あるサラリーマンの夜カフェ ⑦
「仕事のことでも悩んでいるのか?色々と悩みの多い奴だ」
「は?なんでそれを…って、俺、さすがに今のは口にしてないぞ!?」
店主の問い掛けに対してハッキリ指摘すると、店主は馬鹿にしたように鼻で笑いつつ、
「聞くまでもないだろ、そんなの」
って『見ただけでわかる』とか抜かしやがった!!くそう。
「やっぱり馬鹿にしてんだろ…アンタ」
「そんな価値があるのか??今のお前に」
「……………ッッ」
馬鹿にする価値もないってことかよ。
店主の言葉の裏に気付いた俺は、反論の余地をなくして黙り込む。
「………だよな…俺に、価値なんて無いよな…」
会社でも、家庭でも、この社会ですらも、俺と言う存在に価値なんて無い。改めて突き付けられた現実に打ちのめされ落ち込んだ。俺は浮かしかけていた腰を椅子に沈みこませ、目の前で湯気を立てるカフェラテを見詰める。
「そうだよ…わかってるんだ…俺なんかが居ても居なくても…何も変わらないって」
「突然怒りだしたかと思ったら、今度は落ち込むのか…憤慨したり、ヘコんだり、忙しいやつだな…」
慰める気も無いのか店主は、容赦ない言葉を投げかけてくる。
俺は、そんな男に何を言っても無駄なのは解っているが、せめてこのくそ高いカフェラテの代金分くらいは、俺の悩みや愚痴に無理矢理付き合わせてやりたくなった。
という訳で俺は、恥も外聞も忘れてすっぱりと開き直り、気合を込め背筋を伸ばして椅子に座り直した。
それから、この口の悪い店主が聞いてようと、聞いていまいと関係なく、思うままに会社の愚痴や不満を並べ立て始めたのだった。
「上司はいつも俺のことを給料泥棒扱いしやがるくせに、なんやかんやと仕事を押し付けてくるし」
「便利に使われているな。ある意味、優秀なんじゃないのか、お前?」
「は??…いや、そんなはず…そうじゃなくて、あいつはただ面倒なことを自分でやりたくないだけだ」
「その面倒なことを、お前は処理できるってことだろう?それって、仕事が出来るってことじゃないのか?」
「はあ!?いや…雑用係としてくらいは重宝されてる……かも知れないが、そんなんじゃいつ、不要になって首を切られるかって、俺はもう20年もビクビクして働き続けてるんだぞ!!」
「ほう…俺ならただの雑用係を20年も雇わんがね…ひょっとしてその会社、ボランティアとやらが社訓なのか?」
「はあ!?んなわけねえだろ!!俺の勤めてる会社は、業界ではかなり大手で…!!」
「良く解らんが…つまりお前は、大企業勤めな訳だな。なら、なおさら無能な人間は、とっくに左遷されてると思うがね。もしかして、お前が居るのは、左遷先の子会社かなにかなのか?」
「え……いや……本社の…企画開発部だけど……」
不満や愚痴を連ねれば連ねるだけ、店主は反論を仕掛けてくる。しかも、俺がこれまで考えたこともない、えらく上向きでポジティブな方向へ。
「ほう。それは凄い。というか、卑下してるフリして自慢してるのか?お前」
「……………え??……いや……あ、あれ?」
社での出来事を俺はいつもネガティブに捉えてばかりで、店主のように良い方へ考えた事など一度もなかった。
だけど、そう言われてみれば、確かにそんなような気もしてきて。
給料泥棒、無能、雑用係と罵り続けるくせに、上司が俺へ仕事を押し付けるのは止めないし。しかもそれらの仕事は、よくよく考えてみると、けっこう、重要な案件が多かった気もするし。それに後になってみてみると、採用されたアイデアに、俺の考えたものと同じことが含まれたりしていたし──




