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戦国恋うる君の唄  作者: 橋本ちかげ
Phase.17 ~新たなる鬼才、頂上血戦、生き残るのは…?
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起死回生求めて!劔略取、再始動…

「総司令部を占拠する…?」


 信玄が、何を言い出したのかと思った。現状、僕たちは追われる側なのだ。それを覆すには確かに、一か八かの奇策にでも出るしかないのは分かってはいる。だがそれにしてもだ。


「別に難しい話じゃないだろう?」

「話自体はですね…」


 口に出すのは簡単だが、為すのは難しい。本来、狩り出される立場の僕たちがあえて、敵の最深部に入り込んでいこうと言うのだ。


「無茶は承知だろう?」


 信玄は言う。いや、そう言い切るしかないのか。僕たちが前に進むなら、元々無謀を重ねるしか突破口などないのだ。


「最初の不意打ちで劔を人質に取り、そのまま久世兆聖との戦端を拓かせると言う作戦は、失敗に終わった。私たちの存在も劔たちに認識された今、やれることは無理を押し通すことしかあるまい」


 確かにそれは正論ではある。だがこればかりは、勢いだけで出来るような類いのものではない。


「…待ってください。司令部を占拠する…と言うのは再び、劔劉志郎を人質に取ろうと言うことですか?」

「そう言うことになるね」

 僕の当然の反論に、信玄は片眉を吊り上げる。

「劔を説得する作戦は、失敗に終わったんですよ?奴は、僕たちの自滅を望んでいる。そのためには、久世兆聖の邪魔をしない方がむしろ、賢明だとすら思っている」

「確かに、この現状では劔劉志郎が久世兆聖との開戦に応じる可能性は限りなく低いだろうな」

「それでも劔を説得するんですか?」

 僕は、そこに切り込んだ。


 何しろ、劔を説得する作戦はすでに失敗に終わっているのである。あのとき、監禁が長く続けば分からなかった、とも言えなくもないが、脅しもすかしも、持てる手札は切り尽くしていた。


 信玄がそこから、どんな手管を考えていたか知らないが、唯一に近いチャンスは、喪われてしまったのである。そして今、絶対に失敗できない局面に来ている。次も同じ手はずでいいだろうとは、誰も言えないはずだ。


