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第14話 変わるもの、変わらないもの


 いけない、少しゆっくりしすぎたか。


「ひとまず食料は手に入ったし、元の場所へ戻ろう」

「地面に『村へ行ってきます』って書き置きしたけど、ナーシャは心配してるかもニャ」


 ちょうど広場に出たところでアルトたちは足を止めた。

 鮮やかなテントの元、一人の老婆が商品を並べている。


「アクセサリー屋か」


 通りすがりに台の上の商品が目に入る。鮮やかな色石のついたアクセサリーは素朴なデザインで、大きな天然石が美しい色合いを見せていた。

 前世でも妹二人に連れられて、横浜やみなとみらいを回ったことがあった。誕生日、入学祝、バイト開始祝など様々な理由だったが、一緒に選んであげたプレゼントを喜ぶ妹たちの笑顔が、兄である自分には何より嬉しかった。


 でもナーシャにはまだ、何も上げられていない。同じ妹なのに。


 あ、とアルトは足を止めた。

 並んだアクセサリーの中に、菫色の色石を使った耳飾りが置かれている。


「ナーシャの目と同じ色だ」

「綺麗なスミレ色だニャ」


 手に取ると石がキラキラと陽光に輝く。思ったよりも良質の素材で、細工もいい。ナーシャの耳につけたらきっと似合うだろう。


「3クローネ」


 アルトはびっくりして隣を見た。

 いつの間にかひとりの老婆が座ってる。民族色の強い、鮮やかなマントを着て、フードを被っていた。この辺の民ではなさそうだし、行商で村々を回っている人かもしれない。


「欲しいけど……」


 3クローネ。高くはないが、安くもない。

 だがそもそも、お金がない。


「魚を全部食べ物に変えなきゃよかった」

「まずはハラペコだったからニャア」


 少しでも換金しておけば。いや、それでも足りなかったかも。

 ガッカリした顔で耳飾りを戻そうとしたとき。


「いい髪じゃないか」

「ひえっ!」


 老婆がいきなりアルトの髪に触った。

 ふんふん、と品定めするように銀髪をなでる。


「あんたの髪、長くてきれいで、魔よけの房飾りに良さそうだ。売らんかね? そのイヤリングと替えてやってもいい」


 アルトの髪は長い。この世界では髪は魔力を安定化するアンテナ、第二の魔具とも言われている。長時間の魔法行使では髪の量や長さで安定性が決まるとも言われ、歴代のバルディオス皇帝はみな長髪だった。

 だがそれはあくまで都市を破壊・補修するような上位魔法に関わる話だ。生活魔法や基礎魔法にはほとんど関係ない。

 そもそも髪はすぐに伸びる。ナーシャの笑顔を思ったら安いものだろう。


「分かりました。一気に短くすると風邪をひきそうなので……一つに結べるくらいの長さに切っていただければ」

「ヒッヒッヒっ、ありがとよ。じゃあ失礼して」


 言葉と同時に手元がひらめき、次の瞬間には綺麗に髪が切られていた。肩の少し上くらい、まさに一つに結べる長さだ。


「切断系のスキル……髪を一瞬で!」

「ジョブ経験値ってやつさァ」


 老婆は笑いながら髪を布に丸め込み、台の下に仕舞う。代わりにイヤリングを手にり、もう片方の手で台の上に綺麗な包み紙を広げた。イヤリングを中央に置き、丁寧に包み紙を折りたたんでいく。

 最後にリボンまでかけてくれたので、アルトは目を丸くした。


「アンタ、なぜ贈り物だとわかった? って顔してるね? 会話を聞いてりゃ分かるよ」


 フードの陰で笑った老婆の顔は、意外なほどに屈託がない。アルトはふと気づいて俯いた。


「その……お婆さんは私を……私の外見を、怖がらないんですね」

「そうさねえ」


 そのときようやく老婆はハッキリと顔を上げた。

 瞳が白く濁っている。


「アタシはほとんど目が見えないんでね。分かるのはあんたの優しい声と礼儀正しさ、それに心の輝きだけさ……なんてね」


 呆気にとられたアルトの前で、老婆はイッヒッヒと盛大に笑った。


「まあイケメンは匂いで分かるけどねェ!」

「さすがの経験値ニャ」


 感心するクロにも笑いかけ、老婆は優しい手つきで包みを撫でた。そこに掛けられたリボンと、髪用に切ってくれたリボンは同じ菫色だ。


「ほら、持っていきな。髪を結ぶリボンもおまけだ」

「……ありがとう」


 ささやかな優しさと気遣いまで贈られた気がして、アルトは丁寧に包み受け取ったが。

 老婆の手に何かが浮かび上がっている。

 なんだ、これは……あざ? いや、黒く禍々しい影のようにも見える。


「お婆さん、あの、手の甲に……怪我でも……」


 アルトが控えめに言うと、老婆はサッと表情を変えた。


「あんた、この紋章が見え……」


 そこまで言ってから、ふと老婆が顔を上げる。


「なんだい、この音?」


 森の奥から鳥の鳴き声が響いた。ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる音に重なって、重い音。昼下がりの喧騒にかき消され、周囲の人々はあまり気にしないようだったが。

 アルトは息を呑んだ。


「あっちは、元居た小川の方だ!」

「ナーシャが心配ニャ!」

「行こう! ……お婆さん、すみません、話の続きはまた後で!」


 アルトとクロは老婆に手を振ると、大急ぎで広場を後にした。




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