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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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18/26

地に足をつけて


デグは一直線に突っ込んできた。

「ふざけてるのか!」

俺は剣を全力で振り下ろした。けれど、奴は――それを読んでいたかのように、すっと体を横にずらす。


倍以上の巨体だというのに、妙に身のこなしが軽い。

そして次の瞬間、全身をひねって、両腕で剣を振る。


それはもはや“剣”じゃなかった。

岩を砕く戦鎚の一撃のように、ただ力任せに俺を叩き潰しにくる。

――だが、受け止めた。

足を一歩も動かさずに。


吹き飛ばされてステージから落ちるとでも思っていたのだろう。

デグの顔が驚愕に歪んだ。

「そんなもんか。じゃあ――今度は、こっちの番だ」


俺は左肩を沈めて踏み込み、空いた肘で奴の腹をえぐるように突いた。

鈍い音がして、デグの表情が苦痛に染まる。否、吐いた。

「おいおい、お前、本当に巨人族か?」


弱い。というより、打たれ弱すぎる。

「じゃあ、これはどうだ」

俺は右手の剣を振り抜き、デグの腕を斬る。

「痛い、痛い! 負けだっ!」

腕を抱えてしゃがみ込み、奴は膝から崩れ落ちた。


――違う。こいつは本物じゃない。

片腕を折られたくらいで、こんな無様な負け方はしない。誇り高い一族なら、なおさらだ。


「次に“巨人族”を名乗ったら、許さん」

それは、考えるよりも先に口をついて出た。

けれどその瞬間、自分の中に、芽生えつつある“誇り”という感情に気づいた。


俺はもう、デグには興味を失っていた。

視線は自然と、対角線の戦場へと向く。

カインと、エルフの女剣士。

俺とは違う、“剣”の戦い。


カインは明らかに、格が違う。

攻めを受け、力を流し、鋭く斬り返す。

観客たちは言葉も発せず、ただ静かに見入っていた。まるで、美しい舞の演目を見ているように。


徐々に、女剣士は押され始めた。

だがその刹那、彼女は一気に踏み込み、勝負をかけた。

カインの剣が弾かれかけ、手元が大きく崩れる。


一瞬、手から剣が滑りそうになった――だが、落とさない。踏ん張った。

「……おかしい」

俺の目は、魔力の流れを見逃さなかった。

女剣士の体内から、微かに魔力が流れ出している。


本来、魔術の使用は禁止のはずだ。

つまり、剣に魔術を付与しているのだろう。痺れる、ということは、雷剣だな。

カインも、きっと気づいているはずだ。


それでもやめないどころか、むしろ……その痛みすら、楽しんでいるように見える。

そして次の瞬間――

カインの小手が、美しいまでに決まった。

エルフの手から剣がこぼれ落ちる。


その静寂の中、ついに、カインと俺の戦いが始まる。


「いくぞ、トルサン」

 カインは静かにそう言い、まっすぐ中央へと歩き出した。

「ああ」


 俺もその場を離れた。歩きながら、こっそり岩場に仕込んでいた細工を視線の端で確認する。


 足を引っかけて揺れるように仕掛けた割れ目。ルール違反じゃない。けど、カインには使いたくない。


 そんな卑怯な真似をする相手じゃない。してはいけない相手だ。

 中央で、カインが俺を待っていた。観客の視線を背に受けながら、堂々と立つ姿。


 剣を立てて構えた彼は、ひと呼吸置いて——踏み込んだ。

 流れるような動き。オーバーアクションに見せかけたその一撃は、疾風のように速く、しかも重い。


 連撃、連撃、また連撃。

 どれも見たことのあるはずの剣筋——なのに、違う。


「なんだ……こんなに、違ったか……?」

 目の前のカインに、いつもの柔和な顔はなかった。


 優しげな仮面を脱ぎ捨て、そこにいたのは——冷酷で、正確で、情け容赦のない戦士だった。


「本気で来い。トルサン」

 その言葉に、俺は言葉を返せない。飲み込まれそうになる。


 この男は、最初から本気だった。俺の知っている“カイン”とは別人だ。

 俺の剣は、まるで追いつけない。反応が、遅れる。いや——間に合ってすらいない。


 これまでの剣士も強かった。だが、カインは速さも重さも段違いだった。

 今、彼の中で眠っていた“何か”が目覚めたのだ。


 ひとしきり打ち込んだあと、カインは手を止めた。肩一つ上下させることもなく、涼しい顔のまま。


 打ち込まれていたのは俺だけだ。俺の身体に防具はない。

 このままでは、普通の剣士ならもう立てない。重症ものだ。


 ——それでも、俺は倒れない。

 観客たちが固唾を呑んで見守っている。

 あの剣技の美しさ。だが、その大木のような男をどうやって倒すのか。誰もが結末を想像する。


 だが、俺は分かっている。

 「その時」は来ない。

 真剣でさえ、今の俺を倒せやしない。

 この身体、この耐久、この“異質さ”に、俺自身が一番驚いている。


(ルールに……感謝だ)

「ふん、次はお前の番だ。トルサン。撃ち込んでこい」

 どこか、勝負の行方を悟ったような口ぶり。


 だが、それでも見せ場をくれようとしているのかもしれない。

「……甘いな、カイン」

 俺は走り出す。上段から振りかぶり、渾身の一撃を——


 ぐらり、と足元が揺れた。

(しまった……!)

 仕掛けられた岩場。今、俺が踏み込んだ場所だ。彼は無駄に俺を叩いていた訳じゃない。その裏で、岩場を崩していたのだ。


 立て直そうとした瞬間、カインの剣が俺の足を払う。

「もっと、良い男になれよ」

 その一言とともに、俺は片膝をついた。


 試合は、終わった。

 最初から最後まで、すべてカインのペースだった。全て計算されていた。


「……完敗だ」

 だけど、俺は膝をついたまま、ゆっくりと立ち上がる。


 両足を、地にしっかりとつけて。


 俺は、まだ、終わっちゃいない。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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