「説得はしない。…そして、脅迫もしないよ。ただ、目的はただ一つだ」

 策士の信玄は、絶妙な微笑を含む。

「一体何を狙う気なんですか?」

 僕が怪訝そうに聞くと、信玄は図面に目を落とし、

「何を狙う気だと思うかね?」

 珍しく、意味深な反問を返してきた。

 一か八か再び、劔を狙う。だが信玄はそれ以外にも、何か切り札を隠しているようだ。もちろん、僕には見当もつかない。

「…図面を見たまえ」

 信玄は目線だけで、僕に見るべき場所を示してくる。僕がそこに目を落とすと、信玄は辺りをうかがうようにして、声を落とした。

「危険極まりない作戦になる」



「…なんだ、大将。青い顔して」


 信玄との会談を終えた僕の顔からは、血の気が引いていたらしい。

 ミケルが見て、おっ、と思うくらい、違和感があったのだろう。


「次の作戦は決まったんだろう?どうなんだ、危険なのか」

「もちろん」

 と僕は答えたが、ミケルは怯む様子もない。

「…だろうな。立ち止まったら終わりだ。おれはもう、前に進むことしか考えん」

「その方がいいのかもな」

「うんんっ、そんな危険な作戦か!?」

 僕は頷いた。


 かなり無茶な作戦だが、あれならばもしかしたら、劔を久世兆聖の方へ向かわせることが出来るかも知れない。


「おれにも詳しく話してくれよ」

「後でな」


 これには、綿密な打ち合わせもある。実は、この寡兵(かへい)を敵地でさらに二つに割るのである。どちらかがしくじれば即座に失敗、僕たちは全滅の憂き目を見る。


「その総司令部とやらに乗り込んで、また劔をさらうんじゃないのか?」

 僕がもったいつけるので、ミケルもさすがに気になってきたようだ。

「そうだけど、少し違う」

「だから、なんなんだよ」


 ミケルは口を尖らせたが、むしろ、この件については深く考えない方が上手くいきそうな気がしてきた。


「とにかく話は後だ。…もう、時間もないからね」

 信玄も言っていた。目下、やるべきなのは、その前に参加する全員の足並みを揃えておくことだ。


 幸い途中参加の合流組は、二人でいた。三島春水と霞麒麟はそれぞれ、僕たちと参加の動機が違うから、要注意である。無論、三島春水の方はあまり心配はないと思うが。


「…なるほど、今はもうそれしかないでしょうね」

 三島春水は、反対しなかった。愛刀の手入れ中である。

「となると、搦め手が必要でしょう。どのように人を割るのですか?」

 僕は少し、考えた。

「春水さんは真紗さんと行動してもらいます」

 僕は、その顔色をうかがった。実は信玄にも様子を見てこいと言われていたのだった。

「その場合、劔とは遭遇しない可能性が高いですが、いいですか?」

「なるほど、会長とはね」

 三島春水は、興味深そうに僕を仰ぎ見た。


 僕は言外にしたが、つまりそれは、百震と遭遇しない可能性も孕むと言うことである。


「いいでしょう」

 たっぷりと間をもたせてから、春水は言った。

「実際、瓜生真紗だけでは手に余ることもあるでしょう」


 すでにお見通しだと言う風に、春水は言った。必要上、彼女にはミケルと違って、もう作戦の全貌を話してある。


「…ちなみに、あれはどうしますか?こちらで預かっても別に構いませんが」


 春水が目を向けるのは、あちらで自分の山岳装備を整理している霞麒麟である。こいつは別にもう解放しても構わないのだが、置き去りにしても寝覚めが悪いので、同行させているのだ。


「あなたはどうします?わたしたちはもう一度、劔の略取に旅立ちますが?」

「総司令部へ行くぞ」

 と僕も言うと、霞麒麟はびっくりして背筋がはね上がった。

「気でも触れたか!?僕たちは連中に本気で追われてるんだぞ!?」

「困りましたね。…それが本当に嫌なら今、逃れる方法は二つあります。聞きたいですか?」

「な、なんだ…!?」

 聞くまでもないと僕は思ったが、霞麒麟は興味を持ったらしい。

「一つ、捕まって激しい拷問を受けたのちに処刑されること。もう一つは、理由を聞かずにわたしたちについてくること」

「どっちも最悪じゃないか…!」

「もちろんです。あ、わたしたちについてきた場合でも捕まったら激しい拷問の後に処刑されることは変わりませんので注意してください」

「絶対嫌だ嫌だ!」

 霞麒麟は自分のズックにしがみついて、ぶるぶる首を振った。

「それと三つ目の選択肢は却下ですから、考えないことです」

「もう一つは?」

 ここは気になったので、僕が尋ねた。

「このまま持てる限りの食糧と装備を持ち出して野宿(ビバーグ)し、穴熊が冬眠するように救援が来るのを待つ」

「おっ、お前ッ逃げようとしてたな!?」

 そこでようやく、僕は霞麒麟がしていたことの意味に気づいた。

「そのズックは没収します」

 三島春水の冷たい殺気を浴びせられてはたまらない。霞麒麟は観念して、泣く泣くズックを僕に渡した。



「さてこれで割り振りは決まったね」

 春水の返事を待って、信玄はついに作戦始動の(さい)を振る。

「一の手は、私、真人くん、そしてミケルくんだ。こちらは建物内を突破して一気に中枢制圧を目指す」


 腕利き二人に、後方支援が一人、突破には最適の人数配置だ。


「二の手は、真紗、春水どの、そして霞麒麟。こちらは状況の混乱と警備の撹乱(かくらん)を狙ってもらう」

「つ、つまり囮になれってことか!?」

 いちいち、霞麒麟は目を剥く。

「初手はね。…この作戦の肝だが、状況に応じては役割を入れ換えていく。私たちが君たちの救援のために逆に囮になることもあるし、臨機応変に動く。それが全員無事生還の決め手だ」

 信玄は念を押すように言うと、顔ぶれを見た。

「苦しくなったときは皆、この作戦の目的を思い出してくれ」


 それは、劔と久世、二つの大勢力をぶつけさせ、突破口を拓くこと。

 そして何より虎千代たちも含む全員の生還。


「無理は百も承知だ」

 信玄は赤く潤みかけた目を、冴え渡らせて呼び掛ける。

「奇跡と言うものを、見せてやろうじゃないか」










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