ある少年の猫カフェ①
「お前なぁ…いい加減にしておけよ?」
「……………」
そう呆れ顔で言いながら手にした救急箱を開け、俺の手や顔についた擦りキズを手当てしてくれているのは、昔から顔馴染みの警察官だ。と言っても、そろそろ定年近いおっさんで、俺の家の近所の『駐在さん』を、少なくとも5~6年は勤めている。
「そりゃ、お前がやってることは確かに良いことだ…だが、やり過ぎはいかん」
「……………」
慣れた手つきで傷口を消毒し、絆創膏を貼ってくれるが、治療の間も説教は止まらなかった。
「あいつらが悪い…」
聞き飽きた説教に不貞腐れて、思わず俺は呟きを漏らす。
「そんなこたぁ解っとる。弱い者いじめするような人間は性根が腐っとるからな」
おっさんはそんな俺の呟きを肯定しつつ、『それでも暴力はいかん』と諫めてくる。
「だったら見て見ぬ振りしろってのかよ」
「誰もそんなことは言うておらん。ただ、もう少し頭を使えと言うとるんだ」
とっさに殴りかかるだけが手段ではない、と、おっさんは救急箱をしまいながら言った。
「……………」
言われなくてもそんなことは解っている。
だけど、現場を見たらつい、頭がカッとなって。
どうにも止まらなくなるのだ。
無言で宙を睨み付けたあと、俺は駐在所の隅に置かれたケージへ視線を巡らす。
中には今回の『被害者』である小さな『毛玉』が、こちらを警戒した目でじっと凝視していた。
「ああ…その子なら心配いらん。念のため、あとで病院へは連れて行くが、怯えているだけでケガもない」
「そっか………」
ホッとして息を吐く。そんな俺の様子も知らぬげに、仔猫は一丁前に俺を威嚇してきた。無理もない。人間の手で恐ろしい目にあわされかけたのだ。そうそう簡単に信用出来る訳もない。
ほんの数十分前のことだ。
河原で数人の男が何かを囲んで騒いでいた。
中学生…いや、あの制服は俺と同じ高校生か。あんなところで何をしているんだろう??
なんとなく嫌な気がして土手の上から様子を見ていたら、男らは小さな何かを紐(?)で縛って、川の水につけたり引き揚げたりしているのが解った。
最初、手作りの竿で釣りでもしているのかと──そう、思ったのだけれど。
ミィ
けれど、風に乗って小さな鳴き声が聞こえた、その瞬間。
俺は男らに向かって走り出していた。




