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戦国恋うる君の唄  作者: 橋本ちかげ
Phase.17 ~新たなる鬼才、頂上血戦、生き残るのは…?
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銃声が導くのは…?忍び寄る新たな危機!

 あれは、確かに銃声だった。


(しまった)


 決断が遅かったのだ。僕は、寸でで這いあがってきた嗚咽を呑み込んだ。

 撃ったのは、誰か。撃たれたのは。状況はどうなっている。

 本来なら僕が、それを真っ先に確認できたのに。気がつくと、僕は部屋を飛び出していた。そのまま室内の様子を確認すれば済むものの、すっかり動転していて、止観を使うどころじゃなかったのだ。


 外にはミケルと信玄が、立ち尽くしていた。

「大将、中の二人は無事か?」

 ミケルに尋ねられて、僕は初めてそれと気づいた。

「あっ」


 急いで止観で気を探る。集中力を練れなかったので、室内の様子は見れなかったが、二人の無事は確認出来ている。劔も久遠も無事だ。撃たれた様子はない。だったら、今の銃声はなんだったんだ。


「今の銃声は外からしたんだ」


 信玄が、最も意外な答えを口にする。さすがにこの策士は冷静で、すぐに状況を掴んでいた。つまり、劔も久遠も撃っていないのである。なるほどこれで腑に落ちはしたが、それならばいったい、誰が発砲したと言うのか。


「うつけか真人。…敵に決まっておるでや」


 と言ったのは信長だが、歩兵銃を構えていても、敵を見つけた、と言うわけではなさそうだ。


「追跡は完全に振り切っている。…ここまで突き止めてくるものがいるとは、思えないのだが…」


 信玄も不審そうに首をひねる。しかし、銃声は銃声である。たった一発でも、誰かが撃ったのなら、それは、僕たちの図らざる何かが起きていると言う証拠だ。原因を究明するまで、安心することは出来ない。


「…それより二人の様子は今、どうなっているんだい?まさか劔は、銃をとってはいまいね?」

「どうやら、大丈夫みたいです…」

 僕は即座に応えた。


 こうしているうちにようやく、止観の術が再開できたのだ。まず室内だが、二人が争っている感じではない。やはりさっきの銃声に驚いたものらしい。今は二人、息を潜めて、外の様子をうかがっている、と言ったところだろう。


