表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/23

檻の内側

牢に戻ると、ちょうど点呼の時間だった。

 廊下には、ぴんと張りつめた緊張が走っている。少しでも遅れれば、ペナルティがあるらしい。


 案の定、息を切らして駆けてきた見習いの少年が、看守に怒鳴られていた。


「何をしていた!」

「す、すみません……」


 俺たちも名前を呼ばれ、牢の前に整列させられる。看守が一人ずつ顔色を確かめ、体調を確認していった。


「おい、お前……具合が悪そうだな」

「いえ、だ、大丈夫です」

「駄目だ。こっちに来い」


 昨日、俺と一緒にここへ連れてこられた、あの子だった。顔色は青く、額には汗がにじんでいる。緊張と疲れが重なり、熱を出したのだろう。


 看守はその体をひょいと抱え上げ、無言のまま廊下の奥へ運び去った。


 また……いなくなった。


 夕食が運ばれてくる。

 パンと水、それに一切れの肉。さらに果物までついていた。


 牢の中に、ほんの一瞬だけ歓声が広がる。目を輝かせた奴隷たちが、順番に、静かにトレイを受け取っていく。


 肉の大きさはまちまちだったが、誰も文句を言わなかった。皆、言葉もなく、ただ幸せそうな顔で食べている。その光景を見て、俺の胸は少しだけ温かくなる。


 やがて廊下の扉が閉じられ、牢の一日は静かに終わりを迎えた。


 カインに聞きたいことはいくつもあったが、言葉にする前に、まぶたが重くなっていった。


 翌朝。鐘の音で飛び起きる。点呼を終えると、俺はカインの腕をつかみ、そのまま食堂へ引っ張っていった。


 パンとスープを受け取り、闘技場の壁際に腰を下ろして食べる。


「……トルサン、朝から元気だね。なんかあったの?」


 パンをかじりながら、カインが少し驚いた顔でこちらを見る。


「まずは話をしよう。昨日、連れて行かれたあの子……どうなったんだ? ほかの子たちは?」


 カインの表情が、一瞬だけ強張った。だがすぐに、にこりと微笑み、立ち上がる。


「……時間ないし、見たほうが早いな。ついてきて」


 俺も立ち上がった。朝の長距離走の前だが、今はそんなこと、どうでもよかった。


 カインは闘技場の門脇にある裏道へ入り、俺はその背中を追う。


 塀の内側、オアシスに接した一角に、緑の茂る場所があった。小さな森だ。


 その奥に、静かに建つ一軒の平屋があった。落ち着いた白木造りの建物。


「ここだよ。窓、覗いてごらん?」


 促され、俺は背伸びをして、開いている窓から中をのぞいた。


 部屋の中には、ずらりと並ぶベッド。そして、そこに横たわる子どもたち。


 見覚えのある顔もあった。昨日、俺と同じタイミングで来た、あの子だ。深く、安らかに眠っている。


 別の窓をのぞくと、小さな部屋で、何人かの子どもたちが笑いながら遊んでいた。受け入れの時、別室へ連れて行かれた子たちだ。皆、元気そうで、楽しそうだった。


「……これは……どういうことなんだ?」


 言葉が追いつかない。俺が想像していた“奴隷の扱い”とは、まるで違う光景だった。


「見た通りだよ。トルサンには、説明するより見せた方が早いと思ってたんだ」


 カインが、イタズラっぽくウインクする。


 ……まったくだ。俺みたいな石頭には、話より現実のほうがよく効く。


 ここでは、幼い子どもや体の弱い奴隷が保護されているらしい。建物の入口には警備が立ち、部屋の中には子どもたちを見守る年配の女奴隷の姿もあった。彼女が、ここでの保母なのだろう。


「お前たち、何してんだい?」


 大きな声に振り向くと、窓の奥から、ふくよかな体つきの年配女性がこちらをにらんでいた。


「マザーステラ、新人見習いのカインです。新人を案内していました」


 カインはぴたりと背筋を伸ばし、深く頭を下げる。その所作は、奴隷とは思えないほど礼儀正しい。俺の脇腹を軽く突かれ、慌てて続く。


「あっ、トルサンです。よろしくお願いします!」


「ここは遊び場じゃないよ。とっとと行きな!」


「はいっ!」


 俺たちは慌てて走り出した。トレーニングに遅れるのはまずい――だが、それ以上に、胸の奥が不思議と軽くなっていた。



 それから一ヶ月がたった。

 ようやく、ここでの生活にも慣れ、闘技場の事情や慣習も少しずつ理解できるようになってきた。


 ――まあ、そのほとんどはカインに教わったことだが。


 看守や警備、教師や保母に至るまで、ほとんどがこの闘技場の元奴隷だった。


「なんだそれ、将来が無いのか?」

「違うよ。逆なんだ。もし自分がその気なら、ここで一生を終えることもできる」

「だが、自分の好きなように生きたい……」

「看守の役付きの人たちは、オアシスに住んでるよ。奥さんも子供もいる」


 重要な門や拠点を守る警備は、元剣闘士で引退した者や、かつて外へ出てから再び戻ってきた者が多いらしい。


「身分を買い戻さなかったり、買い戻してから売り直して、ここで暮らしてる人もいる。闘技場は高くは買ってくれないから、身分っていうより“立場”みたいなものだけどね」

「どうりで強いわけだ」


 剣の腕だけでは、到底勝てない相手が揃っている理由を、ようやく理解した。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