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プロローグ

失敗した。

私のせいで。

何回も見た光景だ。

結局この景色を回避する事は出来なかった。


もう戻れない。

とっくの前に限界を迎えていた。

それでも抗って、代償を払って、結局最後に辿り着いたのが、この光景なのか。


「あぶない!隊長!!!!!」


巨大なドラゴン。

赤黒い体には簡単に損傷を与えられず、禍々しい翼が羽ばたくたびに、精神に異常をきたす瘴気が撒き散らされる。

口からは灰色の光線を放ち、触れた対象を瞬時に腐敗させる。


ファンタジーなその存在は、都市という極めて現実的な場所で大暴れしている。ミスマッチも良いところだろう。


高層建築物より一回りほど巨大な体躯を持ち、しっぽでなぎはらえば、簡単に周囲のビルをへし折る。

足で大地を踏みしめれば大震動を起こし、凄まじい叫び声をあげれば五感が狂い、能力使用どころの話ではない。

灰色の光線は数キロメートル先のビル群を貫通し、一部がごっそりと抜け落ちた建物はまもなく崩壊する。


地獄のような光景で、それでもまだ諦めずに隊長は戦っている。

隊長を庇ったハンタは、先ほど光線が直撃して消し飛ばされた。

グラントは隊長の負担を減らすために必死に土の弾丸を飛ばしているが、ドラゴンには効果がない。出力を上げようと集中している内に、へし折られ倒壊したビルに巻き込まれる。


何度も見た。何度も。何度も何度も。


私の両足は既に折れて動けない。

折れていなくても、精神異常の瘴気のせいで、震えて動けなかっただろうけど。

そこら中に倒れている人達の中で、まだ微かに息がある者も、既に体も心も壊されている。

だからドラゴンも、足元に散らばる敗者達に、意識を向けたりしない。

これも経験済み。


隊長は凄く強いけど、この状況では勝てない。それも経験済み。


能力が戦闘に特化した人達を集めて迎え撃っても、ドラゴンの表皮に少し損傷を与えるだけで致命傷にはなりえなかった。

ドラゴンはその程度の傷を瞬時に回復できるのに対し、回復手段の乏しいこちらは1人、また1人と倒れていく。これも知ってる。


まぁ、よく頑張ったよね。

本当だったら全員死んでたんだし。

よくやったよ、本当に。


もう戻れないはずだったのに無理やり戻ったから、結局最後はグダグダになってしまった。

目眩が酷く、声も出ない、頭が割れそうで、それでも伝えられる事を、吐いた血で書き殴って、そのまま意識が消失した。


隊長は意図を汲んでくれたのだろう。意識を取り戻した時は、今まで訪れたことの無い地点にいた。拠点からうんと離れた、来訪者もまるで確認されない僻地。


戦わない選択をしたんだ。当然だ。

何とか倒したところで、感染する致死性の瘴気を広範囲に噴き出すのだから。


ドラゴンが現れたら逃げればいい。分散した他の人達が標的にならないように、選抜された戦闘員が僻地で気を引いて、そこからまた離脱するのを繰り返せば、良かった、はずだった。


逃げられなかった。

どうして気がつかなかったんだろう。

ドラゴンが現れた時に、いつも空は薄暗く変色していた。

その範囲内から、出ることが出来ないなんて。


知らなかった。散々見てきたのに。分からなかった。


私のせいで、みんな死ぬ。


結局、私は何のために、頑張っていたんだろう。


1人で戦い続けていた隊長の剣が折れる。これも見た。

隊長にしっぽ攻撃が直撃する、これも見た。

最後に吹き飛ばされた隊長に灰色の光線を放って、それで終わるんだ。

そのついでに発生する衝撃で、まだかろうじて息のある私や他の人も死ぬだろう。

そこから先は、知らない。

もう戻れないんだから、最後まで見ている必要もないか。

ドラゴンの口から、灰色の光線が、放たれ______


「ドラゴンバスターキャノーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


____る直前に変な叫び声が聞こえ、次に鋭い衝撃が地面に響く。衝撃で、吹き飛ばされない。


土埃が上がる。何も見えない。何が起きたの。


ドラゴンの気配が消えている。なんで?


「ドラゴンだけを即死させる、超汎用性が低くて対人戦ではまるで役に立たない魔法。攻略でも、そもそも希少アイテム集めて習得するより、普通にレベル上げて攻撃した方がマシ、レベル制限のあるダンジョンではまさかの使用不可、しかもエフェクトは地味と散々な評判だった、この魔法。遂に大活躍と言って良いんじゃないか〜〜!?」


誰かいる。誰か分からない。恐らく、ドラゴンを倒してくれた、誰かが。


でも、ダメだ。早く教えないと、致死性の瘴気が、広範囲に散布され…………ない?何が、どうなって。


「この調子で、色んな魔法や能力を使えるようになってやるぞ〜!!夢の異世界生活に向けて!!!!」


何を言ってるのか、よく分からなくて、それでも、長い長い、戦いが終わった事だけは、理解できて。



そこで意識が途切れた。

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