第19話 天界管理局にて、上司の分析
天界管理局。
ひとりの天使が、何枚もの大型画面を食い入るように見つめていた。
白いフードと制服、顔半分を隠しているのはリンネと同じ。
だがフードから覗く口元は青年めいた特徴で、切りそろえた黒髪がわずかに揺れていた。
画面の中で大写しになっているのは……白い眉毛の黒猫。
『クロ、とかいうあのネコ……ナビペットのようだが、要素は我々と同じか? いや、まさかもっと上位の……』
褐色の指で素早く画面を弾くと、クロの後ろに光の魔法陣が表示される。眩しいまでの光と複雑な紋様はアクセサリーや魔法の類ではありえない。管理官と同じ『スキル』によるものだ。ただ……ナビペットゆえにステータスが表示されない。
少し考え込んでから、今度は別な画面に男性を映し出す。
優美な凶悪さを感じさせる赤い瞳の男性だが、その表情は柔和で穏やかだった。
■アルト・ゼノン:男:27歳
■ジョブ:無職
■役割:自由
だが時を巻き戻せば違う情報が見えてくる。
■アルヴェリト・レナス・バルディオス:男:27歳
■ジョブ:バルディオス帝国八代皇帝
■役割:悪役皇帝
「悪役の一人か……」
本来、管理局の上級官が個々の事物を気にすることはあまりない。
女神の思惑や歴史のおおまかな流れ(ものがたり)、各人の役割がどうあれ、世界は豊かで、そして生きている。変動は必然だし、流れが変わったとしても微々たること。
つまり、結末が正しければそれでいい。
この世は正常なものばかりではない。蝶々のわずかな動きが世界に影響を及ぼすことも多いだろう。
だがたとえ現実が少々因果律から外れたとしても、欠陥を直し、成り行きを正常域に戻せばいいだけ。悪役が早く倒されても、勇者が潰えても、変わりはいくらでもいる。
特に悪役は……あの『制度』がある。
誰かが消えても、同じ『紋章』を記した者で穴を埋められれば問題はない。
リンネは違反の経緯にこだわっていたが、それは現場レベルの話である。上位の視点に立ってみれば、最終的にすべてが正常に戻れば良い。
けれど、この猫と男は放っておけない気がする。
経歴、行動、ジョブチェンジの方法も含め、引っかかりや謎が多い。それは未来の不安につながるし、なにより。
『呪紋がない……消した、か?』
だがそんなことができるのは。
白いフードをかぶったまま、青年天使は顎を摘まんで考え込んだ。
その背に大きな翼が広がる。羽根の数は四枚。リンネよりも二枚多い。
パチンと手を鳴らすと金色の召喚獣が現れた。リンネのミニーラだ。
『管理官リンネ・リーン。さきほどの報告書と提案は確かに受け取った。情報はこちらで検討・処理する。そして新たな指令。上級管理官ラニ・ラディオの名のもとに命ずる。その一行……アルト・ゼノンと同行し、彼らの行動を監視・報告せよ』
それから、と天使はやけに人間らしいため息をついた。
「……今夜は盛大に飲み食いしたようだが、それは……自腹で払うように」
3月25日
いつも読んでいただきありがとうございます。
事情により8話~19話までの展開を変えさせていただきました。
大筋はそのままですが、スローライフの開始やアルトのスキルなどが大きく変わっていると思います。
再開は5月くらいになると思います。
また告知させていただきます。




