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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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癒しの光、友の証

それからの数日。ライラとの生活は、俺にとって楽しいものだった。

カインとの食事も楽しかったが、ライラとの食事も楽しいものだ。


「どんな些細なことでも構わないから、話をしてくれないか?」

「トルサン様が面白いと思う話なんてありません」


「そんなことは無い。俺はよく非常識と言われる。だから、世間話が必要なんだ」

そして、傷のことにはお互い触れずに、うまく過ごしているつもりだった。


「お前なんて、どうせ捨てられるさ」

ある時、他の奉公人たちが取り囲んでライラに悪口を浴びせかけ、いじめているのを見てしまった。


「アミン、教えてくれ。ライラは虐められているのか?」

「トルサンさんも見てしまいましたか? あれは嫉妬からくる嫌がらせでしょう。女たちの社会ですからね。見下した者が優遇されるのが気に食わないのでしょう」


アミンら看守たちも手をこまねいているらしかった。


その夜、俺は決めていたことを実行に移す。

「ライラ、話がある」俺は真剣な声で、彼女に言った。


「……トルサン様も、私を捨てるのですか?」

「何を馬鹿なことを。ライラはもう友達だ。俺は友達を捨てない」


「こんな……魅力も価値も無い、私が……?」

「関係ない。友達は友達だ」


言い切ると、ライラはかすかに震えて、でも――その瞳に、一瞬だけ火が灯った。

「ライラ、そのベッドにうつ伏せに寝ろ。変なことはしない。信じてくれ」


「……はい」

 少しためらったが、彼女はそっとベッドに体を沈めた。

(まあ……あのハイエルフから薬をもらったってことにすればいい)


「今から治癒魔術を試す。正直、うまくいくかわからない。けど――やらせてくれ」

「私なんかに……使っては、もったいないです。これも古傷なので……」


「そう言うなよ。俺のためにもなる。頼む、練習台になってくれ」

俺は自分の手を見つめる。これまで、自分以外の誰かに魔法をかけたことは無い。


「目を閉じろ。痛かったら、遠慮なく言え」

深く息を吸い、手に意識を集中させる。

魔法とは、強く願うことだ。


――ライラの傷が癒えるように。

――この子の悲しみが、少しでも軽くなるように。


淡い光が俺の手に宿り、ライラの背を照らす。次の瞬間。

「ッ……!」

ライラの体がびくりと震えた。


肌の上に刻まれていた、幾重にも重なる傷跡が、少しずつ、けれど確かに――消えていく。

けれど、異変が起こった。


ライラが苦しみ出す。呼吸が荒れ、唇が紫に変わっていく。

(まずい……再生が速すぎる)


 俺の魔力は、ただの人間のそれじゃない。ドラゴンと巨人族の血を引く、俺自身の再生力が流れ込んでるんだ。


 このままじゃ、彼女の体がもたない――!

 俺はすかさず、唇を噛み切って血をにじませ、そのままライラの唇にそっと触れた。


「ごめん……!」

 微かな接吻にのせて、自分の生命力をほんの少しだけ流し込む。


 それは、俺がかつて「ドラゴンに救われた」ときに、同じように受け取った命の灯火だった。


ライラの呼吸が、落ち着く。やがて、穏やかな寝息だけが部屋に残った。

「……うまくいって、良かった」


彼女の柔らかな髪に触れながら、俺はそのまま、静かに目を閉じた。

「わぁぁぁ!」

叫び声で目を覚ました。


「どうした?」

「傷が……体の傷が……消えてます!」

 ライラは、両腕や足をまさぐりながら震えていた。


「なぁんだ、それか。体調はどうだ?」

「はい、すごく……軽いです。でも……どうして……?」


「言ったろ。治癒魔術だって。それより朝飯だ」

「す、すぐ取ってきます!」

 ライラは駆け出していき、気のいい看守・アミンを連れて戻ってきた。


「トルサンさんの食事は、一人じゃ持ちきれませんよ!」

 ああ、そうだった。俺の食事、五人前にしてもらってたんだったな。


 アミンは、ライラの顔を見て、目を見開く。

「……ライラの傷、……消えてますね?」

「そうだが。治してはいけないなんて、言われてないだろ?」


「確かに……でも、それを理由に“借金”を負わせるのは禁止事項です」

「心配するな、俺にそんなつもりは無い。ライラのことは友達として助けただけだ」ライラは俯き、そっと頷いた。


 アミンはしばらく無言で俺を見たあと、ふっと笑った。

「……疑ってすいません。ですが、目立ちすぎると面倒になりますよ?」


「もう目立ってるって!」

 アミンは苦笑し、「確かにそうですね」と言った。


 その夜、ライラと夕食をとりながら、彼女の話を聞いた。

「……一日中、たくさんの人に質問されて、少し疲れました」


「俺の言った通りに答えたか?」

「はい。皆様、サーミヤ様からのお薬だと話すと、納得してくれました。でも……本当はトルサン様のおかげなのに……」


「ライラ、それでいい。俺たちが目立つと、どこかで潰される。……ただ、お前自身は、もう少し堂々としてくれ」

「……はい!」


「それと、学校に通ってくれ。読み書き、計算、歴史……お前が学を身につければ、俺はもっと楽になる」


「でも……女性奴隷としてのお仕事が……」

「それなら、分の賃金を俺が払う。看守のアミンに頼んでみよう」


「でも……そんな、これ以上ご迷惑は……」

「ライラは勉強が嫌いか?」

「……いえ。学ぶのは、好きです」


「じゃあ決まりだ。俺は勉強が苦手だ。だから、お前が学を身につけて、俺の“頭脳”になってくれ」


ライラは目を大きく見開いたあと、強く頷いた。

「はい! 全力で!」

その声は、小さな胸から絞り出したとは思えないほど、力強く響いていた。


 だが噂が広がり、サーミヤに呼び出されることになった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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