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第14話「勝利条件」

何故いま、思い出した。あの時の事を。


ズタボロになっているコイツを見て、死将との出会いが、なぜ頭をよぎった。



あれから、特段変わらない時間を過ごした。


変わった事と言えば、見込みのある能力を持った者は拠点に連れて行くことと、同盟を結んだ組織の構成員とは戦闘しない事くらい。


【死の軍勢】の構成員は全員それなりの能力を持っていたが、自分より強い者はいなかった。あっという間に死天王まで登り詰め、順位は2番、つまり軍勢で2番目に願いを叶えられる立場となった。


誰も不満に思って戦いを挑んでくる者はおらず、同じ死天王の者ですら、不平を言う者はいなかった。


願いは決められなかった。

そんなお伽話のような事があり得るはずないと、どこかで半分バカにしていたから。

だが半分は期待していた。死将が嘘を言っているようには見えなかったから。


わざわざ詳細を聞くのも癪だから、興味がないフリをしていた。

殺し、選別し、また殺し、殺し、裏切り者を連行し、場合によっては処刑し、殺し、不可侵の相手を見逃し、殺し、監視隊を殺し、殺し、それらを楽しみ、それでも頭の片隅を掠めるのは、自分の願いについて。




「回復魔法のありがたみ?♡ボロボロになってもまだ分かんないの?♡体治す暇があるなら相手にダメージを与えた方が得♡バカでも分かる♡」


「浅いなぁ、浅すぎ。俺の世界観の作り込みくらい浅いぜ」



『持たざる者の抵抗』発動から10秒経過。



男の雰囲気が少し変わった。虚勢を張っているだけか?そんな相手は何人も見てきた。全員取るに足らない存在だったはずだ。


何かが引っ掛かる。何かが。


「さっきからよく分かんない事ばっかり言ってるけど何のハッタリかな〜♡仲間が来るまでお喋りし続けるつもり?♡み〜んな死んじゃうけど、お兄さんはそれでいいのかな?♡」


「俺に仲間はいない。友達はさっき出来たけどな。でもここにいなくとも、俺を支えてくれる仲間達は、心と頭の中に沢山いるんだ。俺にはそれだけで充分すぎるってもんさ」



『持たざる者の抵抗』発動から20秒経過。



ズタボロになりながら、傷の回復も追いついているとは言えないその男は、ペラペラとよく喋っている。


死を目前にすると人は気分が高揚する事があると言うが、絶え間なく痛みを与え続けたせいで頭がおかしくなったのか?


「痛すぎて気分おかしくなっちゃったのかな?♡ごめんね〜♡でもお兄さんの事は徹底的に痛めつけるよ♡私を手間取らせた事を存分に後悔しながら死んでもらうから♡やめてあげな〜い♡」


「そりゃぁ嫌だなぁ!じゃあ全力で逃げまぁす!!!」


ドォン、という衝撃と共に、男が遥か上空へ跳び上がる。身体能力は来訪者に毛が生えた程度だと思っていたが、跳躍力は別だったのか?それとも今覚醒したのか。



『持たざる者の抵抗』発動から30秒経過。



しかし、その程度の跳躍なら私にも出来る。逃がしはしない。男同じ行動まで跳び上がり、再び能力を発動する。


男の体にまた無数の切り傷や刺し傷が刻まれる。少し回復していた体は再び血を垂れ流し始める。


「人生最後のバトルになるぜ!!滅ガキィィイ!!!後悔しないように本気でやれよなぁぁぁぁあ!!!!」


「うっさ♡お前なんかの最後とかどうでも良すぎ♡楽に死ねると思うな♡」


誰が、誰がこんな雑草に本気など出すものか。

私が次に本気を出す時は、死将(アイツ)と勝負する時だ。

アイツより強くなって、アイツを追い詰めて、そしてアイツの願いと真逆のものを私が叶えてやる。


そうだ、今決めた。アイツが大切に願っていた事を横から取り上げて、私がめちゃくちゃにする。そうしてやろう。それが私の復讐になる。本当の願いが見つかるまでの、それがとりあえずの願いだ。



『持たざる者の抵抗』発動から40秒経過。



男を空中で蹴りつける。能力で衝撃を増幅させて、体内を丁寧に破壊するように、一撃に威力を込める。男はまるでボールが蹴り飛ばされるように、ビルのガラス面に直撃し、机と椅子しかないオフィスに放り込まれる。


特に何も考えずにビルごと破壊しようとして、能力の発動を一度踏み止まる。


先ほどビルを直撃させて瓦礫に埋めても、回復の猶予を与えるだけに終わった。さっきは油断してのこのこ出てきていたが、今度は逃げに徹されるかもしれない。


自身の背中に衝撃と衝撃を衝突させ、弾かれるように、同じオフィスに向かって高速移動する。ガラスを衝撃で破壊し、自身の前方に衝撃と衝撃をぶつけて急停止する。



『持たざる者の抵抗』発動から50秒経過。



うずくまっている男の周囲には、魔法陣が10個ほど展開されていた。


氷結弾(フローズンバレット)


