ある少年の猫カフェ④
あの日のことを後悔しない日はない。
それは中学卒業を控えたある日の夕方。
俺はうっかり玄関を開けっぱなしにして出かけてしまい、その間に、ぎゃおが外へ出てしまったのだ。
「ぎゃおが居なくなった!?」
出先から帰って緊急事態に気付いた俺は、ドアが閉まっているかどうかも確認しなかった自分を責めた。
「いいから、きなこを探すよ!」
「きなこじゃなくて…いや、う……うん!」
俺と姉は2人で手分けして家の周囲をぎゃおを探して走り回り、母はその間、ぎゃおの好きなカリカリを庭に置いて、ぎゃおが釣られて帰って来るのを待っていた。
けれど、どんなに探してもぎゃおの姿は見つからなくて。
「いったいどこ行っちゃったんだ…」
いつもなら俺の声を聴いて飛んでくるのに。どんなに大声でぎゃおの名を呼んでも、なんの反応も帰っては来なかった。心配で不安で嫌な予感がして、じっとしていると胸が圧し潰されそうだった。そうして時間が経つにつれて、その胸の不安は大きくなるばかりで。
気が付くとすっかり日が暮れて、周囲は真っ暗になっていた。
住宅街の明かりはぽつぽつと乏しく、最悪なことに空に月も出ていなかった。
懐中電灯を持って出直そう。
そう考えて空き地の前を歩いていた時。
「………ぎゃお?」
なんだろう。何かに呼ばれた気がした。
俺は一筋の希望を胸に、暗い空地へ足を踏み入れた。
「……嘘、だろ……」
空き地の隅に、ソレ、はあった。
茶色の縞模様。
赤い首輪。
ふわふわとして柔らかそうだった体は、今はなんだかとても硬そうに見えて。
四肢の伸びきった姿勢のまま、ピクリとも動かない。
「ぎゃお……嘘だろ…じ、冗談…だよな…」
嘘だ嘘だ嘘だ。
きっとこんなの悪い夢だ。
起きながら夢を見てるに違いない。
俺は目の前の現実が信じたくなくて。
現実とは思えなくて。
無意識に自分を騙そうと必死になっていた。
だけどそれは、嘘偽りのない、残酷すぎる現実で。
「………ぎゃお…ッッ」
打ち捨てられた猫の遺骸。
それはどこからどう見ても、俺の愛猫、ぎゃおの、変わり果てた姿だった。




