あるサラリーマンの夜カフェ ⑤
外観通りの不気味な内装の方が、まだしもマシだったかも知れん。
「…………………」
キラキラとエフェクトがかかってそうな可愛らしい店内に、40歳のおっさんである俺は物凄い居辛さを感じてしまっていた。なんていうか、我ながら異物感が凄い。つーか、俺ってめちゃくちゃ浮いてないか??いや、完全に場違いだろ、俺??…って、そんな感じだ。
「……………」
幸いというか、当然と言うか、店内に俺以外の客は1人もいない。もしこれが普通の場所に建ってる店だったら、まず間違いなく若い女の子らが集団できゃっきゃしていただろう。そんな状況に飛び込んでいたなら俺は、一目散に回れ右していたはずだ。
客が誰も居なかったお陰で、俺はまだ、かろうじて立っていられる。嘘でも冗談でもなく俺は、この店内にそれほどの疎外感を感じていた。
ううう…それにしても…マジで居たたまれないんだが!?
「入口でグズグズして、ようやく入って来たと思ったら、まだそんなところに突っ立っているのか?」
「……………えっ?」
どうしたものかと立ち往生していたら、カウンターから若そうな男の声で話し掛けられた。驚いて視線を向けるとカウンターの内側には、顔だけで女性客を集客できそうな男が立っていた。店員?いや、店長か??にしても、やけに横柄な口の利き方だ。客商売なのに、そんなで良いのか??と、ちょっとだけムッとしてしまう。
「さっさと座ったらどうだ」
「えっ…あ、ああ……すみません」
内心ムカついたりしたものの、俺はこう見えて元来気弱な質なので、言われるがまま店内へと足を踏み入れた。
『さて、席はどうしよう?』キョロっと周りを見わたす。一寸考えた末、やはりあのファンシーなテーブルへ着く気になれなかったので、仕方なく3席だけあるカウンター席へと向かった。
もちろん、横柄な態度の店員?か店長からは、一番離れた椅子に座ったのであるが。
「しかし………」
猫カフェという割に、猫の姿が見当たらないな??
ファンシーな内装に度肝を抜かれていたせいで失念していたが、ここは一応猫カフェであるらしいから、店内には何匹も猫が居ていいはずなのに、今、見渡してみても先刻の白猫一匹しか見当たらなかった。
ちなみに件の白猫は、カウンターの上で丸くなっている。カウンターも猫も同じように白いから、保護色になってて一瞬気付かなかった。
「猫はこの子だけですか?」
気になって問い掛けてみる。すると、男はひどく怪訝な顔をして、
「何を言っている?猫なら周りにいくらでも居るだろう?」
と面倒くさそうに答えた。
「はあ……?」
そんなはず──と、半信半疑店内をもう一度見渡すと、
「………は??嘘だろ??」
信じられない光景が目の前にあった。
三毛、黒、サビ、茶トラ、キジ。
その他、呼び方も良く解らない毛色の猫が、店内のあちこちで思うままに過ごしていたのだ。
えっ??目の迷い??
警戒しすぎてて、うっかり見落としていた??
いや、待て。絶対にさっきまで、こんなに居なかったぞ!?
「そんな馬鹿な……」
「おい、注文はなんにするんだ?」
どう考えても突然、そこに現れたとしか思えない。
そんな猫たちに唖然としていたら、店主?から横柄に注文を聞かれた。
「え…え?あ、そうか…」
曲がりなりにもカフェなんだから何か注文しないとな。そんな当たり前のことに気付いて、渡されたメニュー表をめくってみる。うん。まあ、メニュー自体は普通…かな??若干、女の子向けの甘味が多い気もするが。客層を考えたらこんなもんなんだろう。……たぶん。
「カフェラテが500円か…」
「………ん?」
「え………?」
メニューの一つを目にして、適当にこれにするか?と声に出したら、途端に店主が不思議そうな顔をした。そして、俺の手にあるメニュー表を見るなり、
「おっと、しまった」
「………は?」
その瞬間、ひゅっと鋭い空気の乱れを顔の近くで感じた。んん??俺、今、なんかされた??
キョロキョロ見渡したが、特に何か変わった様子もない。気のせいか??と再びメニューに目を落とすと、
「……カフェラテ……1500円……??」
見間違いか??と、目を擦るが、よくよく見直しても確かにそう書いてあった。
えっ!?1500円!?いや、さっき見た時、絶対500円だったぞ!?
「あの……ひょっとして、今、メニュー表…すり替えました?」
「なんのことだ?」
まさかね?と思いつつ店主を疑いの目で見詰めるが、すっとぼけた顔で堂々と否定される。
確かにすり替える瞬間を見た訳じゃないから、これ以上追及するのは難しいが──でも、念のためにとメニュー表の表紙を見直したら、さっき見たものと色すら違っていたのだ。
うん。よし。気のせいなんかじゃない。
これはすり替えられたものに違いない。
「……………」
無言でじろりと店主を睨み付けるが、男は素知らぬ顔をしてそっぽを向いてしまった。




