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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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勝者の資格

風と剣が溶け合う。無駄のない、美しい連続技。鍛え抜かれた剣筋が、空気そのものを斬り裂く。


「……なるほど。上等だ」

 俺も、やるだけだ。訓練の成果を――ここに出し切る。


「行くぞ!」

 激突。刃と刃が唸り、地響きのような衝撃が響く。


 ただの力比べじゃない。これは、技と技の応酬だ。

 風と水の複合魔術。剣を流し、斬撃をそらす。


「魔術の使い方、上手いな……!」

「何を上から目線で! 私は、お前みたいな奴が一番嫌いなんだ!」


 俺の方が膂力では上――なのに、攻めきれない。

「これでも食らえ!」

 魔剣が赤く染まり、炎が爆ぜた。

「うわ、あっちぃっ!」


 咄嗟に跳ぶ。バンデッドヘルムが燃え、慌てて投げ捨てた。

 観客席が爆笑に包まれる。

 イルフィーヤも、口元をわずかにほころばせていた。


 けれど、笑っているのは――余裕があるからだ。

 この火力、牽制じゃない。殺気を帯びている。


 これが、彼女が無敗たる理由か。

「お前、何種類使えるんだよ……器用な奴だな」

「馬鹿にしないで! カインが優しいからって甘えてるお前なんかに、褒められたくない!」


 ――なるほど。まるで仇のような目。

 嫉妬か、哀しみか。たぶん、両方だ。

 だったら……俺は負けられない。


 その気持ちが、一番わかるから。

 視線を上げる。観客席。いつもの場所。

 シャーヒナの隣に、じっと座って俺を見ているカイン。


 その視線に応えられるだけの戦いを、俺はしなければならない。

「審判、止めるなよ!」

 ライラなら、敵の隙を射抜く。


 カインなら、圧倒的な技量でねじ伏せる。

 だが今の俺は、まだ――足りない。

「おりゃああ!」


 突進。

 イルフィーヤの剣が横薙ぎに来る。逃げない。正面から受け止める。

 踏みとどまれ……! 転がるな……!

 魔剣が、唸りを上げて炎を吐く。


 まともに受けたら、終わる。

 俺は、咄嗟に剣を手から放った。彼女の顔めがけて――投擲。


 ライラの真似だ。

「何をっ……!」

 イルフィーヤが驚き、咄嗟に剣で弾く。

 その一瞬の隙を突く。


 背後――取った!

 イルフィーヤの尻を、ぺしっ。

 観客席が再び爆笑の渦に包まれる。

「悪童、何してる! 試合中だぞ!」

「真剣にやれよ、トルサン!」


 けれど、俺は誰よりも、真剣だった。

 この笑いは、俺にとっての“儀式”だ。

 ここからが――本当の勝負だ。

 巨人族に、柔な剣はいらない。

 俺の腕で、エルフの魔剣をすべて受け止める。


 ※

 イルフィーヤの斬撃を、両腕のアダマンタイト籠手で受け止める。

 彼女は、躊躇なく斬り込んでくる。


 けれど俺の“隠し技”――籠手による完全防御は、それを許さない。

「器用な奴だな」

 思わず、苦笑した。そんなふうに言われたのは、これが初めてだ。


「初めて言われたよ」

 風の速さ、重さ――もう慣れた。

 水で滑らせる技巧も、見切った。


 魔力の流れ。魔石の光。

 彼女の魔術の“起点”が、ようやく見えてきた。

「次は、火だな」


 俺は、死角に跳ぶ。

「ちょこまかと逃げるな!」

「おいおい、焼かれろってか?」


 一瞬、距離を取る。そして――走る。

 地面に転がった俺の剣に向かって。

 彼女も、慌てて動いた。

 俺の剣を拾わせてはならない。


 だが――彼女の方が近い。姿勢を落とし、手を伸ばす。

 俺は、最初から剣など狙っていない。狙いは、イルフィーヤの隙だ。


 全力で跳躍。

「えっ――」

 彼女が驚いた顔をした、その瞬間。

 拳が、エルフのフードを叩きつける。

 全身が激突する。


 イルフィーヤが、魔剣を手放して転がる。

 そのまま、闘技場の壁に――激突。

 岩が崩れ、砂煙が立ち上る。

 観客の息が止まる。


「……まずい、やり過ぎたか……」

 俺は駆け寄った。

 倒れている彼女を抱き上げる。意識がない。


 生命の危機かもしれない。

 本来なら、勝者は観客に拳を掲げ、敗者は放置される。


 だが――時間が惜しい。

 今、治癒魔法を使えば、誰に悟られるかわからない。それは出来ない。


 俺は彼女のフードを剥ぎ取り、抱きかかえた。

 フードには、対魔術・対物理防壁が張られていたので、魔法の邪魔になるだから、剥ぎ取った。


 砂煙が巻き起こる。

「ああ、サーミヤだな」

 高塔の上に、影が見える。

 走りながら、俺は彼女に治癒魔法をかける。


 門の裏、医務室へ――駆け込んだ。

 彼女は助かった。命の危機は脱している。

 間もなく、師匠である上級魔法剣士シフリー、エルフたち、関係者が駆けつけた。


「どうしたんだ、トルサン?」

「……運んだだけだ」

 シフリーが訝しげに俺を見る。


 金さえあれば、元に戻せる。それでも、今回は――違った。

 命に関わることだった。だから、動いた。それだけだ。


「そうか」

 彼女は、イルフィーヤの体に残る異分子の魔力を感じ取っていた。

「ありがとう」

 短く、それだけを言った。


 ※

 俺が闘技場に戻ると、すぐさま観客の罵声が飛んできた。

「おい、イルフィーヤをどこに連れて行った! 何してるんだ!」


「フィーフィーちゃんを返せ!」

「気絶させておいたか? この不良剣闘士!」

 構わない。罵声など、聞き慣れている。


 けれど――その中にあった、たった一つの視線が、俺の心を突き刺した。

 カインだ。

 冷たい瞳で、俺を見下ろしていた。


 まるで――信頼を、完全に断ち切ったかのような。

「……誤解だ!」

 俺の叫びは、爆音のような観客の怒号に、掻き消された。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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