのが不幸中の幸いだ」
「ソーサラー……か」
ウラシルは唐突に何か哲学的な思考にでも耽り始めたような声音で漏らした。
「どうかしたのか?」
「後から気付かれて何で隠してたんだ、って言われても面倒だから今言っちゃうけど、実は、僕の両親は九年前にソーサラーに殺されたんだ」
リーンは一瞬言葉を失い、それから、不可抗力とはいえ、ソーサラーに繋がる話題を出した自分を責めずにはいられなかった。
「九年前に出現したソーサラー……デューバか」
「そう。デューバが自然魔法の研究所で殺した研究員十余名の中に、僕の両親も入っていたんだ。物心つき始めた頃でね、両親が殺されたと現場を見てきた下官の兵士から知らされた時のことは、今でも鮮明に覚えてるよ」
「魔法学校に入ったのは、敵討ちのためか?」
リーンが神妙な顔で問うた。
「まあ、僕がソーサラーの討伐隊に選ばれれば跡形もなく殺してやるだろうけど……知ってた? ソーサラーの国外での平均寿命は十年なんだよ。王国の魔法使いであるソーサラーなら、王宮の占星術師がそのうち居場所を特定できちゃうからね。僕がソーサラーの討伐隊に選ばれるような魔法使いになるには、もうしばらくかかる。だから、まあたぶん僕がデューバを殺すのは望み薄かな」
リーンはなぜだか俯きたくなった。こんなウラシルを見るのは初めてだったし、見たいと望んでもいなかった。
「そうだったのか。何か悪かっ……」
「いいよ。リーンに謝らせないために先に教えておいたんだ」
ウラシルは平生の接しやすい態度に戻った。
「完全に僕個人の問題なのに、リーンが気にする必要はないよ。リーンは正義感が強すぎると思うね。そのうち正義感と他の何かに板挟みになっちゃいそうで心配だよ」




