12.お人好しの兄弟
「それが、アイツ。タンピィだよ。
産まれてからの数年、母親と一緒にしばらく外で生きてたんだと」
エミリが目を見張る。
「……で、これは俺の推測だけど」
木の天板をなんとなく指で弾く。
「アイツの母親がアイツを産んだのは、教義のためでも……己の身を守るためでもない、と思う」
言いながら、俺は苦笑していた。
「あいつ昔は、今よりもさらにお人好しでな。訓練でヘマして食事抜かれたヤツに自分のパン分けてやったり……懲罰房行きの兄弟庇って自分が罰を受けたり」
殴られて、腫れた頬をおさえながら。
それでもこちらを気遣って、銀色の目をやわらかに細める、俺よりだいぶ幼く見えた笑顔を思い出す。
「自分のことより他人のこと。いいヤツ通り越して不気味なくらいだった」
まあ、かく言う俺も、アイツには随分助けられてきたのだが。
「ちゃんと愛されて育たなきゃ、ああいうヤツにはならねぇよ」
エミリは、静かに考え込んでいるようだった。
俺は続ける。
「訓練を受けて、強くなって。人を守れるようになれば、俺たちバケモノも人の"ように"生きることができるんだと……そう聞かされて育った」
…まあそうは言っても。
「人を守ろうがなんだろうが、結局、俺たちはバケモノで、吸血鬼殺しの『道具』でしかねぇ。だけど_____」
それでも、アイツは。
あの愚直で素直で優しい少年だった、ウィルトゥーテは。
「…アイツは、人でいたいんだとよ」




