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太陽の国  作者: ラジオ
第一章 赤髪族反乱編
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‐‐リーン(5)‐‐

 床に就く前、リーンは久しぶりに火を点けていないランプをもって外の日光が届かない地下へ向かった。大きなことがあった後には必ず、父親が地下に残した手記を読み返す癖がある。「成長して」という単語が頭の中にぼんやりと残っていて、自分が一歩成長したと思ったら手記のことを思い出してしまうのだろう。

 地下への鍵は、幼い頃に父親に渡されてから肌身離さずもっている。テラにも鍵のことを言わないという約束は今でも遵守している。テラは地下の存在は知っていても、父親だけが入れる父親の部屋として認識している。

 階段を下りて地下室のドアの前に来ると、リーンは鍵を差し込み、二階で眠っているテラを起こさないよう静かに回した。まだ築年数の浅い建物のはずなのに、まるですっかり使い古されたドアのように大きな音を立てた。

 ランプを灯すと、地下室全体が黄色く照らされた。この狭い地下室を照らすには、ランプが一つあれば十分だった。

 左右の壁に書棚が三つずつ備え付けられ、間に挟むように書き物机が置かれている。一番奥の書棚には、まだ左右両方とも本があまり載っていない。リーンは左側の真ん中の書棚の一番下の段に手を伸ばした。父親の手記は、リーンが初めて鍵を渡された日に地下室中を漁り、一番目立たないこの場所で見つけた。

 ランプを机に置いて手記を広げる。

「リーンへ。この手記は、リーンが成長して私がいないうちに運命の天秤が大きく傾いたことに気付いた時、もしくは私の力が遺伝していた時のために残す。つまり、身に覚えのない力に目覚めた時、この手記を思い出してくれればそれでいい。

 この世には、大きく三つの力が存在すると言われている。それぞれ、いつどこで誕生した力なのかはわかっていない。三つの力とは、魔法、錬金術、そして神呪力だ。錬金術に関しては、私も実在するかどうかは訝しいところだと思っている。魔法はリーンにもなじみがあるだろう。だが、身に覚えのない間に魔法の力に目覚めることはない。その可能性があるのは神呪力だ。リーンなら魔法が全ての国で魔法でない力を使えばどうなるかは想像に難くないだろう。神呪力と錬金術の存在に関しては無論、他言無用だ。

 神呪力は人の強い願いによって生まれる力だと言われている。しかしその力は多くが謎に包まれた、まさに神秘だ。なぜこんな話をリーンにするかというと、私が神呪力を獲得した人間だからだ。つまり、リーンが神呪力を獲得してしまう可能性も大いにある。

 神呪力を獲得する条件について、私の出生を語る必要があるだろう。これはテラも知らないことだが、実は、私は貧民街で生まれ育った。母親と二人だけで、常に貧民街の人間であることを太陽の民に隠しながらな。私はまだ小さかったから、母親は二人分の食糧を調達してくる必要があった。母親は私のために調達できるだけのものを調達してきてくれたが、飢えを凌ぐ食べ物も、日の届かない貧民街の寒さを凌ぐためのものも、ほとんど私に与えた。そしてついに死んだ。最後はほとんど骨と皮だけになってな。私に神呪力が宿ったのはその時だ。これは個人的な見解だが、神呪力は自分が死に瀕した時、もしくはそれに類する出来事に遭った時に目覚めるようだ。だから、私はリーンに神呪力が目覚めることは望まない。私の場合、母親が遺してくれたものを、一生大切にしたいと願った。そして、『大切なもの』を対象にした神呪力を獲得したというわけだ。私はその直後、直々に現れた王に王宮で働かないかと誘われた。もちろん、王は私に神呪力が宿っていたことを承知していた。そして王宮で密かに教育を受け、十一歳で中官に任命された。神呪力の存在はこの国では隠す必要があったため、一番人目に立たない中官として働くことになったわけだ。それから私は今に至るまで大結界の外の調査を行っている。

 そろそろ神呪力の具体的な説明に入ろう。これから記すことは調査先で見聞きしたことだから、太陽の国の情報操作の影響は受けていない。先ほども述べたが、神呪力は自らの願いによって目覚める力で、大結界の外では、魔法を〈世界の運命をねじ曲げる力〉と定義し、神呪力を〈世界の運命を服従させる力〉と認識している国や町があるそうだ。神呪力は、願いによって生まれる力だが、一部、遺伝する神呪力も発見されている。使用時に粒子が発生することは魔法と同じだが、魔法の黒、白、透明の粒子に対して、神呪力は虹色の粒子が発生する。もしもリーンに身に覚えのない力が宿っていたら、真っ先に虹色の粒子を探すんだ。神呪力は魔法よりも使用部分への負担が大きい。魔法の過度な使用による精神弱体化と同じように、多用すると力の媒体が機能を失い、やがて死に至ると言われている。大結界の外では、神呪力は〈神〉に〈呪〉われた〈力〉として忌み嫌われていることもある。それは能力発現者の寿命が極端に短いことに由来する。以前調査対象の旅先の村で聞いた噂では、平均寿命が二十歳前後の一族があるという。

 私がここに神呪力について記すのには、リーンに神呪力が目覚めた時のため以外に、もう一つ理由がある。それは、リーンが自分以外の神呪力の覚醒者に出会った時のためだ。太陽の国の神呪力覚醒者は、なぜかほとんどが貧民街の人間だから文字すら読めないこともある。この国では上官や七賢人を除いて神呪力の存在を知る者はいない。街に溶け込むことはできないだろう。リーンには、その人をリードしてあげてもらいたいと思っている。

 神呪力に関して、さらに情報を得た場合は別紙に追記する。」

 手記はここで筆をおかれたきり、今のところ追記の記された手記は見つかっていない。

 リーンは何か大きな出来事があるたびに、この手記の追記がないか確かめに地下室へ来るのだった。成長した自分に神呪力が発現したことを証明する何か新しい兆しを求めていたのかもしれない。

 リーンは神呪力に憧れていた。この国では使いずらいものだったとしても、それで魔法の範疇を超えて人を守ることはできるだろうし、幸せにすることもできるだろう。何よりも魅力的に感じたのは、普通の人にはできないやり方で人を幸せにできるということだった。

 民は気付いていないだろうが、実際にリーンの父親も、その神呪力を活用して結界の外の調査をし、さまざまな情報を国にもたらしていることだろう。

 神呪力に関して考えるたびに、自分にその力が宿ってほしいと願った。力の種類によっては、太陽の国からソーサラーが生まれるのを防ぐことができるようになるかもしれない。

 リーンは気付かぬうちに船を漕いでいた。本を読んでいて眠くなることはあるが、今日は儀式の疲労が溜まっているようだった。

 リーンはいっときの間夢想家であることをやめ、地下室を出た。ランプを消して鍵をかける。階段を上がると、窓から差し込む日光が眩しく感じた。

ふと、昔地下室で読んだ書物のことを思い出した。それはリーンの父親がこの国の外のことを物語として書いたものだった。

――あの物語の中に出てくる「夜」ってやつは、今頃どんなふうに真っ暗になってるんだろう。


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