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7.怠惰な兄弟 1

 

 目覚め始めた街を抜ける。


 向かう先は、昼でも薄暗い路地裏だ。


「ねえ、ダンピィ…」

「ん、何?」


「その…ダンピィの知り合いもダンピールなの…?」

「そう。戦うのが嫌いな半吸血鬼」


 エミリが眉をひそめる気配。


「だけど僕らの中で1番耳がよくてね。だから、情報屋(インフォーマー)をやってる」



 まあ純粋に聴覚がいいっていうのもあるけれど、彼は、点と点を繋げるのがうまいのだ。


 そういう能力は、僕らバケモノにとって、すごくありがたい。



「地獄耳ってやつ……ここだ」


 半ば崩れかけたような建物。

 くすんだ色をした地味な木の扉。



 ちょうど目線の高さに、傾いた看板が打ち付けられている。


 荒削りの板に、子供の落書きのごとき雑な字が書かれていた。



 『情報屋

 あなたの情報、売ります買います』



 ……見るからに怪しい。


 僕は苦笑した。


「大丈夫。いいヤツだから、安心して」



 -*-



 木の扉に手を掛けると、軋んだ音がした。

 中はひどく暗い。



「いらっしゃい」



 突然聞こえた声に、エミリが飛び上がった。


 狭い室内に設えられたカウンターの奥、一際闇の濃い場所に一つの影がある。


「久しぶり。ピグレド」

「ああ、久しいな。兄弟」


 ニヤリ、と影が笑った。

「誰が地獄耳でいいヤツだって?」


 紫の瞳に、透き通るような白髪を長く伸ばした青年。


 ____(いな)


「ダンピール…」


 エミリが呟いた。

 兄弟…ピグレドが、器用に片眉を上げる。


「そんでお前、なんだ?そのガキ」

「…色々あってね」


 エミリを背から降ろしながら言った。


「色々って…お前、今度は何やらかしたんだよ」


「失礼な。僕がいつ、何をやらかしたっていうんだ…。拾ったんだよこの子は」


「拾ったァ?どこで?」


「そこの森」



 …沈黙。


 数秒経って、兄弟が吹き出した。



「………そんなに笑うとこあった?」

「いや、だってよ…!そんな、お前…あっははは!!!」


 …ひとしきり笑わせておいてから、言った。



「彼女の引き取り先を、キミに見つけて欲しいんだ」

 ピタリ、と笑いが止む。



「…は?」


「どうせ暇でしょ?」

「おいこら別に暇じゃねぇよ。つーかなんで俺が_____」


「この子、両親を吸血鬼(ラミア)に殺されたんだ」


 言い募ろうとする彼を制す。



 兄弟は息を()んだ。


「…あぁクソ」

 ため息を1つ。


「拾ったって、そういうことかよ…お前の標的か?」

「………」


 僕は、唇を軽く噛む。



「あのな…教会の孤児院、連れてけばいいだろ。俺がなんかしなくったって、あそこなら食うのには困んねぇんだから」


「____分かってるくせに、よく言うよ」



 痛いほどの沈黙に、柱時計の音が規則正しく響く。


 兄弟は、深く、長く息を吐いた。



「つくづくお人好し(ウィルトゥーテ)だよな、お前」


「…否定はしないよ」


「責任感じてわざわざ連れてきたってわけか」


「まあ、ね」


 エミリの頭を撫でる。

 彼女は驚いたようにこちらを見た。



「間に合わなかったのは、僕のせいだから」


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