巨人族との戦い
控え室は複数あり、それぞれ別の門から入場するようだ。
闘技場の中央には、数段高くせり上がった大型の円形のステージ。ざらついた石畳と、褪せた血の跡。見下ろす観客席のざわめきが、じわじわと胸に響いてくる。
「ここから落ちたら負け、ってことか」
ステージを見上げながら、人数をざっと数える。十人弱。
「カイン、思ったより少ないな」
「ああ。どうも甘い相手はいないみたいだね。各牢屋の代表クラスばかりだと思うよ」
拡声器の魔道具が声を響かせ、名前が順番に呼ばれていく。呼ばれた者たちは思い思いのアピールを披露する。
カインは涼しげに一礼し、俺は軽く手を上げた。
パッと見で、ヤバそうなのが何人かいる。
それが、むしろ気持ちを静めてくれた。
俺が立つのは、俺の“今”を超えるための場所なのだ。
名前を呼ばれた全員がステージに上がると、どこかで鐘が鳴った。
その音を合図に、カインは俺と組むかと思いきや、真っ直ぐ反対側へ走っていった。
俺はその場に留まる。
このステージは、少し押されただけでも転落する造りだ。むやみに動くより、足場を固めたほうがいい。
背中を気にせず、前だけを見られる。それは大きな利点だ。
足音が二つ。
目の前に現れたのは、目つきも動きも洗練された二人の剣士。間違いなく組んでいる。
「……いいぜ、来いよ」
俺は木刀を構え、口角をわずかに吊り上げた。
*
心が、静かだった。
二人は息を合わせ、左右から同時に斬りかかってきた。剣筋が鋭く、速い。だが、重みもある。
俺はあえて、防御のタイミングを遅らせた。——間に合わない。
肋骨の下と手首を、正確に撃ち抜かれる。鋭い痛みが腹の奥に突き刺さった。
普通なら、これで戦闘不能だろう。だが——。
「おい、やっぱりこいつ、どこかおかしいぞ!」
「噂通りの頑丈さだ……!」
その通りだ。
今回使われている木剣は、訓練用よりも硬く、芯を打てば骨まで響く仕様だ。
だが、それでも俺は崩れない。
「……少しも、痛くもないけどな」
にかりと笑いかけると、剣士たちはわずかに表情を歪め、すぐさま連撃に移った。
しかも、狙いはさっきと同じ箇所ばかり。的確な反復攻撃——訓練された剣士の証拠だ。
だが。
「上手いが、それだけだ!」
俺は剣を片手に持ち替え、もう片方の手で、片方の剣士の剣をがしっと掴んだ。
「なっ——」
ぐい、と引き寄せる。剣士ごと引っ張られる。
剣を放すこともできず、もがくが、無駄だ。
渾身の力で俺の手を振り解こうとしてきた、その瞬間——。
「わかったよ!」
ぱっと手を離す。
「——うわっ!」
勢い余って崩れた体を、俺は木剣の側面で叩いた。
剣士は見事にバランスを崩し、ステージから転落していった。
その間も、もう一人は鳩尾を鋭く突いてきた。
だが——見切れる。
俺は木剣を両手に持ち直し、相手の突きを待ち受ける。そしてその瞬間、上段から振り下ろした。
「やぁっ!」
打撃が、剣士の手を直撃する。
衝撃で剣が弾き飛び、石畳に転がった。
二人、失格。
観客のざわめきが、耳に戻ってくる。
俺がどれだけ集中していたのか、ようやく自覚した。
「ふぅ……」
息を吐き、周囲を見渡す。
残っているのは四人——俺、カイン、体格のいい男、そして異色の女剣士。
順当な面子だ。カインが言っていた通りの顔ぶれ。
その中でも、特に目を引くのは——あいつ。
大きな体格、厚い筋肉、そして……どこか俺と似た匂い。
「あいつが、デグか」
噂は聞いていた。
村で人を殺した犯罪者、そして自称・巨人族。
フェルは言っていた。
古代種で、滅多に人間の領域には現れない存在だと。
「奴は、俺と同じか……?」
心がざわつく。俺は何度か話しかけたこともある。だが、あいつは一度も応じなかった。明らかに見下した態度をとられていた。
「どうして、あんな奴に声をかけるんだ?」
カインが不思議そうに訊いてきた。俺が彼以外と話そうとすること自体が、珍しかったのだろう。
「いや、気になってな。巨人族なんだろ?」
「そう本人は言ってるらしいけどね。……本当にそうなら、大問題だよ。小国ひとつ潰す力があるって言われてるし、不死身だとも」
「……詳しいな?」
「はは……図書館で調べたんだ。ついでに、同じ牢の子にも聞いてみた。俺も、気になってたから」
知識じゃ埋まらない違和感がある。なら、確かめる方法は一つ。
剣を交えれば、わかる。
「おい、デグ! 木偶の坊!」
言葉が届いた。
あいつは、初めて反応を示した。
目を見開き、怒気を燃やしながら、こちらへ駆けてきた。
俺が、デグと撃ち合う間に、カインと女剣士が撃ち合いになる。女剣士は、エルフのようだ。カインの美しい剣捌きと立ち振る舞いは、相変わらず見惚れてしまう。
「お前の相手は俺だろうが!」
デグが躊躇なく突進してくる。この子が本当に巨人かどうか俺は知る術を持たない。だが、俺と同じならば、魔法はともかくとして、硬い体のはずだ。
「本物かどうか、調べてやる!」
俺は剣を振り上げた。
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