春水へつなげ!江戸川凛、いきなり爆ぜる!
(まさかこのアタシが、お春さんの肩を持つとはね)
内心、江戸川凛は苦笑していたらしい。僕には言わなかったが、自分でも三島春水の名前を出したのには、後で、はっとしたらしい。そもそも凛は劒と春水のことを知らない。
と、言うかあまり興味がない。
僕など、凛がどれだけ現状を把握しているのか試しに聞いてみて、本気で後悔した。
「劒って……あれだろ!ラスボス!みてーな!でも、強くはねえんだろ。お春さんから聞いてるけど、お春さんとこのジジイみたいに(百震のことか)特に達人でもねーんだろ?別に興味ねえよ」
唖然とした。
まじか、と思ったが実は後で、ミケルに同じ質問をしたら、ほぼほぼ同じ内容の答えが返ってきたので、やっぱり僕がしっかりしないとなと思った。それにしても、そもそもこの程度の認識の凛に鋭いこと言われたのはショックではあった。
「るせえな。そう言う小難しい話は、興味ある連中で、勝手にやりゃいいだろ。お春さんも混ぜた方が、話がさっさと済むだろうから、わざわざ呼びに行ってやるんだよ」
もう何も言うまい。
凛にはとりあえず、現状、久世兆聖がこちら側についた経緯と、信玄がこれからの作戦について考えあぐねている、とだけ春水へ話してくれと頼んだ。凛も分かっているらしく、
「アタシは余計なことは、言わねえよ。だがま、お前と虎姫さんのところに、お春さんを連れてきてはやる」
凛には凛の考えもあるらしい。そもそも春水の考えは、僕には読もうと思っても読めない。考えを引き出すのには、凛と話させた方が一番、手間が少ないのでは、とも思う。僕は信玄が話してくれた行動の期限だけを、凛には念押した。
「次の作戦は、時間との勝負だ。機会を逃せば、僕たちが自由に行動する時間はすぐに喪われる、それだけは念頭においてくれ」
「あいよ」
と、凛は応えた。聞き方は適当だが、心得てはいるはずだ。まあこいつに任せるしかない。
僕たちのもとを立った凛は、早速、東の前線へ向かったようだ。
常に最前線の動きを観測している海童に従って、春水も暗躍している。つまり、春水に手っ取り早く逢うには、十界奈落城との最前線を訪れればいいのである。もちろんそれは、言うは易し、実際行うのは超危険な接触地点だ。
久世兆聖との突然の手切れは、劔側にとって見れば一方的な裏切り行為、乱暴極まる決裂なのだから。
当然、劔の命を受けて最前線の兵士たちは、緊迫した戦闘状態に入っている。
もちろん、久世兆聖の方も抜かりなく迎え撃っているので、ある地点を境目にしてせめぎあいを続けていると言う膠着状態に陥っているが、この均衡をいつ誰がどうやって破ってしまうのか。誰も、想像がつかない。
(とりあえず、ひと暴れしてみっか)
と、考えるのが凛の恐ろしいところである。さしずめ火薬庫で花火を振り回して遊ぶようなものだ。
だが、
(だったら、尚更やるしかねえだろ)
それを平然とやるのが、江戸川凛だ。
「おい」
ぶらぶら歩いて鉄条網を越えると、凛はよそ見をしていた歩哨に声を掛けた。相手が振り向いて、侵入者だと気づく瞬間、既に間合いを潰してその顎を拳でぶち抜いていた。
「くっ」
と、崩れ落ちる歩哨を足で抑えた凛は、その装備の中から、手早く拳銃や爆弾を抜き取る。
「へへっ、んじゃあ、少し派手に行くかぁ」
ここで密かに、特殊作戦の火蓋が切られた。
その日、その場にいた兵員たちは不幸としか言いようがなかった。ある者は、その姿すら見ることなく、なす術もなく、江戸川凛と言う怪物に、次々と命を奪われていったのだから。




