ある少年の猫カフェ⑨
「こんなとこに猫カフェ……って」
改めてもう一度回りを見渡す。人家どころか人工物の明かりすら見えない。まさに原野の一軒家だ。
風景は絶景と言って良いが、まず商売に向いてるとは思えない。こんなとこにわざわざ足を向ける物好きがいるはずがなかった。
「怪しさしかねえな……」
しかし中へ入っていった猫が気になる。アレは確かにぎゃおだった──気がする。
茶トラの猫なんて、珍しくもなんともない。
ただ、獣医の先生曰く、茶トラで雌っていうのは珍しいらしい。なんでも遺伝子の関係かなにかで、茶トラは雄の方が多いんだそうだ。変わっているとしたら、そのくらい。だからぎゃおは、見た目だけなら、よく見る猫で。
けれど、特徴的なその尻尾だけは違っていた。
ぎゃおの尻尾は、先端がくるっと曲がった、いわゆるカギ尻尾だった。
しかもその曲がり方が、本当になにか引っかけてくるんじゃないか?、いや、むしろ歩いていて自分が引っかかるのでは?というくらい、かくんっと直角に折れ曲がってたのだ。
「…………」
この怪しい喫茶店に入っていったのは、見事なくらいの折れ尻尾の猫だった。
あれほど見事な折れ尻尾の猫を、俺は、ぎゃおの他に見たことがない。
だからあれは、絶対に『ぎゃおだ』と思った。
そんなはずが、あるはずはないけど。
でも、もしもこれが夢で。
夢の中でも、もう一度会えるなら。
俺はぎゃおに会って、
ぎゃおを抱き締めて、
そしてぎゃおに謝りたかった。
「よし……入るぞ…!」
どのみち、他に行ける場所もない。
なにが待ち構えているかはわからないが、今の俺にこの店へ入る以外の選択肢なんて無かった。
ファンシー過ぎる外装に怯んでる場合か。
そう、躊躇う心を叱咤し、俺は、ドアノブすら可愛い店の入口を思い切り開いた。
ちりんちりん
開けた瞬間、これまた可愛い鈴の音が鳴り響いてビビる。
「うわあ………」
店の中に一歩踏み込んだ俺は、外装以上にキラキラした内装に思わず声が出ていた。
これは凄い。
ある意味、感心する。
俺は、こんな店内で、10分も居られる自信がなかった。
落ち着かないにもほどがある。
もう説明は省くけど、レースとリボンと可愛い物尽くし。
たぶん、女子でも引くほどのキラキラ度。
──ってことで、いかに凄いものか想像して貰えると助かる。
開いた口が塞がらない。
このままドアを閉めて外へ出たい。
そんな衝動に駆られていた俺に、
「さっさと入れ。入口をふさがれては他の客に迷惑だ」
やや呆れた様子の、ぶっきらぼうな男の声が掛けられた。




