第15話 自由の代償
森を駆け抜ける間も、断続的に破壊音が聞こえてくる。
「木が倒れる音……ナーシャか!?」
「あっち、音のする方に行ってみるニャ!」
クロと連れ立って走り出せば、森の奥で再び音が響いた。雷撃のような光も見える。
少し行ったところで唐突に木立が途切れ、アルトとクロは足を止めた。
「ナーシャ!」
開けた草地にナーシャがしゃがみ込んでいる。軍服ドレスはそこかしこが破け、腕も傷ついているようだ。
「おにい、さま」
のろのろと顔を上げた彼女の元へ、アルトとクロは駆け寄る。
「大丈夫か、ナーシャ。いったい何が……」
「あの方が……突然降りてきて、お兄様を渡せ、と。嫌だと言ったら、私を捕らえようと攻撃してきて」
「あの方?」
顔を上げたアルトは目を丸くした。
広場の上に不思議な影が浮かんでいる。
白いマントに深くかぶったフード、裾の長い服。細身の姿は女性らしいが、顔の上半分はフードに隠されている。服も、手にした魔法杖も、見たことのないデザインだ。首元からこぼれた金髪が唯一、生物らしい印象を与えていた。
何よりアルトたちが呆気にとられたのは、背の翼と、頭の光輪。
「天使精霊ニャ……!」
クロは重い口調でつぶやいた。
エリュシオンの神話はアルトも知っている。人の世が始まる少し前、太古の神々は神人を従えてこの世界を去り、ただひとりの女神だけが残った。彼女は、自らが愛するこの世界を正常に運行するため眷属として天使精霊を作り出し、天界にある管理局にて日々、監視させているという。
「世界の……運営者……」
アルトの声に、精霊は小さく翼を動かし、こちらを見下ろした。
『バルディオス皇帝……アルヴェリオンはそなたですか』
緊張していたアルトとクロは、うん? と首を傾げる。
「あの……名前が……アルヴェリトでは……?」
あれっ、と今度は天使精霊が動揺する。慌てて、手元に光る画面を何枚か出した。
『えっ、うそ、名前間違えちゃいました? やだー、すみません……あっ、ほんとだ。私ったら……すみません初対面なのにお名前間違えちゃって』
「い、いえ……」
アルトとクロは驚きつつも首を振った。なんだか調子が狂うな。おっちょこちょいのOLみたいだ。
コホン、と咳ばらいをして、彼女はもう一度、威厳を整えるように杖を立てた。
『改めて……バルディオス皇帝アルヴェリトはそなたですね』
「確かに私ですが……あなたは、いったい」
天使精霊は小さく微笑んだ。
『私は天界管理局の管理官、リンネ・リーン。あなたのジョブに関する不正を糺しに来ました!』




