ある少年の猫カフェ⑩
「他の客って……」
どこに。
そうツッコミかけたが、慌てて口を紡いで店内へ入った。
まあ、入口を塞いでいては確かに迷惑だもんな。
他の客どころか、店の前を歩く人すら居そうになくても。
「適当に座れ。メニューはここだ」
「いや……あの、俺は……」
客じゃなくて迷子。ていうか、茶店で何か飲食する金は持ってない。なにせ今は学校の帰りで──あ、いや。そういえば、昼食用に貰った金があるにはあるか。
「ええと……」
いつもは弁当なのに、今日に限って母さんが寝坊して間に合わなかった。なので、学校の購買部で買うようにと、昼食代を多めに貰っていたのだ。昼飯に全部は使わなかったから、ほんの少しだけ残りがある。まあ、それも、茶店の飲食に使うには心もとないが…。
「カフェラテ150円??」
メニュー表を見て仰天した。どれもこれも安すぎる。飲み物の他に軽食やデザートもあるのに、全部、500円以下。某ファミレスでもこうはいかないだろ。なにせ今は令和だ。母さんがいつも『値上がりばかりして苦しい』とボヤいていたくらいなのだ。
「昭和かな?」
「ん?おお、間違えた。令和はこっちだ」
「…………は?」
俺がポツリと呟いたら、店主が動いて目の前で風が吹いた──ような気がする。
そして再びメニュー表を見た俺は、さっきのは幻かな??と思える価格に目を剥く。
「カフェラテ500円……??」
一瞬だけ目を離しただけなのに、目線を戻すとメニュー表の価格が変わっていたのだ。いつの間に。
俺はメニュー表を両手で持っていたし、すり替えられた感覚もなかったから、本当に目の錯覚かと思った。
「今、すり替えませんでした?」
「なんのことだ。カフェラテで良いんだな?」
「………………」
突っ込んだら店主はシレっとした顔でとぼけやがった。このやろう。
話は前後するが、俺は結局、3脚あるカウンターの椅子に座ったのだ。
いかにも女子向けなきらきらテーブルに座る勇気はなかったからな。
ここがまだしもマシ。
まあ、3脚あるうちの2脚は、椅子の上で猫が丸まっていたから、店主に一番近い席なのが難だったけど。
そう思いながら渋々座ったのに、こんな詐欺まがいの真似をされるとは思ってもみなかった。
文句の一つも言ってやるか??とも考えたけど、面倒になってきて黙ってメニューを閉じた。
「カフェラテで……」
幸い、残った金でギリギリ足りる。そう計算して俺は注文を済ませた。別に飲みたいわけではなかったが、店に入って何も注文しないのはマナー違反だしな。店主(?)には色々と聞きたいこともあることだし。仕方ない。
「……………」
店主は無言で頷くと、面倒くさそうに作業し始めた。
愛想ねえな。場所といい、大丈夫か、この店の経営??
他人事ながら心配になる。
俺は注文品を待つ間に、店内を観察した。
さすが猫カフェというだけあって、店内には様々な猫がくつろいでいる。大きさもまちまち。中には歩くのもまだヨチヨチな仔猫もいたりして、俺はぎゃおを拾った頃を思い出して胸が苦しくなった。
しかし、どんなに見渡してみても、ぎゃおらしい猫の姿は見当たらない。
「……いる訳、ないか……」
当たり前って言ったら、当たり前だよな。だって、ぎゃおは。
そう、口に出さずに考え、落胆しながら項垂れた時──
「なにを言っている。さっきから、お前の足元にいるだろう?」




