ある少年の猫カフェ⑥
「復讐なんて、馬鹿なことを考えるんじゃない」
当時、父にはそう言われて反対されたし、母や姉にも眉をひそめて窘められた。
みんな、口をそろえて、ぎゃおの不幸は悲しいけれど、遺された俺のことの方が大事で大切。そう言って、俺が復讐に心を歪めることを心配してくれていたのだ。
その気持ちは良く解る。
俺だって逆の立場なら同じことを思うだろうから。
──だけど、でも──
それでも、やっぱり──
「うん………」
だから家族にはそう言って諦めた風を装っていたが、実を言えば今現在もその気持ちに変わりはなかった。
引っ越しして素性を隠し、何ごともなかったように生活し、犯した罪から逃れようとする犯人。
そんな卑劣な奴を、俺は決して『許せない」と思ったのだ。
今はどこにいるのか、今何をしているのか、なにもかも解らない状況であったとしても。
諦めなければいつか、犯人の男と巡り合うかも知れない。
儚い期待を胸に、俺は高校生になった今もまだ、放課後、日が暮れるまで、街中をあちこち自転車で走り回っていたのだ。
そうしてほんの稀に、今日みたいな出来事に遭遇すると、俺は何か考える前に走り出してしまっている。
「とにかくこの子猫の件は俺に任せておけ…犯人らについても、な。だから、お前はもう何もするな。もしどこかでやつらを見掛けても、けっして無謀なことはするんじゃねえぞ?」
「…………わかったよ」
佐野巡査の言葉に頷きはしてみせたものの、俺は完全に納得なんてしていなかった。
帰り道のどこかであいつらを見掛けたら、やっぱり殴りかかってしまうかも。
どうしようもなく湧き上がる怒りを、自制できる自信はなかった。
だってあいつらはそれくらい酷いことをしたのだ。
「ミャウ……」
小さなケージの中で震えている仔猫。
なにも罪のないこの子の兄弟を、面白半分で殺した非道を、あいつらは身をもって償うべきだ。
「…………こいつのこと、頼む」
「任せておけ。あと、お前は真っ直ぐ家へ帰るんだぞ?絶対だからな??」
しつこいくらいに念を押してくる巡査に背を向けて、無言のまま俺は派出所を後にした。
自転車を押して歩きながら、とりあえずは家へと向かう。
見慣れた田舎の住宅街。
日も暮れたせいで人通りもほとんどない。
なんだか世界に俺しかいないような静寂。
「………………??」
──変だな。
ふと、気付く。
いくらなんでも、静かすぎる気がした。
それに、歩いても歩いても、何故か、ずっと同じ光景が続いている。
「………ループしてる?」
まさか。気のせいだ。
ぼうっとしていたから、そんな感覚に陥っただけ。
なにかの漫画じゃあるまいし。
そう馬鹿馬鹿しく思いながら次の角を曲がると、やっぱり目の前にまるで同じ住宅街が続いていた。
「…………え?」
そして俺はこの後、突然、有り得ない世界に足を踏み入れることになったのだった。




