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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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22/31

懲罰房の夜と再審の朝

俺は、懲罰房――独房に閉じ込められた。

三日間、水しか与えられなかった。だが、一人でいることは苦ではない。やることはいくらでもある。剣の練習と、勉強。道具がなくても、やりようはある。


姿勢を整え、空を斬るように剣を振る。頭の中では暗算を繰り返す。腹は減るが、命に別状はない。ドラゴンと巨人族の血が流れるこの身には、まだ溜め込んだ力が残っていた。


四日目、取調室に連れていかれた。素直に従う。無駄な抵抗はしない。

「事情を聞かせてもらおうか?」


現れたのは、監察官と呼ばれる屈強な男だった。大穴から来た奴らを除けば、今まで見た中でも群を抜いている。ただ、何を考えているかは読めない。


「トルサン、お前、なかなかの力持ちだな。壊した部屋の弁償はしてもらう」

「……はい。当然です」

「聞き分けの良い子だ。評判とは違うな。さて……ただの喧嘩か?」

「……はい」


八百長のことは言うな。そうカインからは忠告されている。

だが――。

「私は真実が知りたいだけだ。悪いようにはしない。話してくれないか?」


監察官の眼差しは真剣だった。嘘をついているようには見えなかった。

「……実は」


俺は口を開いた。推測も混じるが、間違いではない。そう信じたからだ。八百長のことを、すべて話した。


「ありがとう。……もう少しだけ我慢してくれ。この件は他言無用だ」

監察官はそう言い残し、慌ただしく部屋を後にした。同行していた看守たちも慌ててついていく。


――二日後。再び、取調室に連れて行かれた。

入ってすぐ、空気の異変を感じた。監察官の目が、前回とまるで違っていた。冷たい。断罪の色をしている。


「お前は、自分の罪を逃れるために嘘をつき、多くの者を陥れようとした」

「……は?」

「血印のある証文など、どこにも無かった。お前と同室だった者は、お前が酒に酔って暴れたと証言している。妄想癖があるともな」


「麻薬入りの酒の瓶は?」

「見つかった。が、中身は半分以上残っていた。俺も飲んだが、ただの上等な酒だった」


「カビースが証拠を――!」

「カビースは入院中だ」

「じゃあ、看守が……あいつらが口裏を――!」


「誰もそんな八百長の話など知らんと言っていた。お前の被害妄想だろう?」

「違う! 誰が自分から関与を明かすか!」

「カビースは言っていた。お前を介抱しようとして怪我をしたが、許してやると。あいつは後輩思いで、今も現場に残って指導している。お前とは違う」


「……ちくしょう」

「虚偽告訴の罪により、追放処分が決まった。明日には判決が下る」

「違う! 俺はここに残りたいんだ!」


「ふざけるな。お前のせいで俺の首が飛びかけたんだぞ。これで一件落着だ」

……嵌められた。

ただ真実を語っただけなのに、最初から罠だったかのような、完璧な崩し方だった。


その夜、独房に戻された俺の前に出されたのは、かびだらけのパン。

だが、俺の体には毒も効かない。問題ない。

「懐かしいな、この味」


だが、不味いものは不味い。味覚だけは鍛えられない。

「贅沢をしすぎた……」

それでも、俺は食べた。この悔しさを、過ちとして刻むために。


涙は流さない。ただ、噛みしめた。

――そして、翌朝。

追放の判決が下る直前、再び扉が開いた。

現れたのは、監察官に加え、数名の兵士。そして――カイン、そして一人の老婆。


その場の空気が張りつめた。

「こいつです、シャーヒナ様。嘘をつき、混乱を招いた者です」

「カディブ、私の名を軽々しく呼ぶな。黙っておれ。……カイン、この少年を助ければよいのだな?」


老婆――シャーヒナと呼ばれたその女は、貴族のような佇まいをしていたが、声音には冷たさと愉悦が入り混じっていた。


「お慈悲を頂きたく、伏して願います」

カインは、深々と頭を垂れた。

「たいした者には見えぬが……まあいい。カディブ、調査をやり直せ」


「しかし……私も調査に立ち会い――」

「お前は、シャーヒナに逆らうのか? この闘技場の主人は誰だ?」


護衛のひとり――長身の男が、静かに問いかけた。その声は氷のように冷たく、だが力に満ちていた。


監察官は一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をしたが、すぐに表情を消した。だが、シャーヒナは見逃さなかった。


「ハディード、手を貸してあげなさい。看守の尋問を特にね」

「すでに全員に聞いております、シャーヒナ」

監察官が言い返した、その瞬間だった。


風も音もなかった。ただ、次の瞬間には、監察官の身体が空中に跳ね飛ばされていた。

ハディードの拳――あるいは何か。それすら見えなかった。


監察官は、動かない。

「カディブは職務怠慢により禁錮。牢に入れておけ」

あまりにも淡々と、シャーヒナは言った。


「さて……看守全員となると、百人以上ね。調査も骨が折れるわ」

「申し上げます。トルサンは、カビースと看守がやりとりしていた現場を目撃しております」


「ほう……それは本当か?」

「……暗くて名前は読めなかったけど、顔は覚えてる。だから、やらせてください。俺が見つけます」

逃げ場はない。俺は言い切った。


看守たちが一堂に集められ、集会が開かれた。だが、開始は遅れ、会場はざわついていた。


「悪いが、少し待ってくれ。軽食でも取っておけ」

 司会がそう告げ、女奴隷たちが豪華な食事と茶を運ぶ。


 食事を配る奴隷の中に、密偵がいる。そして、耳と目に優れた獣人たちが周囲に配置され、集まる会話をすべて書き留めていた。


 人族の情報収集の手口。その緻密さに、俺はぞっとし、同時に感心した。

 俺もまた、隠し窓から、例の看守を探していた。


見つからない。顔は覚えているはずなのに――。

「見つかったかい?」

 カインが声をかけてきた。俺は首を横に振る。


「トルサンに見られてるから、きっと変装してる。髪型、髭、服装……細部の違いに気を取られないで」


 悔しい。だが、手を伸ばしてくれるカインの言葉は、俺を立たせてくれる。

やるしかない。


シャーヒナが登壇し、看守たちが一斉にひれ伏す。

『不正は許さない。不正を知り、黙認する者も、また同罪』


それだけの言葉。だが、会場は凍りついた。

その後、看守たちは入れ替わりながら忠誠を誓い、解散となった。


静まり返る中、俺はつぶやいた。

「……やっと、わかった」

「本当かい、名前は?」

「ごめん、実はまだ全部読めないんだ」

「じゃあ、勉強しようね」


 俺は石板を手に取り、名前――読めないネームタグを、形で写し取るように書き記していった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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