表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/20

捨てられし者と古き竜

穴の底は、思いのほか快適だった。

夜になっても冷え込まず、昼も焼けつくような暑さはない。


壁や地面を覆う光苔が、常に淡い光で辺りを照らしている。その光は目に優しく、上着をかぶれば、眠るのに支障はなかった。

その夜、俺はドラゴンに、自分の半生を語った。


面白くもない話だった。退屈だったはずだ。

けれど竜は、一言も遮らず、じっと耳を傾けてくれた。


「ふむ。お前の両親が誰かも、わからんのだな」

「ああ。祖父さんは、その話になると口を閉ざしてしまってな。けど、几帳面な人だった。村に戻れば、何か手がかりはあるかもしれない」


しばしの沈黙のあと、ドラゴンは低く呟いた。

「そうか……話を聞くかぎりでは、お前の村を襲ったのは、ただの盗賊団ではなさそうだな」

「え……?」


初めて耳にする示唆だった。けれど俺は、それ以上問い返さなかった。

――もう、村に執着はない。


それでも、長老に託された願いだけは、果たしてやりたいと思っていた。

「どちらにせよ、今のお前には、この穴から出ることすらできん」

竜の声は、岩のように低く、炎のように温かかった。


「トルサン。まずは、生きる力をつけることだ。今は、それが先決だ……さあ、もう寝ろ」

その一言が落ちた瞬間、まるで魔法のように、強烈な眠気が押し寄せた。


――魔法かもしれない。明日、訊いてみよう。

そう思いながら、意識はすうっと沈んでいった。

目を覚ましたのは、地上から光が差し込む、一日のうちのほんのわずかな時間だった。

遥か上空。井戸の底から覗くような小さな円に、白い太陽の光が注いでいた。


「……眩しい」

「よく寝ておったの」

すぐ近くで、竜が笑った。

「どうじゃ、体の具合は?」

「はい。こんなに元気なのは、生まれて初めてかもしれません」


それは本心だった。体の芯に、じんわりと熱が灯っているような感覚があった。

「ははは! それなら、これからもっと良くなるぞ。さて――まずは、この穴の話をしておこうか」


ここは、砂漠の中心に穿たれた大穴――アル=ホワ。

その深さは測り知れず、底から地上の風は届かない。


光苔が灯す淡い光のなかで、昼と夜の狭間のような時が、永遠に続いている。

「この穴にはな、多くの探索者が命をかけて降りてくる。だが、戻ってこれた者は、ほとんどおらん。お前のように、捨てられた者もな」


竜は静かに語った。

「……あの高さから魔物に襲われ、落ちて生きているのは、お前くらいのもんだぞ」

「……昨日、森に入ったし、呑気に寝てましたけど」


冗談めかして返したが、本当は笑える話ではなかった。

あの森には、猛毒を持つ獣や魔物がうようよしているという。


それでも昨夜は、一匹も姿を見なかった。

――きっと、あの咆哮のおかげだ。

「お前くらいのもんだろう! わしの咆哮を聞いても、怖がらん奴は」

違う。怖くなかったんじゃない。


体が動かなかった。ただ、それだけだ。

もし動けていたら――きっと、迷わず逃げ出していた。

「……ははは。そうかもしれんな」

竜は喉を鳴らし、愉快そうに笑った。


その後、俺は森へ出て、木の実とわずかな獲物を集めた。

帰り際、朽ちた木の陰で、白骨となった探索者の骸を見つけた。


骨のそばには、変色した皮の鞄と、錆びついた短剣が落ちていた。

「……弔ってやるよ」

そうつぶやき、目を閉じて手を合わせる。

「これは――その駄賃だ」


俺は短剣を拾い、鞄を肩にかけた。

そしてもう一度、穴の天井を見上げる。

遥か遠く、太陽の光は、もう消えかけていた。


数日が過ぎたある日、不意にドラゴンが言った。

「お前――いや、トルサンに、大事な話がある。わしの真名を教えておこう。ファルヴェリオンだ。昔はファルと呼ばれていたわ」

「ファルヴェリオンさんですね……」


俺はどうにか真面目な顔を保ちながら、内心では笑いを堪えていた。

(『ファル』って、ドワーフの村で飼っていそうなリスみたいな名前だよな……)

「トルサン! 顔が笑っておるぞ!」


ドラゴンが怒鳴った。今にも灼熱の炎を吐きそうな勢いだ。口元に火がちらつき、目が釣り上がっている。

「す、すみません、ファルさん」

「ふん……わかればいい」


それでも、『ファル』と呼ばれたことが、よほど嬉しかったのだろう。あの、かつて世界を恐怖に陥れたドラゴンが、鼻を鳴らしながらも、ほんの少しだけ機嫌を直していた。


「もしお前が名をつけることがあれば、参考にしてもよいぞ」

その声音は、どこか得意げだった。

それから数日、俺は亡くなった冒険者たちの遺品を集めた。


「売れるくらいあるな」俺はその中から自分に合う装備を着込み、剣を一生懸命に振っていた。

「そんな事よりも、お前の本当の力を引き出していこう」ファルは俺の姿を笑いながら言った。


「本当の力?」

「ああ、棒振りも大事だが、それよりももっと本質的なものだ。お前の持つ巨人族の力。それを引き出さねばならん。わしら古代種の魔法は、思いを形にする力……強く思えば、それが現実になるのだ」


「はあ……」

「本気で信じてみろ! お前の中に魔力は既にある」


確かにファルが嘘を言うことはない。心の底から信じて、いや、祈った。だが、何も変わらなかった。

「ふうん、やはり閉じているようだな。育ち方の問題だな。トルサン、わしに触れろ」


俺はドラゴンに触った。何度も触れているのに、何があるのだろうか?

「行くぞ。決して手を離すな」


ファルの中から、俺の全身を駆け巡るものを感じる。物凄いうねりだ。手を離したい気持ちを必死に我慢した。立ちくらみで座り込みたいのも我慢する。


「もう良いぞ、手を離せ。感じるか? お前の中の魔力を!」

「これがそうなんですね」


胸の奥が熱を帯びてざわめいた。ずっと閉じ込められていた何かが、ようやく息を吹き返したような。あの村の中に閉じ込められていた俺が、やっと外の世界に出たような感覚だった。


「さすが、巨人の子だ。わしの魔力を受けても恐れん! お前の中に閉じこもっていた魔力が、外に出るようになったはずだ。もう一度、信じて願え。そして、自分の魔力を出すように!」

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