表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

第四章:『封筒の中の黒い判決』

診療室の一日が終わる。

窓の外、夕陽は血のように濃く、地平に溶けていた。

アーサー・クロウは、最後のカルテを綴じると、背もたれに体を預け、深く息を吐いた。


アーサー「…今日は穏やかだったな。三件、すべて片付け。斬ったのは一人だけ」


彼はそれを“平日”と呼んでいた。

しかし、穏やかな空気は、すぐに壊される。

扉をノックもせず開けたのは、受付嬢のミレイア。

白衣に眼鏡の女性で、感情を表に出さない優秀な補佐官だ。

彼女は、手に一通の封筒を持っていた。


ミレイア「アーサー様。こちら、届いておりました。差出人不明。ですが……封印紋章に魔術が込められていました」


アーサー「差出人不明の封筒。いいね。私の過去を知る者は、皆死んだはずだが……たまにしぶといのが残ってる」


彼は躊躇なく封筒を開いた。

中には一枚の紙と、黒い羽根が一枚。

そして、手書きの文章。


『お前が断ち切った“魂”の数、正確に覚えているか?

我らは見ている。裁きの帳はお前自身の首に下りる。

――《黒紡》より』


ミレイア「……《黒紡くろつむぎ》……存在しないはずの組織です」


アーサー「ええ、かつて私が“壊した”はずの組織、表向きは魔術師ギルド。……あの頃、まだ私も国家に属していた。犯罪者を狩るために、合法的な殺人集団が必要だった。“正しい死”を供給するための機関だった」


ミレイア「まさか、復活したのですか?」


アーサー「あるいは、残党。あるいは……私の“模倣犯”かもね」


彼は手紙の黒い羽根を指で転がす。

それは、処刑後の魂から抜かれた“死の共鳴羽”と呼ばれるものだった。


アーサー「……面白い。こちらを試しに来るとは。なら歓迎しよう。冒険者犯罪心理の代弁者として」


彼は椅子から立ち上がり、壁の隠し戸を開いた。

中には一本の黒剣と、封印された書誌。


アーサー「これからは、“受診者”だけでなく、“来訪者”への処方も必要になりそうだ」


ミレイア「……“それ”を使うのですね」


アーサー「“黒処方録”。過去、私が執行人として斬った百八の魂のカルテ。それが、また役に立つとはね」


彼の目に、久々に“過去の光”が灯る。

罪と理性、狂気と秩序。

かつて法の名の下に殺人を執行していた――あの時代の、灰色の記憶。

その夜、診療室の外に、小さな紙飛行機が落ちていた。

子どもの手書きでこう記されていた。


『ねぇアーサーさん。ママは殺されなきゃいけなかったの?』


翌日、アーサーはその子の名を調査書に記し、言った。


アーサー「次の患者は、まだ八歳。“復讐”という名の病原菌を抱えた、将来の殺人者だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