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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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33/42

悪童の仮面

次の試合は、なんとか勝てた。

 敗北からの二週間。俺は、ひたすら闘技場の周りを駆け、剣を振り続けた。


「トルサン様、もう……無理です……っ」

 背後でアミンが音を上げて倒れ込む。

「アミン様たら、情けないですね」


 涼しい顔でライラが言った。最近は、ずいぶん打ち解けてきた。俺が、少しだけ嫉妬するほどに。


「いやいや、トルサンさんが異常なんだって……体力の化け物かよ……」

「ですが、アミン様も元剣士なんですよね?」


 ライラの率直すぎる一言に、アミンは乾いた笑いしか返せない。俺は、それを背に、ただ走り続けた。


 ──だが、勝ったとはいえ、納得はしていなかった。

 相手の気配を読む。ただそれだけのことが、俺にはまだ難しい。


 動きの読めない相手には、処理が追いつかず、混乱する。意識しすぎてすぐ崩れる。足りないのは、経験だった。実戦でしか鍛えられない感覚が、そこにはある。


 他の剣闘士であれば、傷や怪我、体調を整えるのに時間がかかるだろうが、俺にはそんな時間は必要ない。


「もっと試合をやらせてくれ!」

 俺は、鍛錬場の隅でワッドに直談判した。

「構わん。怪我人も多くて、対戦相手のやりくりは苦労してるからな」


 そこまではよかった。だが、ワッドは苦笑交じりに言った。

「ただし──闘技場は見世物だ。お前の人気を上げる必要がある」


「人気……?」

 意味が、すぐには飲み込めなかった。俺はただ、強くなりたいだけだ。人気なんて、どうでもよかった。


「どうやったら人気が出るんだ?」

 その日の夕食時、アミンとライラに相談してみた。


「人気といえば、上級八剣士の筆頭、ファーリスですね。誰にでも優しくて強い、まさに英雄です」


 アミンが饒舌に語る。他の八剣士たちも、個性派揃いで観客に人気らしい。

 だが俺には、特別な武器も、派手な流派もない。


「うーん……俺は、普通だしな……」

 思わず漏らした言葉に、二人が顔を見合わせた。

「……普通ですか」

「……それは、トルサン様の個性が出せていないですね」


 少し沈黙があって──ライラが手を打った。

「あっ、そうだ。トルサン様って、悪童のイメージありますよね。牢に入れられたりしてましたし。悪役にしましょう!」


「悪役ぅ?」

「はい! 観客が罵倒したくなるような、嫌な奴! でも強い!」

 俺は眉をひそめる。


「俺は卑怯な真似はしないぞ」

「しなくていいんです。卑怯に見せるんです。仮面です。……舞台の上だけの、役なんですよ」


 ライラの目は、まっすぐだった。

「悪役は必要なんです。闘技場を、面白くするために」


 アミンも、頷く。

 ……ならば。

 ──いや、考えてみれば、それも悪くはないかもしれない。


 昔から、俺は人に罵られて生きてきた。今さら、観客に罵倒されたところで、何も変わらない。


 それに、仮面をかぶっていれば、俺の本当の能力は見抜かれにくくなる。

「……いいだろう。悪役でもなんでもやってやる。観客に嫌われても、剣では負けねえ」


 次の日、ワッドに伝えると、腹を抱えて笑われた。

「ほう、お前が悪役か! それは面白い! 案外、似合うかもしれんぞ」


 そして実際にやってみると──これが、意外に悪くなかった。

 観客の罵声、野次、怒号。だが、それは俺の仮面に向けられたものだ。


 それに、怒声が飛ぶと、不思議と集中できた。

「トルサン様、次は砂を仕込んで、敵の目に!」

「相手の武器を奪ったら、わざと観客席に投げましょう!」


 ライラが次々に演出案を繰り出してくる。

「衣装も手配していますので。悪童のトルサン様にふさわしいものを」


 いつの間にか、彼女は本気だった。

 その横顔に、大人しくて優しいライラの面影は、もうなかった。


 だが、その仮面を本人の人格だと思う奴も中にはいるのには、困ったものだ。まあ、観客も演出として楽しんでいるのが、ほとんどなのだが。


 俺は、断トツの不人気剣闘士となったが、試合には、優先的に出場出来るようになった。


「試合編成会議でも、お前の取り合いだよ。おかげで俺には、シャーヒナ様から褒賞が出たよ」


「良かったな」

ワッドは、笑って俺に礼を言った。じゃあ、奢って貰いたいものだ。


「だが、卑怯な真似にも限度がある」

「わかっている」

 例えば、砂を投げても相手の目が見えるようになる前には襲いかかったりはしない。俺にとっては演出でしかないのだ。戦いは真剣に楽しみたい。


 俺は、勝ったり負けたりを繰り返しながら、段々と勝率があがり始めた。

 不人気剣闘士ながら、次はどんなことをやるかと、楽しみにしている客もついている。


「何をやるか」は、俺に訊かれても困る。

 悪童の行動は、ライラの演出指導に任せているのだから。


 しかし、次から次へと、小狡いことを考えつくものだ。俺は感心していた。ライラの考える元ネタは図書館にある本らしかった。


 仮面の裏で、俺は静かに歩いている。本当の強さへ向かって。

 あっという間に、季節は巡り、この闘技場に来て、一年が過ぎようとしていた。


 そして、俺は、中級の剣闘士に昇格した。もちろん、上級の剣闘士を目指すが、俺には秘めた目標がある。その為の準備をしないといけない。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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