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戦国恋うる君の唄  作者: 橋本ちかげ
Phase.17 ~新たなる鬼才、頂上血戦、生き残るのは…?
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決戦のとき!まず闘技台に上がるのは因縁の相手…

 虎千代、凜、黒姫の三人は久世兆聖の案内によって丁重に迎えられた。

「いいだろう。…きちんと余計な外野は省いてきたようだな」

 金網のドアがついたゲートをくぐる前、瓜生真冴姫が、提示した決闘の条件が守られているかを確かめた。

「言っておくが、外からの支援も禁止事項だ。不審な真似があれば、即座に人質は殺す。兆聖の命令を待たずにな。その全権をわたしが握っていることを忘れるな」

 真冴姫の通告は念のいったものだ。確かに虎千代の後衛には廣杉やベルタさん、ゲオルグと言った優秀な兵士たちが残っているが、これは月島京子から預かった難民や傷ついた玲を守るため、出動するわけにはいかなかったのだ。

 実際、兆聖の手勢による山狩りは中断されたわけではない。久世兆聖の宣言は『皆殺し』であり、久世兆聖本人を仕留めない限りは、その目的は日々忠実に遂行される仕組みになっているのだ。

「おーまた、強そうなのが出てきたじゃねえか」

 早速、真冴姫に絡むのは江戸川凜である。

「おたくの大将は、うちの虎姫とサシでやりてーんだろ。…で、あんたはアタシかよ?」

「お前の相手は他にいる。勘違いするな」

 凜は鼻で笑った。

「何だよそりゃ。またあんたの手駒か」

 真冴姫も含み笑いをした。

「わたしたちは初対面だろう。因縁がある相手が先だ」

「因縁…ねえ。ま、心当たりはなくもねーが、そいつじゃあ噛みごたえがねえんだよなあ」

 真冴姫は、はなからそんなことに興味はないようだった。

「そんなことより、長尾虎千代、覚悟は出来たか。今度は横槍をいれるものも、割ってはいるものも許さない。どちらかが確実に死ぬまで、やってもらうことになるが構わんだろうな?」

「ああ、そのつもりで来た。この上は決着はそこまでいこう。…で、真冴姫、おぬしはその見届け役か?」

 虎千代は江戸川凜の挑発に、真冴姫が乗らないことを揶揄しているのだろう。

「そんなところだ。わたしはいわば最後の執行人。…兆聖の気まぐれでお前らが一人残らず討ち洩らされないよう見分する。それがわたしの役目だ」

「へッ!そいつは、お忙しいこッた!アタシにぶッ飛ばされるのがやだって言うなら、そいつは仕方がねェーがよォォォ」

 虎千代は、苦笑しただけだったが、江戸川凜は、納得行かないのか聞こえよがしな野次を飛ばしてくる。

「ま、いいや。アタシは所詮前座だ。ちゃちゃっと食わしてもらうからよ」

「ふん、その強気が最後まで保てばいいがな」

 真冴姫は話しながら、黒姫の様子を見ている。本来おしゃべりなはずの黒姫が押し黙っているのは、完全に敵地であるこの場所でも、何か狙いがあるからに違いないと睨んでいる。


 実際、闘技台の周りは久世兆聖の手勢でひしめいている。一度入ったら、たった三人では出ることはほぼ不可能だろう。

 花道のような細い一本道から三人は入ったが、観衆は軍人のため野次ひとつ飛ぶわけではない。が、大人数による無言の重圧はひときわ強いと言える。


 少し高いところに観覧席が設けてあり、そこに久世兆聖とラウラが座っていた。


「虎千代サン!」

 ラウラが、駆け寄る。久世兆聖は、制止もしなかった。彼のなかでは虎千代がくれば、それで人質としてのラウラの役割は終わりであり、拘束をする意味などないと思っているからだ。

「大事ないか。…何か怪我は?」

 虎千代が尋ねると、屈託なくラウラは微笑んだ。

「大丈夫。ワタシは、なにもされてないです…」

 と、ラウラは言ってから三人の顔ぶれを見た。

「玲サンは…?」

「ラウラ…実はなのだが」

 問われた虎千代は、そこまで話して言葉に詰まる。代わりを引き取ったのは、黒姫だ。

「玲さんは、来れませんでした。思った以上に回復が思わしくなく」

 黒姫が言うと、ラウラの顔から血の気が引いた。

「命に別状はないですよ。…でも、ここへ連れてくるのはやはり、危険なので」

 話しにくいことを、黒姫は、話した。それでも玲は、ぎりぎりまで立ち上がろうとしていたと言う。

「この上は、我ら死力を尽くして玲のもとへ帰ろう」

 虎千代が言うと、ラウラはむしろ、引き締まった顔つきでうなずいた。


 ここで四人になり、ついに決闘が始まる。


「どうぞ」

 と久世兆聖は、全員に用意した席を与える。

「よく来てくれた。…少し待たせすぎたがね。うん、そちらが選んだのは、三人か」


 久世兆聖は、すでに支度を整えている。鉄板入りのブーツに脚絆をゲートルで固め、軍衣は決戦服と言われている略式着をアレンジしている。もちろん生地の色は、黒である。迷彩色をまとわないのは、この男らしい。


「で、どうするんだい?決闘と言ったが、別にここからの段取りは決めてない。僕と虎千代姫の二人でいきなり初めてもいいがね」

「わたしもそれで構わないが」

 と、虎千代は、江戸川凜を見る。

「アタシか?…あー、そうだよな。アタシとやりたい奴がそっちにいるんじゃないのか?」

「確かに。そのような願いも聞き届けているな。どうするかなあ?」

 と、兆聖は、傍らの真冴姫を見た。

「好きにすればいいだろう。主宰は兆聖、あんたなんだ。わたしの部下の私怨など気にかける必要はない」

「あ、そう。じゃお言葉に甘えて。…と言いたいところだが、僕にも少し虎千代姫たちと話したいことがあるのだがね」

 と兆聖が、凜たちに初戦をすることを仄めかすと、

「もったいぶりたいのなら、早くそう言え。…こっちも支度がいるんだ」

「支度?そんなのいらないんじゃないか?」

 兆聖は、意味ありげに微笑むと、闘技台の方を見た。


 そこにはすでに、誰かがいる。

 言うまでもなく、実兄の白影を凜に殺された朱錠である。


「朱錠ッ!いい度胸だな!このわたしに断りなく、勝手な真似をッ!」

 真冴姫はそれを見て血相を変えたが、兆聖は別に気分を害した風はない。

「肉親の復讐だ、雇い主の僕にだってそれを止める権利はない」

「いいんじゃねえのか。…ま、こっちは、他の連中がいいって言うならよ?」

 凜も、乗り気である。遅ればせだったが、ラウラはそこに三島春水の一味がいて驚いている。

「アナタは…どうして?」

「玲の代わりだよ。ま、気にすんな」

 軽々と言うと、凜は、闘技台の方へ歩いていった。

「頼むぞ」

 虎千代はその背に、激励の声を投げ掛ける。

「では、いいかな。…最初の決闘は決まったわけだね」

 兆聖は、虎千代に席をすすめると、自分も背もたれに身を預けた。虎千代の席は、兆聖の隣である。

「虎さま…」

 黒姫の心配を待つまでもない。虎千代は、すぐ兆聖の隣へ座った。

「じゃ、皆さん何か飲み物は?」

 兆聖の問いかけに、応じるものはいなかった。

「酔狂も大概にしろ」

 真冴姫が憤慨したが、兆聖は涼しい顔だ。

「さあ、殺し合いだ」





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