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戦国恋うる君の唄  作者: 橋本ちかげ
Phase.17 ~新たなる鬼才、頂上血戦、生き残るのは…?
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乱入に次ぐ乱入!銀雨対兆聖…?

(テロリズムは『正しい』)


 春水は、唇を読んだ。


 海童から借りた望遠鏡で、佐藤の言動を捉えている。


「一体、何が起きている?誰が乱入しているんだ?」

 事情を知らない海童が、焦れたように尋ねてきた。

「『佐藤銀雨』です。さっきわたしが話した仕留め損なった達人です」

 春水は、望遠鏡を海童の目に押しつけた。

「なんだと…?」

 うんざりしていた海童は、途端に顔色を変えた。

「おい、まさか偶然か?こうなることが分かってて、話したのか?何か、事前に手を打っておいたんじゃないのか?」

「すべてはただの偶然です」

 訝る海童に、春水は応えた。

「まさかだぞ?」

「そうですね」

 としか、春水にも言えない。春水自身も驚いている。


 しかし剣客とは、予兆を感じる生き物だ。古い明治の達人たちも、ふいの来客や地震災害を予知している。


 春水もその直感を信じる。この世界の理は、どれだけ人智を極めたところで、理解できるはずもない。どのように考えようと、目の前に現れた事実は受け止めるしかないのだ。


「誰か!こいつを撃ち殺せ!どんな手段を使っても構わんッ!」


 銃を奪われ、劔はそこへ倒された。身体の動きは自由になったが、命を握られていることには代わりない。この男なら造作もなくやるだろう。その迫力が、他の人間の手出しを制していた。


「自分ごと撃ち殺せ、とは言わないようだな…僕のような馬の骨ずれと、あんたの命とじゃ、さすがに割りが合わないか?」

「お前のような有象無象が、一体なんのつもりだ…!?」


 鷹のような目を見開いて、劔は佐藤を睨めつける。直接、命を握られ追い詰められた指導者の血走った目は、まるで初めて、迫る暗殺者の存在を認識したかのようだ。


「やはり、誰も似たようなものだな」

 佐藤は、その言葉を聞いて呆れたように言った。

「その目だよ。僕みたいな人間に初めて逢ったって言う、な」

 佐藤はうんざりしたように吐き捨てた。

「自分ほどの人間の命を本気で狙うような不届き者は存在しないと、心のどこかで思っている。失望させるなよ。僕もあんたの命令に『価値』があると思っていた人間の一人なんだ」

「私の命令に『価値があるか』だと…?お前が…お前のごとき人間が、この私の何が分かると言うのだ…!?」

「分からないな」


 佐藤はこれ見よがしにため息をつくと、肩をくつろげた。


「分からないから、知りたくてここまで来たんだ。あんたに価値があるかどうか。それは殺してみれば分かる。それがテロリズムだ。あんたの『死』は、果たして、どれほどの価値かな」


 佐藤は、銃口を劔の額に向けた。このまま撃てば、劔の命は生卵を素手で潰すより楽に、無惨に奪い去られるに違いない。


「愚かなッ!」


 と、劔は死を恐れるより、憤りで叫んだ。


「こんなところでお前のようなやつに奪われるほど、私の『運命』は無価値ではないッ!!」

「そうか。だが、それはあんたが決めることじゃないぜ」

 佐藤は無慈悲に引き金を絞った。


「殺りやがった」

 レンズを覗きながら、海童は顔をしかめた。


 空を割るような乾いた銃声と、破裂した頭蓋から中身が飛び散る音が、海童たちの方へも聞こえてきていた。


「そのようですね」

 と、裸眼で見ていた春水も言った。ここらかだと、入り乱れる人並みに紛れて状況が確認しづらい。

「でも、会長は生きていますよ」

 春水には分かっていた。佐藤らしき軍服の肩の動きをずっと、追っていたのだった。

「劔が生きてるだって?…よく分からん、今どう言う状況なんだ?」

 望遠レンズを覗いているはずの海童の方が、事態の把握が遅れてしまっている。

「邪魔が入ったようです」

 春水は、信じられないことを言った。

「誰かが割って入ったって言うのか?」

「ええ、その通りです」

「どうやって防いだ?」


 今の刹那、ぴたりと銃口は劔の額に突きつけられていた。

 誰かがそこへ、割って入れる隙間も時間もありはしない。

 誰の目にもそう見えたはずだ。


「確かに不可能です。普通の人間にはね」

 春水は、感嘆した。さらなる偶然だ。こんな巡り合わせがあるものなのか。

「どうやら普通ではない達人がもう、一人あそこにはいるみたいですね」


 銃弾は、前額部から頭蓋を真っ向、貫通した。しかし即死したのは、劔ではなかった。その遥か後方にいた将兵だ。額に黒い穴を開けられたその男は、ぐるりと瞳を裏返らせると、なす術もなく崩れ落ちた。


「随分、楽しい余興をしているじゃないか、劔閣下」


 場違いなほど、晴れやかな声が響いた。二人の間に単身、割って入ったのは、なんと久世兆聖であった。


「まったく、失礼じゃないか?まだ賓客である僕が訪れる前だぞ?どうして、こんな楽しいことを勝手に始めてしまうかなあ!」


「あれが久世兆聖ですか…」

「なんだあいつは!一体どこから現れた」


 一部始終を見ていたはずの海童にすら、分からなかった。


嵐震脚(らんしんきゃく)』。


 中国拳法の粋を奪い、独自の力を身につけたこの闘神の化身のような軍閥貴族は、騒ぎを聞き付けて一瞬で、横槍を掛けたのだった。


「誰もが想像もしなかった身のこなしです」

 春水は、称賛を惜しまない。

「あの瞬間、跳んできたあの男の蹴りが、佐藤さんの肩を蹴った。故に絶妙に狙いがずれたわけです」


「蹴られるまで、それと気づかなかったよ。だからそのまま、引き金を絞ってしまった」

 と、言ったのは、佐藤銀雨である。


 その場にいるほとんどの人間が見えなかったが、今の一瞬、嵐震脚で飛び上がった兆聖が、後ろ蹴りで軽く佐藤の上腕の可動部を蹴ったのだった。それは蹴った、と言うよりは、押した、と言う程度にすぎなかった。


「まともに蹴っていたら、あんたはたぶん反応したろ。それじゃあ、面白くも何ともない」


 久世兆聖は、悠々と佐藤の前へ立ちはだかった。


「こんなところへ、一人で来たんだ。どうせなら、僕と遊んでもらおうじゃないか」

「悪いが仕事中でね。…君と遊んでいる暇はない」


 佐藤は遠慮会釈もなく、兆聖に向かって残弾を放った。すぐ鼻先で撃ったのに、これも、久世兆聖には当たらない。ほんの少し、身体の角度を変えただけで弾丸を避けてしまう。


「詰まらない仕事だなあ。銃は止めたまえ。どうせ、当たらないよ」

「そのようだな」


 佐藤はこともなげに銃を捨てた。驚きは特にないらしい。佐藤も、今ので兆聖が仕留められるとは、思ってもいなかったかのようだ。


「ではどうすれば、邪魔をしないでくれる?」

「簡単なことさ。君の一番、やり慣れた方法で来いよ」


 兆聖は、まだ腰のものに手もかけずに、言った。


「さあ僕を殺してみたまえ」























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