ある少年の猫カフェ⑦
鳴き声が聞こえた。
「ぎゃお」
「…………え!?」
驚いて振り向いたが、猫らしい姿は見えない。
気のせいか??
おかしなループに巻き込まれて、どのくらい時間が経っただろう。
これはもう気のせいなんかじゃない。
絶対に同じところをぐるぐる回っている。
そう思った俺は、それを確かめるために自転車を置いて歩き始めた。そうしてすぐに家の角を曲がったところで、置いて行ったはずの自転車が前方に現れ異常な事態を認識する。
「どうなってんだ……」
数十メートルは歩いたはずだし、全然違う方向に曲がった。なのに、どうして。
呆然と自転車を見詰めていると、背後から猫らしき鳴き声が聞こえてきた。
しかも、それは──
「………ぎゃお!?」
怪獣みたいな独特な鳴き声。
懐かしい、ぎゃおの声。
忘れられない、失くした宝物の声。
俺の、大切な、家族の──声。
「ぎゃお…ぎゃおか!?」
思わず走り出していた。声のした方へ。すると、再び
「ぎゃお」
「…………っ!!」
後ろか!?
慌てて振り返るも、やはり姿は見えない。
けれど、俺を導くように何度も声は響き、その都度、俺は声の方向へ向かって走った。
「な、なんだ……この道!?」
無我夢中で追いかけているうちに、俺は、めちゃくちゃ狭い路地にハマり込んでいた。
おかしい。
最初は家と家の間にある小道、くらいの幅があったはずなのに、いつの間にか、体の方向を変えることさえ困難なほど狭い路地になっていたのだ。しかも、俺の背より少し高いくらいだった家の塀も、手が届かないほどの高さに変わっていて。しかも──
「嘘だろ……!?」
後ずさりしようとして気付いたが、前より後ろの方が狭くなっていたのだ。こんなことって有り得るのか…!?とかなり焦ったが、かくなる上は前へ進むしかなかった。
身体を擦り付けるようにして、前へ。前へ。
しばらくしてようやく、前方に開けた空間が現われた。
「…………っ!!」
ぶはっと息を吐くようにして、狭苦しい路地から飛び出す。
「………………え??」
飛び出した先は思いがけず広かった。
──って、いや、ちょっと待て。
マジかよ、なんなんだ、これ??
「ここ……ど、どこだよ?」
改めて言うけど、俺の住んでる町は閑静な田舎町だ。
というかついさっきまで、住宅街の真ん中を歩いていたはず。
それなのに今、俺の目の前に広がっているこの光景は──なんなんだろう??
美しく輝く、まん丸の月。
雲一つなく晴れ上がった夜空。
キラキラときらめく星々。
遠くに黒々とした山並みが連なり、どこまでも続く野原からは虫の声。
そよぐ風。草の匂い。
なんだろう。
空気の匂いまで違う気かする。
それは、どこかで見たような、懐かしいような、胸を締め付ける憧憬。
「……………ッ」
いかに田舎とはいえ、ここまでの光景は、ざらにない。
そんな美しすぎる自然が、俺の目の前には広がっていたのだ。




