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彼女は買い食いする




2日目の朝。案の定、井上は眠そうな顔で現れた。


「お、寝坊してないな」

俺は声をかける。

「んー。おはよー」

井上は欠伸をしながら、腰を下ろした。

「おはよう。リアタイいけたのか?」

「勿論」

井上は答えると、頬杖をつく。


朝食前に点呼を行い、先生達から今日の注意事項などの話をされ、朝食となる。


朝はバイキング形式である。


「どれくらい食べれそうだ?」

俺は立ち上がる前に井上に聞く。

「ちょっと。昼にいっぱい食べる」

「了解。好き嫌いは?」

「出されたものは全部食べる」

井上は頬杖をついたまま答える。


「分かった」

俺は仕方なしに井上の分のご飯まで取ってきた。

何でこんなことをしているのか分からないが、井上の為なら仕方ないなと思ってしまう自分がいるのだった。





2日目は、書冩山(しょしゃざん)圓教寺(えんきょうじ)へと向かう。

山麓まではバスで向かい、そして、行きは歩きで山を登るらしい。


「まじか…」

俺は思わず呟く。

歩かせるのが好きなのか。


同じことを思った生徒は多く、そこかしこからブーイングが上がる。


「若いんだから歩け歩け」と主任に言われ、ブーイングしながらも皆はトボトボと登山した。


「はーっ!疲れた」

栗原カップルに班の女子である本田と田中が声を上げる。


「お疲れ様。ここから座禅らしい」

井上は苦笑いで告げる。

「座禅か……」

俺は苦い顔で呟く。

絶対痺れると確信する。


「その後にご飯だっけ?」

井上は班長である田原に尋ねる。分かっているだろうにそう尋ねるのは、一応班長という立場を慮っているのだろう。

本当に気を遣う生活をしているな、と俺は感心してしまった。


「そうそう。精進料理を食べれるらしいよ」

田原は答える。

「らしい。お腹すいてるから量があると嬉しいなぁ」

井上は呟く。

「次の目的地でもなんか食べれる物売ってるらしいから、最悪そっちで食べるのもありかも」

田原が言う。

「そうなの?じゃあ、楽しみにしとこ〜」

井上は笑顔で答えた。


取り繕っている笑顔ということが、俺には分かった。



座禅が終わり、精進料理を頂き、帰りは山道ではなくロープウェイを使って下山した。


「あ、団子売ってるんだけど!」

井上が声を上げる。

「食べたいです!先生!自由時間下さい!」

井上は担任に声を上げる。


「そうねぇ。まだ残りのクラス下りてきてないし、他のクラスが揃うまでね」

担任が許可を出した。

「やった!ちょっと私買ってくる!佐々木はいる?リカ達は?」

「私はいいー」

本田も田中も首を横に振る。


「……一本丸々もいらないんだよなー」

俺は呟く。

お腹がすいてないわけではないが、串に刺さっている団子が少し大きい。

3つ刺さっているのだが、3つも食べたらお腹が膨れそうだ。


「じゃあ、一個あげる。醤油と味噌ときなこどれがいい?」

井上は瞬時に答えを出す。

「うわー、迷うな。井上が決めてくれ」

俺は決めかねて、井上に委ねる。

「はーい」

井上は返事して、素早く団子一本買ってきた。


どうやら味噌にしたらしい。食欲をそそるいい匂いである。


「先食べていーよ」

井上は先に串を渡そうとする。

「何でだよ。井上が先だろ。それに金払うぞ」

「お金はいいよ。私が買いたくて買ったんだし。じゃあ、先に食べるよ?」

井上は団子を頬張る。


「うまっ」

あっという間に2個食べ終えると、俺に串を渡す井上。

俺は最後の一個をかじる。


「美味いな、これは」

俺は感想を言う。

「でしょ。うわー、醤油ときなこも食べたい」

井上は言う。

「また今度だな」

「今度っていつ?いつ来るの?姫路に来ることなんてないけど?」

井上は突っ込む。


「そんな迫るなよ。卒業旅行にでも来たらいいだろ」

「言ったよ?」

井上は俺を見る。

「う。あー、分かった。来よう」

「言ったからね?約束守ってよ?」

井上はまっすぐ俺を見てくる。

「お互い彼氏彼女がいなかったらな」

俺は言っておく。

「よし。約束ね」

井上は、うふふと笑っていた。





圓教寺を出た後は、蒲鉾工場にお邪魔した。地元の有名な会社らしく、地元の学生は小学時代に工場見学をしているらしい。


「蒲鉾工場は新鮮だな」

なかなか面白い。

「だね。入り口に足湯あったの見た?」

「あー、あったな。チラッと見えた」

「後で行かない?」

