ある少年の猫カフェ⑧
「ええと……な、なんだ、これ??」
目の前の光景が信じられずに、呆然としつつ頬を抓ってみた。痛い。夢じゃ、ない??
念のために太腿も抓ってみたが、やっぱりハッキリした痛みを感じられた。
じゃあ、これは現実、なのか??
改めて目の前の光景を見詰める。
どう見まわしてみても、のどかな自然の風景だ。ここがつい先刻まで住宅街だった、という事実がなければ、非現実性はほとんどない。
通路を抜けると広々とした草原──って、なんていうか、どこかで見たことがある展開だ。ええと、なんだっけ??昔見たアニメ映画??
「ジ〇リの世界かよ……??」
呆れながら今度はぐるりと360度眺めて──そうして、さらにおかしなことに気付かされた。
「う、嘘だろ……??」
俺の背後には当然、あの狭すぎる路地と、住宅街があるはずだった。
──それなのに。
背後には深い森。
なんていうか、漫画とかアニメでしか見たこと無いような、巨木のそびえたつ森があるだけだったのだ。
「帰れないじゃねえか……」
どのみち、俺が通るには狭すぎる路地で、戻れはしなかったかも知れないが。
目の前の森は深すぎて、迷う未来しか見えなかった。ということは、この有り得ない世界で、俺は前へ進むしかない訳で。つーか、よくよく見直してみると、草原の真ん中に一軒だけ家が建っていた。
「あそこへ行けってことか?」
なんか仕組まれてる気がしなくもないが──他に選択肢もなかった。
仕方なく覚悟を決めて一歩前へ出る。と、
「ぎゃお」
「…………ぎゃおッ!?」
そよいだ風に乗って、猫の鳴き声が聞こえてきたのだ。
慌てて周囲を見渡したが、猫の姿は見当たらない。しかし、ぽつんと建った家の玄関らしき扉が、小さく開いて閉じる瞬間が目に入った。そこがパタンと閉じる一瞬、ピンと立った猫の尻尾が見えた──気がした。
「ぎゃお!!」
気が付くと走っていた。さほどかからずに家の前へ着いた。慌てて扉を開こうとして、ふと、家の外装に目が釘付けとなり、そのあまりの様相にノブを掴んだ手が止まった。
「…………何だこりゃ…??」
改めて目の前の家を見詰め、そのあまりのファンシーさに戸惑う。
基本はログハウスっぽい木の家なんだが、装飾があまりにも可愛らしすぎた。男の俺が1人で近づくことを躊躇してしまうくらいに。
いくつかある出窓は、木製の格子枠で出来ていて、真四角じゃなくて上辺が丸い。その内側にはレースのカーテンが二重にかけられていて、それらをゆるく纏めているカーテン紐はどう見てもリボンだ。しかもフリルがこれでもかと付いてる。
窓辺には可愛いぬいぐるみが満載。他にも、女子が好きそうな花とか、置きものとか、窓ごとに違うものが置かれていた。目の前の入口にもよくよく見てみれば、窓と同じく格子枠のおしゃれなガラス戸で。入口前にも陶器製?のファンシーな置物がいくつもあった。
「…………猫カフェ?」
思わず後ずさって気が付いたが、入口横にはお店の看板が置いてあった。
それでここがカフェなのだと理解する。
猫カフェ「猫神」
それがこの奇妙な店舗の名前のようだった。




