表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/33

殺し合いの支度

その笑顔は穏やかだったが、どこか目が澄みすぎていて、俺には逆に怖かった。

 この男が、俺の命の行方を知っているのだろうか。


 それとも——もう、決まっているのか?

「お前の試合は特別に大金が動くからな。できる限りサポートさせてもらう」

 委員のワッドが肩をすくめ、半ば呆れたように言った。


「さあ、行くぞ。まずは武器からだ」

 武器庫へ向かう途中、ワッドから今回の試合内容が伝えられる。相手はカビース。そして、真剣使用の本気の殺し合い。


「使うのは真剣だ。お前には剣と防具を貸し出す。これは、剣闘士に昇格する際と同じ扱いだ。……もちろん貸出だ。代金はファイトマネーから引かせてもらう」

「剣はともかく、防具はいらない」


「ダメだ。金が動く試合だ、みすぼらしい格好じゃ締まらん。それに今回は特別ルールがある。――降参しても、相手か審判が認めない限り試合は続行される」


 つまり、殺し合いを強要されるということか。待遇の理由がわかった。

 剣闘士は本来、闘技場にとっては商品。破損させるのは損失のはずだ。それでもこのルール……よほど観客の鬱憤が溜まっているのだろう。おそらく、八百長の噂が広まっている。


「それは……ありがたい」

 俺は微笑んだ。その唇の奥には、確かな殺意が潜んでいた。

――必ずカビースを殺す。

 ワッドが、その笑みに一瞬たじろいだように目を見張る。


「……負けることもあるんだぞ?」

「でも、降参しなきゃ終わらないんだよな?」

「……はぁ? 死ぬ気かよ、お前」

 ワッドは呆れたように言ったが、すぐに俺の覚悟を読み取り、話題を切り替えた。


「どの剣にする? 普段は最低ランクのものしか貸せんが……今回は特別だ。上位のも使っていい」

「とにかく、頑丈で重い剣がいい。振った感触がちゃんとあるやつだ」


 ワッドが頷いて、武器庫の管理人アスリーハに合図を送る。

 出てきた候補の剣は、どれも質が高かったが――俺は迷わず、一番無骨で黒光りする板のような剣を手に取った。


 持ち上げた瞬間、手のひらにずしりと重みがのしかかる。だが、それが心地よかった。

「まさか、それか? 今までそれを選んだ者はいなかった。……仕入れといて正解だったな。果たして、お前に振れるかな?」


 アスリーハが挑発めいた声で笑った。

「――問題ない」

 俺は両手で柄を包むように握り、剣を振る。びゅん、と空を裂く音が響き、周囲の空気が震える。


 それは、まるで剣が何かを語りかけてくるようだった。まだ意味は分からない。けれど、深く、重い、意思のようなものを感じた。


「ほぉ……これなら見栄えはするな。ははは、持ち手に布でも巻いてやろう」

 ワッドは満足げに笑ったが、アスリーハの顔が引きつる。


「ちょっと待て。それは……古代遺跡で発掘された剣だ。旧種族の武器なんだ。戦闘で使うなんて……」

 言ってから、アスリーハはしまったという顔をした。


「……シャーヒナには黙っておいてやろう。武器をコレクションして楽しんでることはな」

 ワッドが得意げに言う。

「違う。将来値が上がる貴重な資産を保管しているだけだ。すべてはシャーヒナのため……」


 アスリーハはぶつぶつ文句を言いながらも、渋々貸し出しを承諾した。

 骨董だろうが何だろうが、そんなことはどうでもいい。


――勝つための剣だ。それだけだ。

 思いがけず、両手剣になってしまった。予定では双剣を使うつもりだったが、この剣に呼ばれた気がした。


――きっと、俺の種族の剣だ。巨人族の。

 生き延びたら、買い取ろう。

 盾は使わない。代わりに、頑丈な籠手と、アダマンタイト級のナイフを借りた。防具は仕方なく、最低限の一式を身につけることにした。


 ナイフを手渡されるとき、アスリーハが不安げに俺を見た。

「……殺し合いでもするつもりか?」

 その問いに、ワッドが代わりに答える。

「ああ、こいつはそのつもりだ」


 アスリーハは短く頷いた。

「――そうか。生きろよ」

 その一言だけを残し、背を向けた。

「お前を一人前として扱わねばならん。剣闘士として、闘技場に立ってもらう。……奴隷の首輪は外す。その代わり――奴隷紋を刻むことになる」


 奴隷の首輪は、所有者と、属する場所を示す標。

 物理的な装置であり、魔術によって締めることもできる。

 だが、奴隷紋は違う。それは“誓約”――破ることが極めて難しい契約だ。


 もちろん、誓わせる側にも制限がある。「死ね」といった理不尽な命令は通らない。

 一人前の剣闘士となれば、武器の携帯が許される。


 すなわち、闘技場にとっては脅威でもあり、同時に――頼れる味方でもある。

 剣闘士は闘技場から金を受け取り、その報酬で暮らしていく存在なのだ。


「刻まれるのは、闘技場の紋章だ。……将来、お前が他に売られることがあっても、自分で買い戻すことがあっても――奴隷紋の所有者が変わることになる」


「構わない。それがなきゃ、戦えないんだろ?」

「ああ。……じゃあ、呪術師のところへ向かおう」


 これから何度も顔を合わせることになるだろう。

 そしてきっと――これまで出会った誰よりも、厄介な相手だ。


 ……呪術師。いったい、どんな奴なんだ?

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