どこまで勝てるか2
ついに、ベスト四だ。
ライラは胸を張り、堂々と入場してきた。これまでの勝利で得た自信が、隠しきれずに滲み出ている。
対戦相手は、中級剣闘士。両手に剣を構えた双剣使いだ。
闘技場では、使用できる武器は最大二本まで、長さも練習用の範囲内に制限されている。つまり、その限界ぎりぎりの装備を、正確に振るう熟練者ということだ。
「これは強敵ですね、トルサン!」
カインが心配そうに俺の肩を叩いた。
「おいおい、ライラは俺の奉公人だぞ? この闘技場で一番の二刀流使いは、俺だ!」
「はあ? お前の場合はただ振り回してるだけだろう」
サーミヤが鼻で笑う。
「……まあ、それも否定できないが」
俺は苦笑しながらも、口を引き結んだ。
「でも、ライラは違う。俺と何度も乱取りしてる。双剣との距離の詰め方も、受け方も、ちゃんと身体で覚えてる」
試合開始を告げる太鼓が鳴った。
観客席がどよめく。いや、悲鳴に近い声も混じっている。
——そりゃそうか。見た目の差が激しすぎる。
ライラの相手は、俺よりもさらに大きい。頭が五つ分は違う。腕も脚も異様に長く、そのぶん攻撃範囲も常識外れだ。
開始の合図とともに、剣闘士はゆっくりと歩み出す。
網を狭めるように、じりじりと間合いを詰める、慎重な歩法。今までのような突撃型とはまるで違う。
ライラは即座に動いた。闘技場の外周を軽やかに駆ける。
観客の間から笑いが漏れた。「追いかけっこだな」誰かが呟く。
実際、これはまるで狐と猟犬の攻防。
コーナーに追い詰めたい巨漢と、背後を狙う小柄な少女。その間合いは、ほんの紙一重だ。
やがて、双剣の剣闘士は追うのをやめた。
立ち止まり、どっしりと構える。動かずとも狩れるという自信——格の違いを見せつけるような姿勢だった。
——ここからが、本番だ。
ライラが突進する。
横をすり抜けながら斬り抜ける、あの得意の一閃。だが、剣闘士は手元の剣でしっかり受け止め、もう一方の剣で即座に反撃。
ライラも空いた手の剣で受け返す。
双剣同士の、研ぎ澄まされた鋼の応酬。刃が交差するたび、火花が舞う。
「面白い……やはり敵は中級だな」
俺が思わず呟くと、カインが顔をしかめた。
「呑気なこと言ってる場合ですか!」
剣闘士が一気に距離を詰めた。両手の剣で、大きく横薙ぎに振るう。
だが——ライラはそれを待っていた。
瞬間、床を滑るようなスライディング。
巨体の懐に潜り込み、逆手に持った剣で鋭い突きを繰り出す。
鋭い。だが浅い。相手が一歩引いた。
ライラは即座に立ち上がり、跳ねるように離脱。
背後から追ってくる斬撃が、彼女の肩をかすめるが、それも浅い。
正面から、再び対峙。
静かな呼吸が交差する。
ここからは、じわじわと間合いを詰める正面戦。
ライラにとっては、初めての“真っ向からの撃ち合い”だった。
びゅん。がんっ。
鋼が唸り、火花が散る。
双剣同士が真っ正面から激突する。瞬きすら惜しいほどの攻防。
ライラは、受けるたびに剣を落としそうに見える。
だが——違う。あれは、勢いを殺しているだけだ。
衝撃を受け流す、俺との練習で何度も繰り返した“力の受け方”。
たとえば俺の突きでも、正面から止めようとすれば吹き飛ばされる。だがライラはそれを、受け流す。
知らない相手からすれば、あれは“崩れ”に見える。
だから、焦る。力む。無理をする。
「くそっ……!」
剣闘士が歯噛みする。何度斬っても決まらない。苛立ちがにじむ。
——ライラは、崩れてなどいない。すべて、計算のうちだ。
体力も、集中力も、底なしのような少女。
この闘技場で、もしかすると一番かもしれない。
その差が、いま現れ始めていた。
剣闘士が吠えた。「くらえぇっ!」
全力の双剣が、頭上から振り下ろされる。
大地を叩き割るような一撃——それが、ライラの片手の剣を吹き飛ばした。
観客が沸く。「落とした!」「勝ったか?」
だが——違う。あれは、わざとだ。
……俺にはわかる。あの剣は、すでに力を抜いていた。
振り払わせることで、相手の動きを一瞬だけ止めた。
その瞬間。ライラは、もう一方の剣を両手で握り直し、ぐっと足を沈めた。
懐が空いたその隙間を、まっすぐ貫く。
決めていた一撃を、寸分の狂いもなく——叩き込んだ。
静まり返る場内。
一瞬、誰も何が起こったのか理解できない。
「……え?」「どっちが……?」
審判が声を張り上げる。
「一本!」
観客が、どっと沸いた。
次の瞬間、ライラの応援団から歓声が爆発する。
勝った。
あの巨躯の中級剣闘士を下して、ライラは決勝へと駒を進めたのだった。
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