‐‐リーン(1)‐‐
まだ天に太陽が一つしかない時間だった。
いつにもない外の喧騒で、リーンは目を覚ました。ベッドの中にいても、新聞配りの少年たちの甲高い声が響いてくる。
「大変だ、大変だ! 号外、号外! 王様が、太陽の王が亡くなられた! すでに新しい王様も決まったぞー」
新聞配りの言葉を聞いてリーンの眠気は吹っ飛び、ベッドを飛び出して窓から外を一瞥した。リーンのいる部屋は三階で、他の家々よりも少しばかり高く、しかも線を描くように並ぶ住宅街の角高い場所に位置しているので、街がよく見渡せる。
レンガやコンクリートの人家は一つも飛び出ることなく、緩やかなカーブを描いて整然と並び、細い曲がりくねった石畳の道を形成している。リーンの家が接する広場は、商店街や学校などに続くいくつもの道と繋がっており、ポプラの木や花壇が設けられて彩色も豊かであるため、この地区の栄えある中心地と言えた。
しかし、今はほとんど人通りがなく、新聞配りの声を聞いた者は何かあったのだろうかとこちらに注意を向けている。リーンの家から広場を挟んで反対側の細く長い商店街の通りでは、商人たちが軒を連ねた屋台をせわしく準備している。まだ彼らの方には喧騒が伝播していないようだったが、この騒ぎでは時間の問題だと思われた。
リーンが右方の住宅街の薄暗い路地に目を向けると、立ち並ぶ住居の間で酷く狭くなった石畳の道を縫うように走りながら、少年たちが薄っぺらい一枚新聞を空へ放り、人々は何事かと玄関から顔を覗かせていた。新聞を拾った人たちは、みな同じように面喰った表情を隠し切れていない。
――ついに王が亡くなったのか!
喧騒に煽られるように、リーンも階段を駆け下り、外へ出た。まだ日差しはあまり強くはなかったが、一種の興奮状態になり、睡眠時に下がっていた体温が一気に上がっていく感じがした。
玄関から少し離れたところに、母親のテラがすでに新聞を手にして立っていた。リーンはちょうど頭上に舞ってきた新聞を掴み、記事に目を走らせた。安礼八十一年(王立一〇〇五一年)、先王が老衰によって亡くなったこと、享年一〇一歳だったこと、先王が亡くなる前に指名していた王位継承者は、まだ二十歳の男であること、来年からの年号は「世変」に決まっていることなどが載っていた。
この国の王位は世襲制ではなく、王自らが指名することになっており、王に選ばれる者は、国で最も強い魔法使いだとも言われている。まだ十二歳のリーンは、王が変わるのを経験するのは初めてだが、テラによれば、今まで民が王に対して反発したことはないという。いつの時代も、この国が絶対的な力をもった王の統治によって成り立っているのを誰もが承知している。しかし、王位が移るたびに国中がざわめき、民の間に一種の噂――貧民街の子供が王に選ばれた、七賢人が王を暗殺して王位についた、など――が流れるという。今回も例外ではなく、すでに人々はひそひそと噂話に花を咲かせている。
だが、リーンにとってそんなことはどうでもよく、今回の王位継承で一番心が惹かれることと言えば、リーンがもうすぐ新王に直に会えるということだった。この国では、十二歳になる年まで義務教育の学校に通い、卒業すると、王に直接会って大人になるための儀式を受けることになっている。そして王位が継承された年に限り、儀式の後に、一つ願い事を聞いてくれる。リーンは定めし、儀式はすっかり衰弱した老王が横になったベッドのそばで、静かに行われるだろうと思っていた。だが新王ともなれば、強力な魔法の一つも見せてくれるかもしれないし、それが叶わなくとも、リーンの夢について聞くくらいのことはしてくれるだろう。
「リーン! そろそろ学校の支度しなくていいの? 朝ごはんできてるわよ」
いつの間にかテラは屋内に引き返しており、キッチンの窓からリーンの方に顔を出していた。
自分の将来のことに時間を忘れられるほどには、リーンは思春期の純情な夢想家だった。