「俺、タオル持ってないぞ」

「持ってるから大丈夫!リカ達は?」

井上は本田達にも尋ねる。


「あー、適当に回るからそっちはそっちで好きにしてー」

「りょーかーい。みか達はとっくにいないし、集合時間だけよろしくー」

井上は本田達に手を振る。


そして、結局俺と井上が残る。


「……本当に勘違いされるぞ」

俺は小さい声で呟く。

「ん?私は別に問題ないけどね」

井上はからりと笑って、そう答えた。


「!!」

「何でもない。先、中に行ってみない?」

「……ああ」

俺は、井上の後を追った。


蒲鉾工場の敷地内に土産屋があり、試食も出来た。

井上はぱくぱくと試食をしていく。無尽蔵に。


「チーかまドッグだって。美味しそう。一緒に食べない?」

井上は誘う。

「そうだな。それは食べようかな。井上は一本でいいか?」

「うん。え、奢ってくれるの?」

井上は驚いた顔で俺を見る。


「さっき、団子奢ってくれたろ」

「いやいや、違うじゃん。私の方が多く食べてたし」

「一個もらったんだから、俺からも一個な」

「いやいや、一個の大きさが違うじゃん」

「数は一緒。だから、気にするな」

「………」

それでも井上は不服そうな顔で俺を見る。


「分かった。男の俺に奢らせてくれ」

俺は言い直す。

「!うん、ありがと」

井上は少し驚いたものの、ちょっと照れた顔で礼を言った。


「買ってくるから座ってろ」

「はーい」

俺はチーかまドッグの列に並ぶ。

アメリカンドッグのチーズかまぼこバージョンらしい。

この蒲鉾工場の人気商品とのことだ。


買ったのはいいものの、井上の姿が消えていた。


「あ、いたいた」

足湯の方に移動していたらしい。

そして、俺がいない間に絡まれている。


中田が絡んでいるせいか、山口も一緒にそこにいた。

山口はあまり井上に興味がないのか、離れた所で足湯をしている。

中田は井上の右隣に座り、足湯をしようとズボンの裾を上げようとする。


井上は少し左にずれた。そして、苦い顔をする。中田に見えないように。


「井上!買ってきたぞ」

俺は遠くからだったが、声をかけた。

井上が座っていた所とは対角線の場所から。


「ありがとう!」

井上は足湯の中を歩いて俺の方に来る。そして、座った。

足湯を囲うように正方形の形に椅子が置いてあるので、声をかけた俺の方にも椅子がある。


俺はチーかまドッグを井上に渡す。


「ありがと。入る?」

井上は俺を見上げて尋ねる。

「あー、いや、ここでいい」

流石に素足の井上は見れないし、視線に困る。

足元を見れないのであれば、どこに視線をやればいいか分からない。


「じゃあ、そっち向きでいいから座りなよ」

井上は少し場所をあけてくれる。

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

俺は、背中合わせに腰を下ろす。中田が睨んだ気がするが、気のせいだ。


「美味しい、これ!」

井上は声を上げる。

「そうだな」

俺も同意する。


「それ美味いのか?」

食べていたら、山口が寄ってきた。

「美味しい。お腹張るかも」

井上は答える。

「ちょっと食べてみる?」

「いいのか?」

山口は悪気なく、井上のチーかまドッグを受け取ろうとする。


「普通、俺のだろ」

俺は山口の顔の前に自分のチーかまドッグを差し出す。

「おー、サンキュー」

山口は普通に俺のを受け取り、一口かじる。


「中田ー!これ美味いから買いに行こうぜ!」

山口が中田に向かって叫ぶ。

中田は仕方ないな、という風に足湯から上がる。

山口も足湯から出て、2人で去って行った。


それを見送り、俺は息を吐いた。


「白執事、面白かったか?」

俺は平和な話題を振る。

「うんー。面白かったよー。佐々木は内容知ってる?」

「勿論。あくまで執事ですから、だろ?」

俺は問いかける。

「そー。流石」

井上の頬が緩む。


そして、ちょうどチーかまドッグを食べ終えた。


「捨ててくるからゴミもらう」

「ん。ありがと」

井上は食べ終えた串を俺に渡したのち、鞄からタオルを取り、足を拭いた。





黒執事はご存知ですか⁇

ここ最近、寄宿学校編と緑の魔女編があって、また再燃してますね(*´-`)

セバスチャン大好きです。

小野Dの声がステキですね!

完結したら大人買いしようかなと目論んでいる作品です(´∀`*)

皆さんはどのキャラが好きですか⁇

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