表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/28

昇進と辞退

 試合が終わったあと、闘技場にある集会所へ、新人見習い全員が集められた。


 並べられた席には一人ひとりの分だけトレイが用意され、旨そうな肉やフルーツ、焼きたてのパンが並んでいる。


「わあっ、やったぁ!」

 歓声をあげる子供たちの目が、きらきらと輝いていた。


 ──これが、彼らの楽しみだったのだ。

 俺まで、つられて嬉しくなる。カインがいつも子供たちを励ましていた理由が、少しだけわかった気がした。


「お疲れ様でした」

 女奴隷たちが丁寧にスープや水を配ってくれる。

 やがて、闘技場の委員が前に立ち、簡単な挨拶があった。


 今回は階級別の仕分けを導入した結果、怪我人が一人も出なかったという。いつもなら、死人や重傷者が出るのが当たり前だったらしい。


「これからも精進するように。昇格者は、後ほど別室で呼び出す。それでは、食事を始めてくれ」


 集会所が一気ににぎやかになった。あちこちで笑い声と話し声が飛び交う。

 カインはどこかに行ったようだ。たぶん、同じ牢屋の子の介抱にでも向かったのだろう。


 俺は黙って食事をしながら、耳をすませた。

 気になる噂が、ひそひそと聞こえてくる。

「カインがさ、競技員と話してさ、ルールを決めたらしい。八百長だよな」


「ああ、なるほどね。だから優勝出来たんだな」

 ふざけんなよ。あいつに勝てる新人見習いなんているかよ。本気でぶつかった俺が強さを知っている。それに撃ち込まれて終わりなら、もっと簡単に奴は勝っていた。


 話を聞いていて、怒りがにじんだ。

「……もういいか? 来い」

 警備員が声をかけてきた。俺が食事を終えるのを待っていたらしい。


 従って席を立ち、案内されたのは、闘技場の奥にある小部屋だった。

 警備員が扉を叩く。


「入れ」

 声がした中には、先ほど挨拶していた委員が座っていた。

「席につけ、トルサン」


 どうやら睨みつけていたらしい俺に、委員は軽く笑って手で示す。俺は無言で椅子に腰を下ろした。


「手短に話す。──昇格だ。おめでとう、トルサン」

「……俺は、カインに負けた」

「昇格者は一人じゃない。今回は三人。男二人、女一人だ」


「そうか……よかった。なら、またカインと戦えるかもな」

「どうだかな。──奴は辞退したよ」

 頭の中が一瞬、真っ白になった。


 カインが……辞退? なんでだ。俺たち、また闘えるって……

 委員の口からは、昇格後の規則や契約についての説明が続いた。だが、ほとんど頭に入ってこなかった。


 賭けのために戦う場であること、手抜きや八百長は重罪であること──それだけは、やけに耳に残った。


「……手抜きなんか、するもんかよ」

 ぽつりと呟いた俺に、委員はほんのわずかに目を細める。


「カインはなんで、辞退したんだ」

「さあな。俺たちだって期待してた。……御方も、残念がっておられたよ」


 それが誰なのかも気になったが、今はそれどころじゃない。

「話は以上だ。契約書にサインしろ」


「ああ……」

 戻ったら、カインを問い詰めよう。

 そう思いながら署名した。


 だがその願いは、果たされなかった。

 俺はそのまま新人の部屋に案内され、──二度と、新人見習いの部屋に戻ることはなかった。カインのいるあの部屋に。



 そこは、新人部屋と呼ばれている八人部屋だった。二段ベッドが四つ並び、足も伸ばせて、自分の場所もある──この環境だけを見れば、かなり厚遇だ。


 だが、いつまでもこんなところにいられない。しかし、逃げ出すつもりはない。貪欲に吸収して成長する。目標は、一人部屋だ。ドラゴンの卵を孵化させなければならない。


「この部屋しか空いてない。すまんが耐えてくれ」

「どこでも大丈夫です。ありがとうございます」俺は看守の狼族の男に頭を下げた。


「碌でもないグラディアトルが居座ってるからな、気をつけろ!」


 普通、グラディアトル──一流の剣闘士と認められれば一人部屋になる。なのに、何の理由があってあいつが残っているのか。


 八人部屋は階級でいえばノービス、いわゆる新人。四人部屋はティロ、剣闘士見習いの部屋だった。


「お前が、見習い戦の優勝者か? 俺はカビースだ」その部屋の牢名主で、剣闘士の男が俺に話しかけてきた。


 俺の奴への最初の感想は──太った。いや、腐ったオークのようだった。見たことがないほどだらしない体つきだ。


「まあ、楽しくやろうぜ! なあ、みんな」

 カビースが周囲を見回して声を上げると、

「ええ、カビース様に従っていれば、美味しい飯が食えるぞ!」


「ああ、他にもな、お菓子に小遣いも貰える。欲しいものもな」

 部屋にいる全員が、一斉に口を揃えて、まるで訓練されたかのように「そうだ、そうだ!」と唱和した。


 その日の夜、消灯時間が過ぎ、看守がいなくなり扉が閉じられると、俺のいる部屋だけに小さな魔石灯が灯った。隣や他の部屋は真っ暗だった。


「これは携帯式の魔石灯だ。珍しいだろう? 高かったがな」

 グラディアトルになると、一定の金額の小遣いが支給されるらしい。他にも勝利手当や各種手当があると聞く。


「なんだ、驚かないのか?」

 カビースが俺の顔を覗き込み、意味ありげに呟いた。


「ええ、ドワーフの村で見たことがありますから……」

「ふうん……」


 カビースは俺をじっと見た。たぶん、その事情が気になったのだろう。

「おい、みんな、新人の歓迎会をやろう! 酒やつまみもあるぞ!」


 カビースが自分のベッドの下の引き出しから、大事そうに袋を取り出した。そのベッドは明らかに他より二回りも大きい。


「実はな、昨日マーケットに買い出しに行ってな」

「グラディアトルになると、そんなことも許されるのか?」


 俺は驚いて声をあげる。


「違うわ! カビース様だけの特別待遇さ」

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