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3.正しくない言葉


「どうしたもんだろう…」


 村はずれの宿屋。

 窓掛(カーテン)を閉め切った、暗い部屋。


 静かな寝息を立てて、少女は眠っている。

 その頬に光る涙の跡を見つめながら、もう一度ため息をついた。



 …なるほど。僕があいつを(たお)した時には、もう手遅れだったらしい。


 あの家から森の中まで、1人で逃げたのだろう。




____暗闇に浮かんでいた、蒼白な顔。


赤く染まった僕を見て、彼女は昏倒してしまった。


日がのぼり、目を覚ました時には、ひどく虚ろな表情になっていた。




「どうしたもんだろう…」

 もう一度、つぶやく。


 見る限り、この村の人々はあまり裕福ではない。

 少女を引き取り、育ててくれる人がいるかどうか。


「ん…」


 少女が小さく身じろいだ。


 ゆっくりと目を開く。


「起こしちゃった?」


「……大丈夫」

 緩慢(かんまん)な動作で身体を起こした少女が、細い声で答えた。


 ついでだからと、訊いてみる。


「この村に、親戚とかは、いるのかな?」


「…いない」


 小さな、小さな声。


「これからどこで暮らすとか、当てはある?」


「……分かんない…」


「うーーん…」


 天井を仰ぐ。

 煤けた、陰気な色だった。


「これから、どうしたい?」





「…死にたい」





ぽつり、と少女は言った。


「駄目、それは僕が許さない」


 声にこもってしまった怒気に、彼女は敏感に反応した。


 それでも僕は、自分の言葉を止めることが出来なかった。


「あのね、キミのお父さんとお母さんが、どうしてあの場に残って、キミを逃がしたのか、わかる?」


「キミに、生きてほしかったからだ」


「それなのに、こんな、簡単に死ぬなんて、そんなの____」


「生きたくなんか…ない…っ!」

 唐突に彼女が叫んだ。


「怖いのも寂しいのも、もう嫌……っ!」

 鳶色(とびいろ)の瞳に、涙の粒が盛り上がる。




「お母さんと、お父さんに、会いたい……」




 我に返った。


…ああ。やってしまった。


正しいとされる言葉が、常に人に寄り添えるわけではないのに。



「ごめん…泣かせるつもりは無かったんだけど…」


 しゃくり上げる少女の頭に手をのばし、髪をそっと撫でる。


 彼女はむずがるように、いやいやと首を振った。

 どうやら嫌われてしまったらしい。



 …いずれにせよ、彼女をこのままここに残していくわけにはいかないだろう。


親を失った子供の末路。

飢えて死ぬか、冬の寒さに(こご)えて死ぬか。




…あるいは。

彼女は、女の子だから。


教会で。あの、光に満ちた地獄で。


吸血鬼への憎しみだけを(かて)に生きる、(とら)われの人形となるか。




「…隣街に」


 とっくに通り過ぎた、過去の幻影を振り払って、僕は言った。


「食事の面倒くらいなら見てくれそうなアテがあるけど」


「………」


「どうする?行く?」


 少女が(むせ)ぶ。

 返事は無い。


 僕はため息をついた。


「分かった。じゃ、夕方になったら出発するから。それまでしっかり休んでおいて」



 かけた言葉が、空虚に響いた。


次回は3話連続更新です。

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