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第八章:『黒月との会話 ―師と弟子と、処断の原点―』

月が、黒く染まっていた。

血塗られた布をかけたような月面。

その下、静かにそびえる古城――かつて存在した《黒紡本院》の跡地。

アーサー・クロウは、十年ぶりにその地を踏んでいた。

かつてここで、彼は“正義の刃”と“理性の毒”を学んだ。

人を裁く技術、心を壊す言葉、命の線引きを教えてくれた――“師”の下で。

そして今、その男が再び姿を現す。


???「……随分と立派になったな、アーサー。あの頃の小さな飼い犬が、今や“冒険者のカウンセラー”とは」


古びた玉座の前に座す男。

黒衣、顔の半分を仮面で覆い、残る半面に深い傷痕。

その瞳は、いまだ腐らぬ狂気と美学を兼ね備えていた。


アーサー「…《黒月のくろげつのあるじ》、アルマ・ヴェルリウス。あなたは死んだはずだった。“断罪の塔”の火刑で」


アルマ「あれは“焚書”に過ぎん。私は思想そのものだ。焼いても、刺しても、死なない。君の中にも残っていただろう“我らの教義”が」


アーサー「違う。俺はあなたの思想を否定した。“正義のために殺す”思想を、あなたは自分自身の美学で塗り潰した」


アルマはゆっくりと立ち上がる。


アルマ「では問おう。“殺すべき者”とは何か。定義してみせろ、アーサー」


アーサー「“己の意志で他者の意志を完全に奪った者”。洗脳、虐待、奴隷化、搾取。それを“正当化する言葉”を持つ者だ。あなたのようにな」


アルマ「面白い。“人の魂の支配”こそ、最も洗練された暴力。それを君は否定するか」


アーサー「俺は今“魂の支配”を切り落とす剣だ。あなたが仕込んだ思想を、今こそ――その源を斬ってやる!」


彼は処断の剣を抜いた。

アルマは仮面を外し、剥き出しの顔で笑う。

そこに、師弟として過ごした日々の痕跡はない。

あるのは、狂気だけだった。


アルマ「いいだろう。“処断者”アーサー・クロウ。お前が“我が正統なる継承者”であるか、それともただの“背教者”か――見極めよう」


交差するのは、刃と声。

アルマの言葉が"記憶"をねじ曲げ、剣が呪詛”を謳う。

アーサーの声は"魂"を指し示し、剣が真実”を突き付ける。

“対話による処刑”が今始まる。


アルマ「お前の“処断の剣”に込められた技は私が教えた。“魂の中心に触れる言葉”を添えなければ、真に殺せぬと知っているはずだ!」


アーサー「だからこそ、俺はその“言葉”を選ぶ。奪うためじゃない。“還す”ために!」


剣がアルマの胸に届く。

その瞬間、アーサーは言葉を放った。


アーサー「あなたは“奪い続けることで空白を埋めていた”だけの、空虚な思想の亡霊に過ぎない。あなたの罪は“殺人”ではない。“生きる者たちを見下げ続けた”ことだ!」


剣が貫き、黒き月の光が砕ける。

アルマの仮面が地に落ちた。

倒れた師の顔は“師”ではなく、“ただの人間”に戻った顔で安らかだった。


アルマ「…やはり君で正しかった…“継承”ではなく“超越”…私にはできなかった事だった…“矛盾を抱いたまま、歩くこと”をな…」


彼の体は霧のように崩れ、遺体も残らなかった。

ただ、血のような黒月だけが空に滲んでいた。

アーサーは静かに手帳を開き、そこに記した。


【第000件:処断の原点。分類:思想犯罪、創始者。処断完了】


アーサー「これでようやく始められるな。“俺自身の治療”が」


彼の背には、夜の風が吹いていた。

かつて教えられた全てを斬り捨て、彼は真の意味で“自由な診断者”となった。




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