彼女は買い食いする
2日目の朝。案の定、井上は眠そうな顔で現れた。
「お、寝坊してないな」
俺は声をかける。
「んー。おはよー」
井上は欠伸をしながら、腰を下ろした。
「おはよう。リアタイいけたのか?」
「勿論」
井上は答えると、頬杖をつく。
朝食前に点呼を行い、先生達から今日の注意事項などの話をされ、朝食となる。
朝はバイキング形式である。
「どれくらい食べれそうだ?」
俺は立ち上がる前に井上に聞く。
「ちょっと。昼にいっぱい食べる」
「了解。好き嫌いは?」
「出されたものは全部食べる」
井上は頬杖をついたまま答える。
「分かった」
俺は仕方なしに井上の分のご飯まで取ってきた。
何でこんなことをしているのか分からないが、井上の為なら仕方ないなと思ってしまう自分がいるのだった。
♢
2日目は、書冩山圓教寺へと向かう。
山麓まではバスで向かい、そして、行きは歩きで山を登るらしい。
「まじか…」
俺は思わず呟く。
歩かせるのが好きなのか。
同じことを思った生徒は多く、そこかしこからブーイングが上がる。
「若いんだから歩け歩け」と主任に言われ、ブーイングしながらも皆はトボトボと登山した。
「はーっ!疲れた」
栗原カップルに班の女子である本田と田中が声を上げる。
「お疲れ様。ここから座禅らしい」
井上は苦笑いで告げる。
「座禅か……」
俺は苦い顔で呟く。
絶対痺れると確信する。
「その後にご飯だっけ?」
井上は班長である田原に尋ねる。分かっているだろうにそう尋ねるのは、一応班長という立場を慮っているのだろう。
本当に気を遣う生活をしているな、と俺は感心してしまった。
「そうそう。精進料理を食べれるらしいよ」
田原は答える。
「らしい。お腹すいてるから量があると嬉しいなぁ」
井上は呟く。
「次の目的地でもなんか食べれる物売ってるらしいから、最悪そっちで食べるのもありかも」
田原が言う。
「そうなの?じゃあ、楽しみにしとこ〜」
井上は笑顔で答えた。
取り繕っている笑顔ということが、俺には分かった。
♢
座禅が終わり、精進料理を頂き、帰りは山道ではなくロープウェイを使って下山した。
「あ、団子売ってるんだけど!」
井上が声を上げる。
「食べたいです!先生!自由時間下さい!」
井上は担任に声を上げる。
「そうねぇ。まだ残りのクラス下りてきてないし、他のクラスが揃うまでね」
担任が許可を出した。
「やった!ちょっと私買ってくる!佐々木はいる?リカ達は?」
「私はいいー」
本田も田中も首を横に振る。
「……一本丸々もいらないんだよなー」
俺は呟く。
お腹がすいてないわけではないが、串に刺さっている団子が少し大きい。
3つ刺さっているのだが、3つも食べたらお腹が膨れそうだ。
「じゃあ、一個あげる。醤油と味噌ときなこどれがいい?」
井上は瞬時に答えを出す。
「うわー、迷うな。井上が決めてくれ」
俺は決めかねて、井上に委ねる。
「はーい」
井上は返事して、素早く団子一本買ってきた。
どうやら味噌にしたらしい。食欲をそそるいい匂いである。
「先食べていーよ」
井上は先に串を渡そうとする。
「何でだよ。井上が先だろ。それに金払うぞ」
「お金はいいよ。私が買いたくて買ったんだし。じゃあ、先に食べるよ?」
井上は団子を頬張る。
「うまっ」
あっという間に2個食べ終えると、俺に串を渡す井上。
俺は最後の一個をかじる。
「美味いな、これは」
俺は感想を言う。
「でしょ。うわー、醤油ときなこも食べたい」
井上は言う。
「また今度だな」
「今度っていつ?いつ来るの?姫路に来ることなんてないけど?」
井上は突っ込む。
「そんな迫るなよ。卒業旅行にでも来たらいいだろ」
「言ったよ?」
井上は俺を見る。
「う。あー、分かった。来よう」
「言ったからね?約束守ってよ?」
井上はまっすぐ俺を見てくる。
「お互い彼氏彼女がいなかったらな」
俺は言っておく。
「よし。約束ね」
井上は、うふふと笑っていた。
♢
圓教寺を出た後は、蒲鉾工場にお邪魔した。地元の有名な会社らしく、地元の学生は小学時代に工場見学をしているらしい。
「蒲鉾工場は新鮮だな」
なかなか面白い。
「だね。入り口に足湯あったの見た?」
「あー、あったな。チラッと見えた」
「後で行かない?」
「俺、タオル持ってないぞ」
