~アリサ in 影のお店(2)~
小男はしばらく考え込む様子を見せた。アリサの顔をちらちら見ながら、まるで何か企もうとしている嫌らしい顔つきをしている。それから何度か他の二人の男たちにも目配せをしながら、ついには気味の悪い薄笑いを浮かべながら答えた。
「はあ、しょうがねえなあ。こういうのはあんまり口外しないもんだが、嬢ちゃんには教えてやるよ。俺は光の住人共とは違って、寛大で立派な大人だからなあ。教えてやるには教えてやるが、あくまで他言無用だからな。まあ、言ったところであんた自身に害が降りかかるだけだろうが」
小男は長々とじらし、アリサは辛抱強く待った。
「実はな、俺たちは三人とも神呪力をもっているんだ。そんでもって、俺たちは三人とも別々の盗賊団のボスをやっているのさ。驚いただろ?」
「盗賊団……」
隣の小男に聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。
――この人たち、みんな悪い人だったんだ。
今さらのようにその考えに至った。どうして今までちっとも疑わなかったのか、何となく心がざわついた。
「さっきあんたが入ってきた時だって、俺たちぁ今度の共通の仕事で働いた時の金の取り分を決めてたんだ。依頼人からの報酬は金貨四十枚だ。随分な金額だろう? だから山分けしたとして誰が一枚多くもらうか、ってことになったわけよ。まあ、まだ二、三年先の話らしいけどな。そんで、ここはそういう裏の依頼を金で引き受ける場所だからよお、あんたが入ってきた時、そこの俺の向かいに座ってたドーベルが神呪力であんたの警戒心というもんを一時的に消し去ったのさ。依頼をしようとしても、やっぱりやめようなんて思う愚図の骨頂のごとき光の住人はいくらでもいるからなあ。ったく……」
――何だか自分らしくない違和感を感じると思った。私は警戒心を消されていたんだ。
そうは思っても、やはり小男の言う通り意識して警戒することはできなかった。
小男は新しく注がれた酒をあおった。喉を潤したところで、再び滑舌の悪い口を忙しく動かし始める。酔い始めたのか、ろれつが回らなくなっている。
「んで、どうやらあんた、見てくれはただの女じゃねえか。しかもまだ子供ときた。そんだから、俺たちはあんたが依頼をもってきたのか、それとも偶然、運がいいのか悪いのかこの店をみつけちまったのか、はたまた俺たち賊を捕らえにきた兵士が魔法かなんかで扮装してんのか、とかとにかくここに入ってきちまったあんたがどれにあたるのか、見極めなきゃいけなくなったってわけよ。そんで俺がまず声をかけてあんたの顔色を窺いながら神呪力を使ってみたのさ。俺たちを捕らえにくる上官あたりの兵士なら、俺たちの神呪力じゃ通じねえこともあるっぽいからな。だが、あんたはどうやら兵士じゃねえってことがわかった。そんで今度は、あんたが依頼人なのかそうじゃねえのか……」
「ちょっと待って」
アリサが声をかぶせて遮った。
「結局、おじさんの神呪力は何? それに、このお店をどうやって見つけたとか……まるで普通は見つけられないみたいに言ってたけど」
「おお、そうだった。悪かったな嬢ちゃん。俺は酒が入ると饒舌になっちまうのさ。自分の話したいことばっか話しちまう。酒乱じゃねえからな」
小男はまたぐびぐびとグラスを垂直にして酒を飲む。
「あんたが知りたがっていることは、実はどっちも一緒なんだぜ。俺の神呪力は、中指を折り曲げることで自分と視界にあるものの気配を消すことができるのさ。俺は普段、この店にいる間はこの店の気配をそばを通る人間から条件付きで消しているんだ。ずばり、人間関係に苦しんでいるやつを除いて、だ。どうよ、変わった神呪力だろ? 条件を提示できるなんて」
「ふーん。そこの人は何の神呪力をもってるの?」
アリサはバーテンダーの男を見ながら訊いてみた。
小男はバーテンダーとしばらく顔を見合わせてから、「はあ……」と首を横に振った。
「教えたくねえんだとさ」
「じゃあ、普段はどんな依頼を引き受けてるの?」
アリサが続けざまに問う。
男たちの顔色が様変わりした。顔に陰りが差し、表情もいくぶん厳かで危険な色を帯び始めている。
アリサは貧民街の人間のことを話す時のテラの顔を思い出した。だが、急な変貌を遂げることは同じでも、同類のものではないようだった。男たちには狂気的な雰囲気が漂っている。
小男がさっきまでとは空気の異なる低い声を発した。
「俺たちが引き受ける依頼はただ一つ……殺しだけだ」
小男が不気味にニヤリと笑ってみせ、黄色い出っ歯が異臭を放った。




