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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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戦支度


 早朝、コロシアムに、闘技場にいる者全員が集められた。

 闘技場の運営委員、看守、剣闘士、奴隷、使用人達。


「これより、シャーヒナ様より皆様にお話がございます」

 シャーヒナの演説が始まった。


 彼女が、この闘技場を古井戸家の長老より、全てを譲り受けたこと。

 そのことに不満を持つ、古井戸家、子狐家と戦争になるかも知れないこと。


「マーケットでの戦争行為はしない。戦闘員も入れないと古井戸家、子狐家に申し入れます」

「私についてきなさい!」一日前の彼女とは、比べものにならないくらいの迫力で、これが本来の彼女の姿だ。と俺は驚いた。


「闘技場に栄光を!」

「隼家に栄光を!」


 他家から派遣されてきている者、他家に与する者は、マーケットに移ることになった。中には、鉱都に自分で帰って行く者もいた。


 俺は、ハイエルフに会うべく、塔に登った。

「ああ、ここからあやつの演説を観ておったわ」

「どう思った?」


「はぁ、わしの目を欺けるとでも思ったのか? 若返っておるでは無いか?」

「そうなのか?」

 俺は、ハイエルフに頭を思い切り叩かれた。


「どうして、血を与えた本人が気がつかんのじゃ! わしがお前の血を飲むのとは訳が違うんだ」

 俺は経緯と事情を話した。


「いずれにせよ、もう剣闘士はおしまいにする。だが、このままここを去るわけにはいかない」

「ふうん、それで?」

「それで、どうすればいい?」


「馬鹿たれ! 考えて行動しろ! お前はどうしたいんだ!」俺はまた、ハイエルフに頭を殴られた。


 俺の簡単な戦略を話した。闘技場で迎え撃ち、大打撃を与える。逆に侵攻して、鉱都を制圧。その後、和平を結ぶ。


「お前にしては考えてたんだな」

「俺だけで制圧出来ると思うが、後が続かんからな。いずれにせよ、お別れをいいに来たんだ。勝っても負けても、生きても死んでも、しばらく、もしかしたら一生会えんと思うからな」


「はぁ、わしとの盟約を忘れたのか?」

「あっ……じゃあいずれ困ったら助けに来るよ」

「お前は、悪気なく忘れそうだな。仕方ない、ついていこう!」


 サーミヤは、何気なく言った。

「え? それは?」

「わしの自由だ。自由にお前について行く。だが面倒いな、古井戸家と子狐家の当主を殺してきてやるか」


「はぁ? おれよりも脳筋じゃ無いか?」

「そうだな。確かにわしらの力を吹聴するのは拙いな」


「俺のやるべきことは、とても難しいし、敵の強さも異常だ。俺も、いや俺の仲間も力をつけないと駄目だ。大変な目に遭うが大丈夫か?」


「ここにいるのも飽きたしな」

 ハイエルフは、俺の顔を見て笑った。


 シャーヒナの演説は、誰にでもわかりやすく、看守や剣闘士、奴隷各人の自分らの置かれた立場を教えるものだった。


「もっと、シャーヒナのやってきたことを、伝えるべきじゃないのか?」俺はカインに聞いた。


「それが、あの方の矜持なのだ。でも、みんなわかってるんじゃないかな」


 もし、闘技場の主がわかってしまったらどうなるか? 間違い無く、この素晴らしい環境は奪われてしまうだろう。どんな悲惨な目に遭うか? 知らせるまでもない。


 力のある剣闘士や能力のある者達は、既に古井戸家や子狐家から、裏取引や引き抜きの話が、連日来ているようだが。


「おい! 剣闘士会議の時間だ!」ファーリスが呼びにきた。


「任せるよ」


「ふざけたことを言ってる時間は無い。そら、行くぞ!」俺は、仕方なく、カインも引き連れて会議に臨むことにした。


 カインは嫌がっていたが、そんな自由は許さない。


 闘技場の周りは、闘技場の委員の指示で、陣地の構築や、遠方監視、食料品の買い出し等看守が作業をしていて慌ただしい。


「ちょっと待って!」俺は、その中にワッドを見つけて声をかけた。


「ワッド、井戸とシャーヒナの警備はどうなってる? 強い看守を配備してる?」


「シャーヒナ様には、俺の右腕をつけてある。井戸か? すぐに警備を常駐させるよ。しかし、お前は個人主義だと思ってなんだがな」


「まあ、それは変わってないよ!」


「安心したよ。お前はそうで無いとな!」



「さあ、行くぞ!」俺が連れられて来たのは、闘技場の二階にある会議室だった。既に、そこには、上級剣闘士が席についていた。


 俺も末席についた。ファーリスが口火を切った。彼の人徳と安定した強さは、議長向きかも知るない。


「事情は既にみんな理解している。シャーヒナ様には、恩義がある。だが、負け戦はしたくないのが本音だろう」


「戦で死ぬのが怖いわけじゃ無いぜ、トルサン」


「わかってるよ。じゃあ、カイン。戦力分析結果を教えてくれ!」


「わかりました。説明します」カインは、蝋を塗ってある木製板に、スタイラスで文字を書き始めた。


 古井戸家 一万 兵隊 六千(三千)

 子狐家  六千 兵隊 四千(千五百)

 隼家   二千 兵隊 一千(四百)


「これが、兵隊の数の差です。今回、攻めてくる数は括弧の中です。もしかしたら、古井戸家は優位とわかれば人数を増やしてくるかも知れません。ですが、子狐家はキャラバンに出ているのでこれが限界でしょう」


「じゃあ、俺たちは、十分の一以下の兵で戦うということか?」


「そうなります」


「厳しい戦いだな」


 だが、誰の目も死んでいなかった。


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