「持ってるから大丈夫!リカ達は?」
井上は本田達にも尋ねる。
「あー、適当に回るからそっちはそっちで好きにしてー」
「りょーかーい。みか達はとっくにいないし、集合時間だけよろしくー」
井上は本田達に手を振る。
そして、結局俺と井上が残る。
「……本当に勘違いされるぞ」
俺は小さい声で呟く。
「ん?私は別に問題ないけどね」
井上はからりと笑って、そう答えた。
「!!」
「何でもない。先、中に行ってみない?」
「……ああ」
俺は、井上の後を追った。
蒲鉾工場の敷地内に土産屋があり、試食も出来た。
井上はぱくぱくと試食をしていく。無尽蔵に。
「チーかまドッグだって。美味しそう。一緒に食べない?」
井上は誘う。
「そうだな。それは食べようかな。井上は一本でいいか?」
「うん。え、奢ってくれるの?」
井上は驚いた顔で俺を見る。
「さっき、団子奢ってくれたろ」
「いやいや、違うじゃん。私の方が多く食べてたし」
「一個もらったんだから、俺からも一個な」
「いやいや、一個の大きさが違うじゃん」
「数は一緒。だから、気にするな」
「………」
それでも井上は不服そうな顔で俺を見る。
「分かった。男の俺に奢らせてくれ」
俺は言い直す。
「!うん、ありがと」
井上は少し驚いたものの、ちょっと照れた顔で礼を言った。
「買ってくるから座ってろ」
「はーい」
俺はチーかまドッグの列に並ぶ。
アメリカンドッグのチーズかまぼこバージョンらしい。
この蒲鉾工場の人気商品とのことだ。
買ったのはいいものの、井上の姿が消えていた。
「あ、いたいた」
足湯の方に移動していたらしい。
そして、俺がいない間に絡まれている。
中田が絡んでいるせいか、山口も一緒にそこにいた。
山口はあまり井上に興味がないのか、離れた所で足湯をしている。
中田は井上の右隣に座り、足湯をしようとズボンの裾を上げようとする。
井上は少し左にずれた。そして、苦い顔をする。中田に見えないように。
「井上!買ってきたぞ」
俺は遠くからだったが、声をかけた。
井上が座っていた所とは対角線の場所から。
「ありがとう!」
井上は足湯の中を歩いて俺の方に来る。そして、座った。
足湯を囲うように正方形の形に椅子が置いてあるので、声をかけた俺の方にも椅子がある。
俺はチーかまドッグを井上に渡す。
「ありがと。入る?」
井上は俺を見上げて尋ねる。
「あー、いや、ここでいい」
流石に素足の井上は見れないし、視線に困る。
足元を見れないのであれば、どこに視線をやればいいか分からない。
「じゃあ、そっち向きでいいから座りなよ」
井上は少し場所をあけてくれる。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
俺は、背中合わせに腰を下ろす。中田が睨んだ気がするが、気のせいだ。
「美味しい、これ!」
井上は声を上げる。
「そうだな」
俺も同意する。
「それ美味いのか?」
食べていたら、山口が寄ってきた。
「美味しい。お腹張るかも」
井上は答える。
「ちょっと食べてみる?」
「いいのか?」
山口は悪気なく、井上のチーかまドッグを受け取ろうとする。
「普通、俺のだろ」
俺は山口の顔の前に自分のチーかまドッグを差し出す。
「おー、サンキュー」
山口は普通に俺のを受け取り、一口かじる。
「中田ー!これ美味いから買いに行こうぜ!」
山口が中田に向かって叫ぶ。
中田は仕方ないな、という風に足湯から上がる。
山口も足湯から出て、2人で去って行った。
それを見送り、俺は息を吐いた。
「白執事、面白かったか?」
俺は平和な話題を振る。
「うんー。面白かったよー。佐々木は内容知ってる?」
「勿論。あくまで執事ですから、だろ?」
俺は問いかける。
「そー。流石」
井上の頬が緩む。
そして、ちょうどチーかまドッグを食べ終えた。
「捨ててくるからゴミもらう」
「ん。ありがと」
井上は食べ終えた串を俺に渡したのち、鞄からタオルを取り、足を拭いた。
黒執事はご存知ですか⁇
ここ最近、寄宿学校編と緑の魔女編があって、また再燃してますね(*´-`)
セバスチャン大好きです。
小野Dの声がステキですね!
完結したら大人買いしようかなと目論んでいる作品です(´∀`*)
皆さんはどのキャラが好きですか⁇