ある少年の猫カフェ⑤
あの日の哀しみを。
あの日の怒りと憎しみを。
俺は一時すら忘れたことはない。
「なんて惨いことを……!!」
「こんなの酷い…酷いよ…ッ」
俺が小さな遺体を持ち帰ると、家族は皆、ぎゃおの死を悼んだ。
惨い有様の遺体を囲んで、母も父も姉も泣いていた。
「これは事故なんじゃない…」
父は明らかにそうと解る様子に、翌日、警察へ被害届けを出しに行ってくれた。
すると、警察から父も知らなかった、ある情報がもたらされたのだ。
──ここ最近、動物の虐待死が町内で頻発している、と。
なんと、警察はすでに動物愛護法違反で捜査を始めていたのだ。
「なにしろ今は小さな動物だけに限られていますが、その矛先がいつ人間へ向けられか解ったものではないですからね…」
対応してくれた刑事は、父にそう言っていたらしい。
たしかに過去には、そう言った事例がいくつもある。
凶悪な殺人事件が起こる前触れ。
その可能性を秘めているからこそ、たかがペットの虐待死と侮らず、警察も緊張感をもって動いてくれていたのである。
そのおかげか、ぎゃおの死から数週間後、犯人は逮捕された。
──未成年者だった。
「面白かったから」
取り調べでそいつは、そんなようなことを言っていたらしい。
「なんだと……っ!!」
ふざけるな!!と思った。
面白かった、からだと!?
ぎゃおが鳴き叫んだり、暴れて苦しがってる様子が、面白かっただと!?
「同じ目に合わせてやる…!!」
蹴ったり、殴ったりしただけじゃない。
そいつは面白半分で、ぎゃおに刃物を突き立てたりもしていたのだ。
どんなにつらかっただろう。怖かっただろう。
どんなにか悲しかっただろう。苦しかっただろう。
ぎゃおの感じた痛みや苦しみを思うだけで、俺は自分が切り刻まれるほど胸が苦しかったのに。
そんなぎゃおの様子を見て、そいつはゲラゲラ笑っていた、というのだ。
「絶対に同じ目に合わせて…ぎゃおの苦しみを味わわせてやる…!!」
俺はそんな発言を耳にして、ますます怒りが込み上げてきた。
「犯人の名前を教えてくれ!!」
と俺は捜査官に詰め寄ったが、未成年者ゆえにその名も素性も伏せられた。
その後、家庭裁判所で裁判を受けた犯人。
週刊誌などの情報しか解らなかったが、空々しく泣いて反省の言葉を口にしていたらしい。
こんなの、絶対に嘘だ。
そう思ったのは、きっと俺だけじゃない。
そうして確定した罪も、俺たち家族からしたら、信じられないほど軽かった。
なんと犯人は少年院すら入らなかった。
反省の様子が見られたから、という理由で、保護観察が付けられただけ。
絶対にこんなの、間違ってる。
弱いものに手を上げることに、快楽を覚えるような輩が、数年で更生するだなんて誰が信じる!?
こいつはまたいつかきっと、同じことを繰り返す。
俺はそう確信した。
だから警察が教えてくれない犯人の素性を必死に調べた。
そもそも、こんな田舎のことだ。
どこかの家庭に何かあれば、近所で噂されるに違いない。
それに最近ではネット内に、警察も舌を巻くような特定班だっている。
俺には解らなくても、誰かがきっと、犯人を特定してくれるに違いない。
そう考えていた通り、逮捕から数日も経たないうちに、犯人の身元がネット内で晒された。
驚いたことに、そいつは数軒隣に住む中学生だった。
俺も何度かすれ違ったことがある。
大人しくて無害そうな、覇気のあまり感じられない男。
こんなやつが近所にいただなんて。
背筋が寒くなると同時に俺は、目と鼻の先にいる犯人に対して、復讐の機会を得られた、と思った。
「ぎゃおの敵を討つんだ……」
だが、そんな覚悟を胸に訪れた犯人の家は、すでに売り家となっていたのだった。




