ある少年の猫カフェ③
小学生低学年だった頃に、俺は、道端で鳴いていた子猫を拾った。
「仔猫だ…なんでこんなところに…」
茶トラの小さなそれは、親猫からはぐれたのか、薄汚れて痩せ細っていた。
驚きつつ見ていたら、仔猫はよたよたと歩いてきて、すりすりと俺の足に纏いついてきた。
「お前…かーちゃんはどうしたんだ?」
「ぎゃお」
「怪獣みたいな鳴き声だな…」
可愛い見た目に反して鳴き声が汚かったそいつを、しばらく悩んだ末、俺は両手で抱えて家へと連れ帰った。
「あらやだ可愛い~!!」
家へ入るなり速攻母に見つかり、仔猫は奪い取られてしまった。
「こいつ、飼っていい?」
「良いけど、まずは病院ね!」
反対されるかと心配していたが、母の即答に拍子抜けしたのを覚えている。
「良かったな、おまえ」
『ぎゃお』
その後、母と一緒に動物病院へ行ったり、万一のため(誰かの飼い猫の可能性もあるから、だって)にと、警察へ届けに行ったりもしたが、無事、その茶トラの仔猫は俺の家の飼い猫となった。
「きなこが良いわね」
「女の子らしいし、良いんじゃないか?」
「見た目が美味しそうだもんね」
父母も1つ上の姉もそう言って、仔猫に可愛らしい名前を付けたがった。だが俺は、鳴き声にちなんだ『ぎゃお』という名前を付けたいと譲らなかった。もちろん家族みんなから反対されたし、なんなら俺以外は皆『きなこ』と呼んでいたけれど。なぜだか仔猫は俺が呼んだ時だけ返事をした。
『ぎゃお』と。
仔猫らしくない汚い鳴き声で。
成長しても変わらないその鳴き声に家族は、声帯でも痛めているのかと心配していたが、獣医さん曰く『個性です』とのことで心配はいらないようだった。
とにかくぎゃおは俺に一番懐いていた。
俺が学校から帰ると、いつも玄関で待っていた。
寝る時はいつも俺のベッドの上へきて、俺の枕を我が物顔で占領していた。
ソファに座ってゲームしていると、ぎゃおはすぐに飛んできて膝の上で丸くなった。
俺は、そんなぎゃおが可愛くて仕方がなかった。
「湊だけずるい!!」
1つ上の姉、蘭はそう言って不貞腐れたが、ぎゃおは常に知らん顔をしていた。
そういうところも可愛いと、姉は憤慨しつつも悶えていたけれど。
8歳だった俺が12歳になるまで、ぎゃおは我が家のアイドルだった。
父も母も姉も、そして言わずもがな俺自身も、ぎゃおが可愛くて大切だった。
今思い出しても、猫のいる暮らしは幸せだったと思う。
なにか辛いことがあっても、ぎゃおの姿を見ると癒された。
父も母も姉も、同じことを言っていた。
「これからもずっと一緒にいような」
窓の近くで日向ぼっこするぎゃおを撫でながら言うと、
『ぎゃお』
大きな目を細めて気持ちよさそうにぎゃおは鳴いた。
その時の俺は、こんな日々がずっと続くと信じていた。
俺が13歳の春。
突然の別れが来るまでは。




