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第6話 憧れの無職……からの。



 地下を閉じ、一階に戻ったアルヴェリトにクロが向き直った。


「さて、ご主人が決意したなら、ミーが仕上げニャ。辞表を管理局に承認させるニャ」

「本当にできるのか?」

「何をいまさら……今度は二人とも目をつぶっていてニャ。秘密のおまじないニャ!」


 アルヴェリト、それにナーシャも、素直に目を瞑る。

 二人の後ろに回り込み、クロは小さく息を吐いた。

 その頭の上に複雑な光の紋様が浮かび上がる。


 光を背負い、クロの翼が大きく伸びる。

 ただのペットナビではありえないような神々しさに包まれ、クロは顔を上げる。天の彼方へ。

 何か口の中で唱えると、手にした辞表が光り輝き、光の帯として空に吸い込まれていった。


 ついでに……アルヴェリトの背後、ぼんやりと浮かび上がった黒い紋章も消したが、アルヴェリトは気づかない。クロはホッと息をつく。

 そして一言、天から言葉が降ってきた。


『正式に、ジョブチェンジを受け付けました』


 途端にパチンと音がして、周囲の雰囲気が変わった。

 静かで無機質な夜の闇から、穏やかな空気の、どこか緑の香りがする闇へ。


「もう目を開けていいニャ」


 クロの声に、兄妹は恐る恐る目を開けた。


「何をしたんだ?」

「企業秘密ニャ! ミーは普通のナビペットだからニャ★」

「でも……」


 クロがアルヴェリトの腕の中に納まり、身体を摺り寄せる。可愛らしいネコ仕草に思わずホッコリし、アルヴェリトは追求すべき言葉が溶けていくのを感じた。ネコの温もりは疲れに効くなあ……まあ、可愛いからいいか……。


「そうだ、個人ステータスを確認してみるニャ! いろいろと変わっているはずだニャ」


 アルヴェリトが空に手をかざすと、光り輝くステータス画面が現れた。


■アルト・ゼノン:男:27歳

■ジョブ:無職


「やった、無事に無職だ!」

「おめでとうございます、お兄様!」

「これで晴れて無職なのニャ!」


 おまけに、とアルヴェリトは名前のところを指さす。


「名前も変えてくれたんだな……ありがとう」

「あのままじゃどこへ行ってもステータス確認で過去バレするニャ」


 皇帝は常に兜をかぶって行動していたから素顔がバレる心配はない。だが名前はどんなキャラでも『閲覧』スキルを持っていれば見えてしまう。ナビペットだけあって、クロの配慮は完璧だった。


「しかしこのゼノン、という姓は」


 クロはニッコリと笑った。


「ご主人の記憶の中に『ゼンノ』という言葉が浮かんでいたので、勝手にこの世界風に書き換えたニャ」

「あ……」


 胸の中が少しだけ温かくなる。

 前世の苗字、善野。

 今はもう失った、思い出の名前。


「……本当にありがとう、クロ」


 アルヴェリト改めアルトが頭をなでると、クロは気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

 その愛らしい姿に目を細め……アルトは思わずくしゃみをする。


「なんかやけに寒いな……ってここは、外!?」


 いつの間にか寒い風が吹きすさぶ野原に立っていた。

 空には満点の星。

 周囲を見回せば闇、闇、闇だ。


「サービスで、瞬間移動魔法も使っておいたニャ。もう帝都は遠く離れたから、ナーシャの黒幕に追いかけられる心配もないニャ!」


 瞬間移動魔法?

 イヤな予感がする。

 アルトは恐る恐るクロに目を向けた。


「……瞬間移動魔法の行先には……行ったことのある場所しか選べないはずだが……」

「そうニャ! だからこの世界に生れ落ちたばかりのミーが使う最初の移動魔法の行先は…ランダム着地!」

「どこだか分からない……ってことか!? ええーーっ!」


 暗闇の中、アルトの悲鳴が響き渡った。



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