あるサラリーマンの夜カフェ ④
入るべきかやめるべきか??
「う~ん……」
怪しさ満載の猫カフェ『猫神』の前で、俺は腕を組んで5分ほど真剣に悩んでいた。何故かと言うと──
「これは…わざと、なのか?」
入口と思しきドアには、営業中の札が掛けられている。が、しかし、入り口横の立て看板は可愛らしいフォントで書かれていたのに対して、何故だか入口のそれは、ホラー漫画なんかでよく見る不気味な古印体で。
まるで『入ってくんな』と言わんばかりの不気味な雰囲気を醸し出す札の威力に気圧され、俺は今更ながらドアの前で入店を躊躇してしまっている…という訳だった。
「……そういえば」
漫画だったか、小説だったかは忘れてしまったが。
昔、こんな話を読むか見るかした気がする。
ふと、脳裏に朧気な記憶が蘇ってきた。確かそれは、都会の路地の先の謎の屋敷…みたいな、そんな感じの不思議な話で──まあ、あんまりにも昔すぎて、どんな話だったかまるで思い出せないんだが。ああ、それかあれか。宮沢賢治の『注文の多い料理店』??…どうもこのボロ屋には、あんな感じの不気味さを覚えて仕方がない。
「電気は点いてるみたいだったけど…」
さっき白猫は猫ドアから入っていった。その瞬間、店内の明かりも漏れ見えたから、営業中なのは間違いないんだろう。
それまではこのボロ屋に、誰がが居る気配なんて微塵も感じなかった。
というのも、このボロ屋には窓が無かった──いや、近付いてよく見ると窓はちゃんとあるんだが、何故だか戸板ですべて塞がれてしまっていたのだ。
店舗らしくない作りにしても、さすがにこれは限度を越えている。
それゆえに俺は入店するのを、未だに躊躇してしまっていた。
かといって人気もない真っ暗な広場に、これ以上、1人きりでいるのは心理的に耐えがたくて。
「…………ええい、ままよ!!」
さらに5分ほど悩みまくってから、俺は、覚悟を決めてドアの取っ手に手をかけた。そのまま勢いよく開けようとして、『そんなことしたらドアごと外れるのでは!?』とハッとして咄嗟に力を抜く。
意を決して内開きのドアを押し開くと、店内から眩しいほどの光が溢れた。
「…………は??」
一瞬、光に眩んだ眼が回復したあと、外観を完全に裏切る店内の様子が俺の視界に入ってきた。
「………はああ??」
明るい光を放つお洒落な電灯。
白で統一された丸テーブルと椅子。
真新しいカウンター。
床と壁はこれでもかとファンシーな柄で。
さらに外からは塞がれてる窓は出窓になっていて、飾られた鉢植えに綺麗な花が咲いており、窓枠には可愛らしいレースのカーテンがかかっていた。
「なッ…なんだこれ……ッッッ???」
おどろおどろしい妖怪屋敷の中身が、ファンシーなサ〇リオハウスだった。
そんな外観とのあまりのギャップに、思わず呆れ声が漏れたのは言うまでもない。




