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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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38/44

どこまで勝てるのか

初戦の相手は、ライラと同じ時期に入った同期の男だった。


 名前が場内アナウンスで呼ばれたとき、ライラの顔に一瞬、緊張が走る。

 同期の男――はっきり言って、小僧だ。

 それでも、ライラの肩がわずかに強ばっていた。


 俺は思わず声を出しそうになったが、カインが手を伸ばして俺の口を押さえる。

 真剣な眼差しで、小声で言う。


「ライラを信じて!」

 その一言に、息を呑み、俺は静かに頷いた。

「始め!」

 審判の掛け声が響いた瞬間、空気が張り詰める。


 だんっ――ばーん!

 響く足音とともに、わずか一呼吸の間もなく勝負は決まった。


「一本!」

 審判の声が、乾いた音とともに場内に響く。

 ライラの動きはまだ硬さが残っていた。だが、剣の軌道は正確で、同期の剣を確実に避けて隙を突き、一撃を撃ち込んだ。軽やかで、芯の通った一撃。


「まるで相手にならんな」

 サーミヤが呆れたように笑う。

 ライラは深く一礼し、そして、ほっとしたように微笑んで退場した。


 ――二回戦。

 次の相手は剣闘士見習いだった。

「剣闘士見習いの中でも、昇格間違いなしの男だよ」

 カインが横で教えてくれる。


「ふうん」

 俺の目には、まだまだにしか見えない。何より、ライラの動きから、初戦の硬さがすでに消えていた。


 試合が始まる。

 だが、見習いはなかなか仕掛けてこない。

「先に動いた方が不利だし……」

 観客席から、そんな声が漏れた瞬間だった。


 ライラが動いた。

 爆発するような踏み込み。一直線に、剣を振り上げて突っ込む。


「わっ!」

 見習いが思わず剣を差し出し、防御の構えを取る。

 その動きが、致命的な隙を生んだ。

 ライラは進行方向をわずかにずらし、振り上げた剣を返す。


 次の瞬間、横一文字に――一閃。

 見習いを抜き去った。


「一本!」

 審判の声に、場内が一瞬、静まり返る。

 そして、怒涛の歓声が巻き起こった。

 アマゾネスたち、女剣士たちの応援団も声を上げている。


「おいおい、こんなもんか?」

 サーミヤが笑い、肩をすくめた。

「ライラが速いんですよ」


 カインが見習いを庇うが、俺には違う風に見えた。

 ――問題は、相手の臨戦の心得が足りなすぎることだ。


 道場長のカルブが、悔しそうに顔を赤くしている。

 ライラはまた一礼し、穏やかな笑みを浮かべて退場した。


 だが、こんなあっけない試合ばかりではない。

 ライラの試合が、特別なだけだ。


 ――三戦目。ベスト八

 相手は下級剣闘士。

 道場で教えられる正統剣術とは異なり、型破りな幽幻の剣を操る。


 この相手に勝てるなら、ライラの修行は合格だと胸を張って言える。

 今回は幻術も魔法も使えない。純粋な剣技勝負。 


「始め!」

 審判の声と同時に、観客席から歓声が上がる。

 会場の熱気が、肌を刺すように伝わってくる。


 敵は剣を下段に構え、ふらりふらりと揺らす。変則的な構えだ。


 普通に挑めば、タイミングを狂わされる。

 だが、ライラの顔には焦りがなかった。

 むしろ――わずかに口元を緩めていた。楽しんでいるように見えた。


 そして、再び直進。

「そんな手は通じないぞ!」

 相手が叫び、迎え撃つ構えを取る。

 ライラはそれを見抜き、さらに速度を上げた。


 地を蹴る音が、鋭く響く。

 彼女は地を滑るように身を沈め、最小限の動きで懐に飛び込む。


 敵の剣が振り上げられ、ライラの剣が弾かれる。

 ライラは通り過ぎるとすぐにターンし、再び狙う。


 また同じように弾かれる。

 額から汗が落ち、ライラは最初の位置に戻った。


 守りの剣士――それがこの剣闘士の正体だ。

 振られる剣先は視線を惑わせるための囮。だが、ライラはそれを無視している。


「ライラがいつ見切るかだな」

 俺は腕を組み、戦いの行方を見守った。


 その瞬間は、思ったより早く訪れた。

 数回の同じ攻撃の後――ライラはさらに速度を上げて飛び込む。


「また、同じ攻撃か? 馬鹿の一つ覚えだな」

 観客の一部はそう思っただろう。実際、剣闘士本人も。


 だが、守りは所詮、守りだ。

 ライラの移動は速く、剣の振る速さも尋常ではない。

 剣闘士は、それを止めるために剣を振り上げた。


 その一瞬の驕りが、命取りだった。

 ライラの動き――ほんの僅かな筋肉の流れを見逃していた。

 横振りの剣を、すっと留めて空振りさせる。


 がら空きになった敵の脇腹に、一線を刻んだ。

 卓越した技術。俺には、できない。


「一本!」

 審判の声がためらいなく響く。

 歓声が爆発する。


 名前を叫ぶ声。地面を叩く音。会場が熱気に包まれる。

 その中を、ライラは一礼し、静かに立ち去った。


 その背中は、凛として――誰よりも誇らしかった。

「……やったな」

 俺は心の中で、勝利を噛みしめる。


 カインを見ると、彼も静かに頷いていた。

 サーミヤは黙っていると思ったら、カインからもらったお菓子をもぐもぐ食べていた。

 カルブの顔は、また真っ赤だ。


 彼もまた、敗因がわかっているのだ。油断、そして驕り。それが何より、剣士として許せない。


 俺は、揶揄うネタができたなと内心喜びつつ、にやけそうになるのを必死で堪えた。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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