「敵じゃなかったらなんなんだ?…おれたち揃って聞き違いでもしたってわけじゃないだろ?」


 ミケルが怪訝そうに、肩をすくめる。考えても答えは出そうにない。いったい、誰が何のためにそれをした、と言うのだ。


「貴様らッ!そこまでだッ動くなッ!」


 そのとき、出し抜けに叱咤の声が降った。聞き覚えがある声だ。僕は思わず、自分の記憶を探った。だが木の陰からそれが出てくるまでは、誰だか気づきもしなかった。


「誰もこっちへ来るな!」

 そいつは僕たちに拳銃を向けてきている。久遠が持っていたのと同じ、輪胴式(リボルバー)だ。黒髪を振り乱した、軍装の…たぶん、女の子だ。

「いいかッ黙って、僕の言うことを聞くんだ!死にたくなかったらなッ!」


「あれは確か…」

 僕はミケルに振ったが、こいつは覚えていないようだった。

「誰だ。名前が出てこないな」

「久世兆聖の側近だよ。…名前は霞麒麟(かすみきりん)、と言ったのではなかったかな」

 記憶のいい信玄が、すらっと答えた。

「そうだった」

「だよな。顔は何となく覚えてたんだ」

「ふざけるなッ貴様らッ!」

 別にふざけてはいない。まさかここまで追ってくるとは思わなかったから、すっかり忘れていただけだ。

「僕から逃げられると思うなよ」

「なんだ、僕って。…もしかして、お前一人か?」

 ミケルがわざとらしく、辺りを見回す。僕も気づいていた。霞麒麟はたった一人でここまで来たのだ。周囲を包囲されているような気配は、見当たらない。

「他の連中は、ホウ雪崩に巻き込まれたんだな?」

「なんだそれはッ!?…違うッ!僕たちはお前たちを逃がすつもりなどない!」

「だから今、一人なんだろ?」

 僕たちは次々に、緊張感なく話しかけた。

「さっき撃ったのは、お前か」

「どうしてそんな無駄な真似をしたんだい?」

「黙れッ!黙れ黙れ貴様らッ!口々にしゃべるなッ!三人いっぺんに!貴様らにはこの銃口が見えんのか!?三人全員撃つくらいの弾丸はあるんだぞ!?」

 僕たちは顔を見合わせた。

「そんなこと言われてもな」

「僕を愚弄する気か!?」

「別に、愚弄するつもりはないよ。だがねえ、麒麟くん」

 信玄は、呆れた様子でため息をついてみせた。

「私たちが三人だといつ言ったんだい?…それは追っ手の君がよく知ってるんじゃなかったのかな?」


「ご明察」

 霞麒麟のすぐ耳元で、声がしたのはそのときだった。同じ木の陰から、姿を現したのは三島春水である。

「きっ、貴様ッ!」

 歯噛みをした霞麒麟は、即刻、仇を射殺するつもりで銃口を向けたのだろうが、相手が悪すぎた。


 三島春水は腕を伸ばすと、霞麒麟が向けた銃を無造作に掴んだのだ。至近距離で危険極まりないと僕は息を呑んだが、なんと弾丸は発射されない。それは三島春水が、弾倉を掴んでいるからなのだった。


「リボルバーの弱点は、弾倉です。弾倉が回らなければ、撃鉄が落ちない。つまり、こうして抑えてしまえば、弾丸は発射されないんです」


 三島春水は言うと、弾倉を掴んだまま銃身を強くねじった。これは痛い。硬く引き金を握っていた麒麟はうめき声を上げた。なんと銃そのものを使った逆技(関節技)である。痛みにうめきながら、霞麒麟は銃を手放してしまった。


「剣士の癖に、こんなもので駆け引きをするからですよ」


 と言いつつ、三島春水は奪った銃を、雪の上に倒れた霞麒麟に向けた。


「くッ!卑怯だぞ貴様ッ」


 自分だって、こそこそ忍び寄って銃を突きつけてきた癖に。どの口が言うんだと思ったが、霞麒麟にそんな理屈は通じないのだろう。この場合は、問答無用の実力行使が正しい。まあ、三島春水に任せておけばいい。


「どうしてこんなところに、一人でやってきたのですか?…こうなることは、予想が出来たでしょう?」

「見くびるなッ!僕はッ、一人じゃない!」


 また、この期に及んで強がりを言う。いちいち否定するのも面倒だが、仕方がない。


「一人だろ。…お前が一人だってことぐらいは、僕の察気術を使えば、すぐに分かるんだ。つまらない虚勢を張るのは、よすんだな」


(待てよ)


 言ってから、僕はふと気づいた。遭難してここまでたどり着いてきたこと自体、奇跡だが、それにしても、いったいどう言う考えで僕たちに近づいてきたのだろう。


 たった一人なのは、分かりきったことだ。それが一丁の拳銃でそもそも、僕たち全員を御せるはずがない。その程度の判断がつかないわけではないとは思うのだが。


「何か、隠していますね?」


 考えあぐねていると三島春水がずばり、僕の聞きたいことを尋ねた。


「ふざけるなッ、隠してなんかいるものかッ!」

 霞麒麟は目を剥いて口答えした。その頬を掠めて、三島春水は容赦なく銃弾を撃ち込んだ。

「わっ、わ!音が…!」

「これくらい、大したことはないですよ」

 剣士の癖に、と相手をたしなめた癖に、三島春水の拳銃扱いは手慣れ過ぎている。

「わたしの記憶が確かなら、あなたはさっきこう言いましたね。黙って、自分の言う通りにしろ、と。何をさせようとしたのですか?…あなたがたった一人生き残ったことと、何か関係があるのですか?」

 三島春水の洞察の鋭さに、霞麒麟は息詰ったような顔になった。そうだ、確かに、こいつは僕たちに何かをやらせようとしていた。もしかしたら、協力を求めようとでも思ったのか。

「ふん、死にたければ勝手に死んだらいいじゃないか!」

 精いっぱい強がった様子で、霞麒麟が吠えたのはそのときだった。

「どうせ、お前たちも殺されるんだ」





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