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戦国恋うる君の唄  作者: 橋本ちかげ
Phase.17 ~新たなる鬼才、頂上血戦、生き残るのは…?
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春水因縁の相手、再び掘り起こされる因果…!

 すでにかなり前から三島春水だけは察していたらしい。自分達が闖入者(ちんにゅうしゃ)としてもてなされていたことを。


 しかしどこからともなく現れた(あしおと)は、急であった。まるで地面から湧いて出てきたようだ。幽霊かと思うほどに突然、気配が寄り集まってきたのだ。それに真紗さんが気づいたとき、三人はもはや、包囲される存在になっていた。


 そのとき、三島春水は歩幅を変えた。袋小路の果てに、一人の女性が立っていたのである。髪を短く切り揃えているが、女性だ。たたずまいからすぐ、春水は気づいていた。


「止まれ」

 と言われる前に、三島春水は動き出していた。短髪の女の右手が閃いたのを見逃さなかったからだ。


(拳銃)


 しかも仕掛けてくるのは、馬賊流の投げ撃ちである。これは銃口を外しにくい。しかし春水は、少しも躊躇する風を見せない。

 射線に体を投げ出すように、さらに急激に間合いを詰めた。


「あっ、こらっ」


 後続する真紗さんたちから見れば、春水はほとんど、自ら撃たれに行った、と思うことだろう。

 間髪いれず銃声は起こった。が、命中はしなかった。弾丸は微かに春水の身体を逸れたのだ。


 正確には、すぐ脇を通り抜けていったのだが、避けたのでも、外れたのでもない。今のは、春水が微妙に外したのだ。小さな石くれを、春水は拾って指にたばさんでいたのだ。


 相手が引き金を絞る瞬間、螺旋のように回転した石くれが、春水の指の間から放たれ、銃身を僅かに動かした。そこに出来たのは、本当に微妙な『差』だった。


 だが、引き金に指をかけた相手すらも、気づかぬほどの『差』が、針の穴ほどの隙間を通して命中を避けたのだ。


 ちなみに逸れた弾丸はオレンジ色の火矢になって、霞麒麟の鼻先を掠めていった。


「殺す気かッ!?」


 小石を放った三島春水は態勢を崩すこともなく、真っ向から翔んだのだ。そのまま仕掛ける。間合いの広い片手斬りで首を薙ぐように、振り下ろした。


 しかし、相手もさるものだ。とっさに半身を引くと、左からの蹴りで刀身の横腹を蹴った。春水が弾道を逸らしたように、相手も剣線をずらす。初手から絶技の応酬だ。


「お久しぶりです春水お嬢さま」

 女が口を開いた。

「相変わらず行状が改まらぬご様子で。…劔会長が、行く末を憂いておりましたよ」

「あなたが思うより順調です」

 三島春水は平然と答えた。

「そう、お伝え下さい」


 二人は、間合いを開いて向き直った。どうやら、旧知の間柄のようだ。


「何、あんたの知り合い!?」

 ごくストレートに真紗さんが尋ねた。

「劔の奥向きの用人です。…わたしが会った頃は老齢ですでに現場を離れていましたが、若い頃はそこそこ使えたようですね」

「…お忘れではありませんよね。わたくしめはあなたのご祖父、百震さまの一番弟子も同然、でございましたから」

 と言うと、女は名乗りを上げた。まさかこの女も、百震同様、時間の因果律を超えて蘇った昭和の達人の一人だったのか。

「残りのお二方はお初にお目にかかりますね。檀須恵(まゆみすえ)と申します。侵入者は、ここで排除させて頂きます」

「ふっ、ふざけるなッ!こっちは三人いるんだぞ!?」

 事情を知らない霞麒麟が凄む。その瞬間、背後から二十人ほどの人数が退路を絶った。

「…確かに三人しかいないわね」

 呆れたように、真紗さんが皮肉を刺す。

「三人で十分ですよ」

 だが三島春水は当然のように、強気な主張を崩さない。

「この程度で音を上げていたら、この先が思いやられます」

「誰がいつ!音を上げたんだってばよ!?」

 真紗さんも観念した。ここは、この大人数とやるしかない。

「こっ、こんな連中となんて聞いてないぞ!?」

 霞麒麟は腰が抜けかけている。なるほど、包囲した人数は銃器こそ携帯していないが、全員が半月型のナイフを携えている。

「『眉月(まゆづき)』。劔会長が私費で飼っていた女性の特殊部隊です」

 春水はもはや、真紗さんと霞麒麟の方は振り返らない。

「時間が惜しいです。取り急ぎ片付けましょう」


「くそっ」

 二人はありあわせの武器を取った。霞麒麟は特殊仕込み刀と拳銃であり、真紗さんは携帯式の折り畳み槍だ。

「援護はどうしたのよ!?」

 真紗さんは辺りを見回した。援護とはもちろん、信長のようである。誰も狙撃されないところを見ると近くにはいないらしい。

「あんの役立たずッ!後でシメてやるわッ!」

「後でって…僕たちに後はあるのか?」

 霞麒麟のそれは、決して皮肉ではなく、現実的な問題提起である。真紗さんは、いらっとして目を剥いたあと、天に向かって叫んだ。

「知るかッ!もー死ななきゃなんでもいーーッつーのッ!!」



「騒々しい方々でございますね。…よくお付き合いになられますこと」

 必死に生き残りをはかる真紗さんたちを横目に、三島春水と檀須恵は対峙した。

「その言い方、懐かしいですね」

 思い出の底をさらうように、三島春水は言う。百震と暮らした幼年期は彼女にとってはすでに、遠い昔だ。

「わたしが百震を斬ったあと、あなたに殺されると思った。…生かしておいて、会長と引き合わせたのは、祖父の遺志でしたか?」

「聞くまでもないことと存じます。私情を申し上げれば、あなたはそもそも師の仇。この手で殺すのが本望」

 と言うと、檀須恵は、自らも三日月型の短刀を構えた。大きさを言えば中華包丁ほどに身幅は広いが薄く鍛えてあり、這い寄る猫のレリーフが施されている。

 それが左右一対。恐らくはこの小回りの利く双刀で間合いを詰めて、手数で圧倒してくる使い手と思われた。

「では今は念願が叶ったと言うところですか」

 冴え渡る刃を互いに擦れ合わせ、檀はうなずいた。

「言うまでもなく。…劔会長から抹殺のご命令、任務を遂行します」


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