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戦国恋うる君の唄  作者: 橋本ちかげ
Phase.17 ~新たなる鬼才、頂上血戦、生き残るのは…?
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劔の秘密!手がかりは、獄中…?

「今のところ、動きはないようだね」


 信玄が尋ねてきたのは、その日の夜だった。もちろん、この策士も独自の監視をつけて判断しているのだろう。その信玄の目から見ても、まず劒の行動に不審な点は見当たらない、と言うことだ。


「もしかして思い過ごしってことは…ないですかね?」


 僕は思いきって尋ねてみた。誰でも疑心暗鬼にはなる。今回、疑う条件が揃ってしまっているだけに、うかつに否定はし難いところだが、一応、一度考え直してみるのも、悪くはないと思う。


「この私に、思い過ごしはない」


 案の定、信玄は堂々、断言してくる。なるほど、これくらい偏執的じゃなければ、策士は務まらない。


「これはいわゆる、勘と言うものだ。確証も手がかりもない。だが、臭い。これは案外、馬鹿にならないものなんだよ」


 信玄が言うことは、分からなくもない。何となく臭い、と言うことは、思ったよりも馬鹿に出来ないものだ。


 特に危険を知らせる勘、と言うのは、理屈など超越したところでやってくるものだ。これは、動物的本能と言うものだ。僕も実際、それで何度命を拾ったか分からない。


「確かに、私が言うのは状況証拠と言うやつだ」


 信玄の言う通りだ。あのとき劔には、行動を起こす動機があり、自らチャンスも作り、実際に僕たちの目をある程度ながら掻い潜ることにも成功した。


 しかしそれでもなお「何もしていない」と言うことを、真実として中々信じることは出来ない。


「何かがあったはずだよ、何かが」



「で…何かがあったのか真人?」

「わっ、びっくりした!」


 背中に虎千代が、ぴったり張り付いている。止観術で、意識を離脱させていたからまったく気づかなかった。


「なんでそんなにぴったり、張り付いているのかな?」

「真人が最近、わたしに冷たいからだ」

「冷たいわけじゃないだろ」


 僕は仕事をしているのだ。信玄の依頼だから、早めに何らかの確証を掴まなくてはならない。今は何も見つかっていないが、手遅れになっては取り返しがつかないのだ。


「武田どのが言うことだ。…考えていることに、そうそう間違いはない、と思うがな」

 僕が中間報告の結果を話すと、虎千代もやはり、信玄の見方を信頼しているようだ。でもなあ、何も見つからないんだよなあ。

「外から誰も来ないよね?」

 そんな徴候がないか、僕は一応、聞いてみた。

「特に報告はない。今のところはだが」


 アジトの周囲は常に、見廻りを巡回させている。勘のいい信長はじめ、ミケルたちの目に狂いはないだろうが、劔が怪しいと信玄が睨んでいる以上、警戒を解くわけにはいかない。


「もしこれで本当に何もなかったとしたら、申し訳ない話だ。…武田どのには、何かと頼りっぱなしだからな」


 虎千代は、長尾家の当主として気遣いを見せる。


「僕も正直、行き詰まってるよ。…でも逆に考えると、信玄に何もないから安心してほしいと納得させる確証も見つけたわけじゃないから」


 たぶん、信玄が言わなければ、僕はとっくに諦めている。劔は、房を出たり、不審な動きをする素振りはおろか、看守役の久遠にすら、めったに話しかけない。一人でずっと、何をしているのだろうと思う。まさか一日中、眠っているわけでもないだろう。


「…眠っているとは言わんが、閣下は一人瞑想されることが多いな」


 久遠は確か、こう言っていた。目を閉じて、ベッドの上に座っている。または、座禅を組んだりしているそうな。監禁によるストレスを、和らげているのだろうか。僕は止観によって、一日中、劔を監視するようになったが、今でも一日の大半はそれをやっている。


「なるほどな」

 虎千代が僕の背中越しに言ったのは、そのときだった。

「わたしもやることはやるが、こんな夜更けにもやっているのだな」

(虎千代にも見えているのか)

 急に何を言い出したのかと僕は思ったが、虎千代も目を閉じて僕の背中に乗っかっているので、思念がシンクロしてしまっているのだろう。

「わたしも座禅は好きだ。だから、向いているのだな…こうやって、真人を感じていると、ぼんやりとだがお前の見えているものが見える…気がする…」

「すごいな、虎千代」

 僕は感心しかけたが、よくよく考えてみると、僕よりも虎千代の方がこの道は、先輩なのである。禅寺に預けられていたのだ。座禅やら瞑想については、年季が違う。

「劔はどうしてる?」

 と、僕は試みに虎千代に尋ねた。下手をすると、虎千代の力を借りた方が、止観の精度が上がりそうな気がする。

「部屋の中で、座禅を組んでいるな。非常に姿勢がよい。…呼吸も浅からず、深からず…まるで、魂だけこの場から立ち去っているようだ…」

「ふうん…」

 そう言われると、虎千代の言うように、劔の細かい仕草や居住まいまで、精確に分かるように感じるから不思議だ。僕は素直に感心した。ところが、次の虎千代の言葉で僕は、度肝を抜かれる羽目になる。

「あれならば、止観も出来よう」

「えっ!?」


(そうか…!!)


 虎千代の指摘はまさに、青天の霹靂だった。止観と言うのはそもそも、禅の言葉なのだ。


 座禅をしたまま居ながらにして、外の世界を観る。


 僕の察気術の力を借りているとは言え、禅を修めている虎千代がこれだけ「観える」のだ。僕と同じ、人智を超えたものに憑かれている劔に、これが出来ないはずがない。


(ついに、手がかりを掴んだぞ…!)


 虎千代のお陰だ。これで、可能性が見えてきた。信玄の勘は、やはり間違っては居なかったのだ。


 後は誰と、どうやって繋がっているかである。









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