男がそう呟くと、魔法陣から氷の塊が射出される。大した事はない。能力でそれら全てを切り刻んで破壊する。氷のカケラが散らばるが、何一つ問題ない。 


男はうずくまっている。次の動きに何か繋げようとする気配がまるでない。

そのまま容赦なく切り傷と刺し傷の乱撃を再開する。


「ぐふッぁ」


「もしかしてこれが狙いだったの?♡当たると思ったんだ♡だっさ〜♡」


境界監視隊には能力をアイテム化する事ができる人間がいると聞いた事がある。


彼らは一人一人の能力は大した事ないが、その組織力による武装や情報共有の速度、適材適所の人員配置によって、かつて30ほど存在した組織を8つまで減らしている。


これに危機感を覚えた、残された8つの組織が一時的に同盟を組み、その中に【死の軍勢】も含まれている、という話までは覚えていた。


「監視隊に目をつけられたが最後、全ての行動を先読みされて壊滅する♡でもそれは組織力の賜物♡遊撃部隊や偵察部隊の単独の実力は大した事ない、だったね♡思い出させてくれてありがと〜♡」



『持たざる者の抵抗」発動から60秒経過。



「結局能力が回復だけだと攻撃手段がない♡だからアイテムに頼らざるを得ない♡人から渡してもらった攻撃アイテムで、戦闘向きの能力を持ってる人とマトモに戦えると勘違いしちゃったんだ♡ざっこぉ♡」


うずくまっている男の背中を思いきり踏みつける。能力で衝撃を増幅させると、先に耐えきれなくなった床が抜けて、下の階に落下する。


「がっ…がぁ…」


男はもはやまともに回復しきれなくなっているが、切り傷と刺し傷を与える事はやめない。


「回復能力なんて精々後方で味方の怪我でも治してれば良かったのに♡戦いたくって仕方がなかったのかな♡やる気のある無能って言葉、聞いたことありますか〜♡」



『持たざる者の抵抗』発動から70秒経過。



再び男を踏みつける。威力を増幅させ、また床ごとぶち抜く。下の階に転がる男を視界で捉え、斬撃と刺突を与え続ける。


「あ♡もしかして自分しか治せないゴミ能力だったりする?♡だったらアイテム持たせて突撃させるくらいしか使い道ないよね〜♡」


また踏みつけ、衝撃を増幅、床が抜け、下に転がる男に、傷を与えることもやめない。


「………ぁ"ぁぁ……」


「すご〜い♡まだ生きてる♡あと何回耐えれるのかな♡1階に着くまでやり続けるよ〜♡」



『持たざる者の抵抗』発動から80秒経過。



4度目の踏みつけ、衝撃の増幅、床抜け、下階へ転がる男、回復の隙を一切与えない無数の切り傷と刺し傷の再開。

男の回復能力は、もはやその効果を失いつつあった。


「…………」


「ストレス解消のサンドバッグ能力として優秀だね♡こんなに長く1人を痛ぶったのは初めてかも〜♡じゃあ、いくよ〜♡」


5度目か、6度目か。背中を踏み躙る。増幅する衝撃に、床の耐久は持たない。もはや動かない人形のように横たわる男に、なおも斬刺を辞めはしない。


「……」


「あ〜♡これはもう限界かな♡時間稼ぎが目的だったなら上出来なんじゃない♡でも誰も助けに来なかったね♡回復能力はただの捨て駒にしかならないって、体を張って教えてくれてありがと〜♡ありがたみが1ミリくらい伝わったよ♡」



『持たざる者の抵抗」発動から90秒経過。



「………か、ぁ……」


既に死にかけの男が口を開く。幻覚でも見ているのか。それとも走馬灯か。


既に傷を癒す能力はほぼ失われている。体は切り傷と刺し傷が増える一方。流血は止まらない。徹底的に体は破壊され尽くしている。


回復に使えるエネルギーを使い果たして、最期に何を喋ろうとしているのか。少し興味が湧いた。


命乞いなら踏み躙る。走馬灯なら中断してやる。大切な人の事でも思い出しているならその思い出すら抹殺してやるし、遺言なら即座に忘れてやろう。


「なになに?♡聞こえな〜い♡もっと大きな声出せ♡頑張れ♡がんばれ〜♡」



『持たざる者の抵抗』発動から100秒経過。

発動時間が最大に達しました。



「『解放』。『封眼呪縛(フォールアイ)』」


視界が暗転する。なん、何が起き___


「『高位回復(エクスヒール)』。『四肢落とし』」


両腕両足が叩かれたような振動を感じ取る。

それを最後に、四肢の感覚が一切抜け落ちた。


背中に痛みが走った。転んだ?何が、今。


「回復魔法のありがたみ、しっかり味わえよ」


吐き捨てるような男の声が、聞こえた。

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